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「新歌謡」の完成型を見せた一青 窈の歌世界

一青 窈 | 2010.12.10

一青 窈 Tour 2010「おかわりありませんか」2010.10.30(SAT)@パルテノン多摩大ホール

「新歌謡」の完成型を見せた一青 窈の歌世界

季節外れの台風による激しい雨が降り続いた10月30日。パルテノン多摩の場内へ続く扉を開けると、ステージ上に静かに佇むレトロな3本の電灯が見える。昭和の装いが感じられる風景は、もの寂しげだが、どこか温かみがあり、外の荒れ模様を忘れさせてくれるかのようだ。
時刻は18:00。「一青 窈 Tour 2010“おかわりありませんか”」ファイナルが、まもなく始まる。

ブルーのライトに照らされたステージに、スパンコールを散りばめたノースリーブのワンピース姿で一青 窈が登場。場内から湧き上がる溢れんばかりの拍手を全身に浴びながら深くお辞儀をし、1曲目の「つないで手」を歌い始める。

2010年全国ツアー第2弾「おかわりありませんか」は、5月22日から主要都市11ヶ所を巡った全国ツアー第1弾で訪れることのできなかった街へ行く、という本人の思いが実現したものだ。ツアータイトルには、“皆さん、お変わりありませんか?”と、“(ツアーを)もういっちょおかわりいかがですか?”の2つの意味がこめられているのだという。また、第1弾ツアーに来場したお客さんも楽しめるよう、バンドスタイルではなくアコースティック形式で演奏を行なってきた。

グランドピアノやアコースティックギターに加え、カホンやウィンドチャイムなどのパーカッションの音色に乗せて、「影踏み」「栞」を続けて披露。そして、アンコールワットを訪れた際に出会った実物の花を知らない子供たちが、はじめて花を目にして歓喜したように、フレッシュな気持ちが伝わるといいと思う、というMCの後、「はじめて」を歌う。モニターに腰をおろして歌う彼女の顔に、子供のような無邪気な笑顔が浮かんでいた。

中盤に差しかかる頃、ステージ袖から運ばれてきたのは『スナック 窈』と書かれた看板。それにライトが灯り、一青 窈やバンドメンバーたちが手に持ったグラスで乾杯をすると、ステージはスナックに様変わり。「好きな歌謡曲を歌わせていただけますでしょうか」と、ママである一青 窈は、ちあきなおみの「喝采」、そして「阿久悠さんの歌詞が好き」と語って岩崎宏美の「思秋期」を歌う。さらに灰田勝彦の「東京の屋根の下」まで、3曲を披露した。続いて「新歌謡(進化窈)」がコンセプトである最新アルバム『花蓮街』より「凧揚げ」「上の空」「Final Call」を艶やかに歌い上げた。

『スナック 窈』のライトが消え、歌謡曲コーナーが終わると、本編クライマックスに突入。「もらい泣き」「ハナミズキ」といった彼女の代表曲が演奏されると、席に座っていた観客は、次第に立ち上がり始める。艶のある歌唱力は終始ブレることなく、満員の観客を魅了し続けていた。

アンコールでは、白いチャイナドレスで再登場。ふいにステージから降り、観客と近い距離でコミュニケーションをとる。デビュー10周年を目前にした彼女は、ファンサービスも忘れない。今ツアーのラストナンバーとなったのは、「うんと幸せ」。一青 窈は、言葉を一語一句丁寧に紡ぎ、観客1人1人へ幸せを注ぐように歌っている。そう確信したのは、演奏終了後の観客たちのスタンディング・オベーションを目にした瞬間だった。

この日、19曲を披露し、「一青 窈 Tour 2010“おかわりありませんか”」は“閉店”となった。この日、彼女は言った。「みなさんの毎日がうーんと幸せでありますように」。パルテノン多摩の外に出ると、いつの間にか台風が過ぎ、雨上がりの街には温かな風が吹いていた。まるで、帰路につく観客の満足そうな表情のように。

【取材・文:橋本 恵理子(EMTG MUSIC)】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 一青 窈

リリース情報

花蓮街

花蓮街

2010年04月21日

フォーライフミュージックエンタテインメント

1. ~壁の向こう側~
2. メイク
3. coup d'etat
4. 確信犯
5. ウラ・ハラ
6. Dolce
7. ほおずき
8. 上の空
9. サイコロ
10. Final Call
11. 冬めく
12. ユア メディスン~私があなたの薬になってあげる
13. 凧揚げ
14. ~壁のこちら側~
15. うんと幸せ

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