09年5月2日に帰らぬ人となった清志郎の代わり に、そう呼びかけて還暦になったチャボを祝おうと、幹事を買って出たのが寺岡呼人。同題のリスペクト・アルバムを企画し2月23日にリリース、そこに参加した面々と共に3月5日、ZEPP東京で盛大なライヴを行なったのだ。冒頭、ステージに登場した寺岡は、「ここに参加したアーティストはチャボの子供たち。親の還暦を祝えるなんて、こんな嬉しい事はない」と挨拶。続いて、「ギブソン」で会場を一気に緩ませたザ・クロマニヨンズをトップバッターに、前述のアルバムに参加した12組が、次々に登場した。

　フォーク、ロック、ブルース、R＆B、ソウル・ミュージックと、歴史を踏まえた知識と自らの経験を擦り合わせ、熟慮した言葉を紡いで行くチャボの曲は、実に多彩だ。72年にデビューした加奈崎芳太郎とのフォーク・デュオ「古井戸」の曲、その頃から親しかった清志郎に誘われ加入したRCサクセション、そして今も続くソロ作品。蘭丸こと土屋公平との麗蘭も、忘れてはいけない。

　古井戸時代の曲は、曽我部恵一「さなえちゃん」を楽しく切なく弾き語って 曲の味わいを伝え、TRICERATOPSは叙情的な「ポスターカラー」をロックアレンジで新鮮に聴かせた。幹事の寺岡はソロ作の「ティーンエイジャー」 を熱唱し、「今夜R＆B」でチャボが敬愛するブルースマンの名を連呼するようにチャボの曲を連呼して、思いを伝えた。RCナンバーでは「チャンスは今夜」を、この夜のハウスバンドと共に骨太な演奏で聴かせた奥田民生が圧巻。ちなみにバンドは、寺岡呼人(G, Cho)/ 土屋公平(G)/ 佐藤タイジ(G)/ 林由恭(B)/ 河村“カースケ”智康（Dr）/ 伊東ミキオ(Key)というラインナップ。いずれもチャボと縁のある人たちだ。

　そのバンドと共に、飄々と「うぐいす」を歌った斉藤和義、「魔法を信じるかい？」でキュートな唄で和ませた紅一点Leyona、声で伝える歌の存在感を 見せた岡本定義と山崎まさよしのデュオさだまさよし、言葉の鋭さを「ガルシアの風」で伝えた浜崎賢司は、ソングライター仲井戸麗市をクローズアップした感がある。また、TRICERATOPSと共に「別人」を歌った吉井和哉、三線や和太鼓の「ユカタン半島」を引き連れ着物姿で「唄」を歌った宮沢和史、まったりと「慕情」を歌ったYO-KINGは、自分と曲のすり寄せ方が絶妙だった。

　出演者の殆どは、80年代後半のバンドブームに活動を始めた世代。あの時代のお手本がRCサクセションだった。そんなことを思い出させながら、それぞれのキャリアを感じさせる歌と存在感が光っていた事は言うまでもない。それは、この夜のMCを務めた竹中尚人も同様だ。古井戸時代からチャボのファンだったという竹中は、「ポスターカラー」の暗誦や、口笛で「Across The Universe」を吹くなど、緊張と喜びを全身で表しながら進行役を務めた。

　終盤にはチャボが登場し、弾き語りの「いいぜbaby」からバンドとの「HUSTLE」、RCの名曲「ハイウェイのお月様」、そして人生のテーマという 「早く帰りたい」を熱演。アンコールではハードな「打破」を手始めに、出演者全員を呼び込んでRCスタンダード「雨上がりの夜空に」を歌い、「サンキュー、キヨシ！」と天を指差した。そして「もう1曲やらせてくれ」と、麗蘭の「GET BACK」を共演、最後に並んで礼をした後、寺岡が赤いベストをチャボにプレゼントし、「WOnderful World」が流れる中、一人一人とハグして送り出すチャボの目には光るものが。今も清志郎とともにいるチャボと、彼を敬愛するアーティストたちの暖かい 思いに溢れたステージだった。

【 取材・文：今井智子 】