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空間性を活かし、我々を支配し、解放へと誘った、sleepy.abの劇場ライブ

sleepy.ab | 2011.05.16

 この日のライブ中、”やはりsleepy.abの音楽性は天井が高く、座ってゆったりと見れる会場が似合うなぁ...”と何度も思った。
彼らの音楽は、けっしてストレートに飛び込んでくるものばかりではない。包み込んだり、こみ上げたり、突き上げられたり、降り注いできたりの音世界も多分に擁している。自分自身は聴き浸っているだけなのに、回りの風景や物語は次々と移り変わり、うつろいでいく。そう考えると、以前行われたキネマ倶楽部といい、今回のこのグローブ座といい、彼らの紡ぐその物語に浸るには、これぐらいのキャパシティや距離感、天井の高さを持つ劇場は最適な場所と言える。
 そんな今回は、今年2月に発売されたニューアルバム『Mother Goose』の発表ツアー。あの作品中に擁されていた、酸いも甘いも、光も影も、兆しも陰りも、温かみやひんやりさも有した、sleepy.abなりの「わらべうた」たちが、この空間と各々の楽曲の物語性や世界観を通し、時に我々を支配し、時に我々を解放へと誘った。

 ギター&コンポーザーの山内が制作した環境音楽のインストが、静かに、穏やかに、彼らの登場を待つ会場に流れている。この時点から会場は、どことなく映画や演劇が始まる前に似た、いささか厳かな雰囲気に包まれている。
1ベルが鳴り、しばらくすると場内が暗転。ステージ後方のスクリーンに、まずはバンドロゴと木馬座を思わせる影絵とツアータイトルが映し出される。ほぼ同じくステージ天井からU字に垂らされた電飾に灯りが点き、そのファンタジックな空気の中、メンバーが登場。
まずはガツンとした演奏と共にボーカル&ギターの成山が「マザーグース」を歌い出す。電飾が照明代わりの良いアクセントを見せる中、ドラムの津波が安定感のある8ビートを刻む。相変わらずステージ中央にセットされた椅子に座り、無数のエフェクター類を駆使し、独特の音像を放つギターの山内。彼のギターによる寄せては返すノイズの洪水が、会場に静かなる激情を育んでいく。続く「アクアリウム」では、ステージバックのカーテンに移し出された気泡の映像と、バンドが放つ沈殿っぽさ、そして、ラストに向けてのカタルシスが、移り変わるバックの映像物語とベストマッチを見せる。

「札幌からきましたsleepy.abです。『Mother Goose Tour』へようこそ」と軽く成山が挨拶。続いて、成山もアコギに持ち替え、ベース田中のウワモノ的なベースループも印象的、会場を森林へと迷わせた「ドングリ」、津波のスネアにアクセントをつけたドラミングと共に、上向きに歌われた「メロウ」、成山のつまびきと山内のアンサンブルも特徴ありな「街」と、ニューアルバムからの曲とこれまでの楽曲が上手い融合を見せ、一つの大きな物語を形成していく。

 ここで田中がMC。ツアーファイナルへきてくれたことへの感謝、そして、それをこのライブでお返しすると力強く約束。「今日は『Mother Goose』の世界にどっぷり浸かって下さい」と締め、再びライブに。

 中盤に入ると、よりディープな世界へと誘った彼ら。ファットなベースラインと、リヴァーブやディレイによるダブ色の強い「四季ウタカタ」、ボーカルもノイジ―にエフェクトされ、プレイ全体にもスリリングさがみなぎった「インソムニア」、赤と白だけで成された照明が、血のたぎりを彷彿させた「現実の箍」、激しい嵐と、その水の底の静けさの連鎖や対象を想い浮かばせた「Maggot Brain」と、たゆたく浸らせる世界観のみならず、緊張や緊迫が、ライブという大きな物語にメリハリを加えていく。
 また、ニューアルバムでの明るさを担った「シエスタ」「君と背景」では、作品上のブリリアントさも更に明るく、伸びやかに。「ダイバー」「sonar」といった過去作からの楽曲も、ことさら光源へと向かい、上向き、上昇感を聴く者に与えていった。そういった神々しさの反面、「flee」や「トラベラー」では、ダイナミックさとスリリングさ、そしてサイケデリックさが会場をグイグイと惹き込み、特に「flee」でのアウトロはまさに圧巻。かなりのカタルシスを我々に与えてくれた。
 そして、本編ラストでは、楽園ライクな映像をバックに、幻想さ溢れる、明かりや光もしっかりと窺える、こちらも新作からの「かくれんぼ」がプレイされる。

ダブルアンコールでの静かなる激情ナンバー「Scene」も含め、計3曲のアンコールをサービスしてくれた彼ら。ドリーミー且つ幻想的な世界が会場を包んだ「夢織り唄」、雄大さと幻想さを保ちながらも、ラストに向けて激しくなっていく成山による「24」へのカウントアップが、1数字上がる毎に演奏の激しさや照明の光量のアップと共に、観る者にカタルシスを与えた「24」が放たれる。この「24」のラストには、ここまでずっと頑なに座ってギターを弾いていた山内も感極まり立って激しくプレイ。会場中に感嘆を残し、彼らは去っていった。

 歌、演奏、音像、曲の流れや照明、バックに映し出される映像類等々、この日の彼らはまさに、<見る>よりは、<観る>の表記が似合うライブを展開してくれた。そして、我々はその彼らの放つ物語に完全に身を委ね、心地良い観劇感に終始包まれていた。観劇後、思い返す度にジワジワと込み上げるように蘇ってくる感動が、ちょっとした幸せ気分を伴い、じんわりと身体を包んでいた。

【 取材・文 池田スカオ和宏 】

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リリース情報

Mother Goose

Mother Goose

2011年02月23日

ポニーキャニオン

1. 街
2. ドングリ
3. 君と背景
4. マザーグース
5. かくれんぼ
6. Maggot Brain
7. エトピリカ
8. シエスタ
9. way home
10. トラベラー
11. 夢織り唄
12. アルフヘイム

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セットリスト

  1. マザーグース
  2. アクアリウム
  3. ドングリ
  4. メロウ
  5. 四季ウタカタ
  6. インソムニア
  7. 現実の箍
  8. Maggot Brain
  9. シエスタ
  10. 君と背景
  11. メロディ
  12. ダイバー
  13. sonar
  14. トラベラー
  15. flee
  16. 遊泳スローモーション
  17. かくれんぼ
  18. Encore
  19. 夢織り唄
  20. 24
  21. Double Encore
  22. Scene

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