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小雨降る日比谷野音で行った、SPACE SHOWER TVのイベント「VOICES」

SPACE SHOWER TV presents VOICES | 2011.06.14

 小雨が降りしきる日比谷野音に色とりどりのレインコートが揺れる。ステージには木やトナカイを形どったカラフルなオブジェが並び、小鳥のさえずりが響いている。なんとも和やかなムードのなか、“声”と“ことば”にスポットを当てるSPACE SHOWER TVのイベント「VOICES」が始まった。

 「雨の野音が憧れだったんです」。ギターを抱えてひとり登場した星野源は、そう言ってASKAのヒット曲「はじまりはいつも雨」を歌いだした。部屋でギターをつま弾きながら歌うように、自然な佇まいで。でもこれは“自然体”とはちょっと違うんだよな、と2曲目の「歌を歌うときは」を聴きながら思う。この曲で“想い伝えるには 真面目にやるのよ”と歌うように、彼はシャイな性格を押して、しっかりと客席を見つめて歌う。マイペースなようでいて、表現というものにまっすぐ向き合ったシンガーなのだ。

 4曲を披露したところでバンドが迎え入れられる。メンバーは、池ちゃんこと池田貴史(Key)、WATER WATER CAMELの須藤剛志(B)、赤い靴の神谷洵平(Dr)。ズンズンと腰にくるリズムと言葉の抑揚が手に手を取り合ってハネる「湯気」はとくにライヴ映えする1曲だ。軽やかなカッティング・ギターから始まる「穴を掘る」は池ちゃんの転がるようなファンキー・ピアノが炸裂。仲間に囲まれた星野源の歌声も、ちょっぴりうれしそうに高揚しているのがわかる。MCでは「雨の野音なんてロマンチックだよね。隣に付き合いたい人がいたら告っちゃいなよ」という星野源の無責任発言に、池ちゃんが「中学生かよ」と突っ込むシーンも。

 最後は再び、ひとりきりで弾き語り。「3月にシングルを出したんだけど、震災後からは歌詞(の内容)が変わって聞こえることがあって。その中でもこの曲はとくに変わったねって言われる曲です」と言って歌い始めた「ブランコ」が胸に染みた。“だけど死ぬのは怖いし できれば未来は見たい”。なんて正直な言葉だろう。この小さな願いの歌に大きく共感するように、誰もが静かな歌声に聴き入っていた。

 続いてハンバートハンバートの登場。ぶらりとマイクの前に立った佐藤良成がおもむろにギターをかきならし、吉田拓郎の「たどり着いたらいつも雨降り」のサビを歌い出す。まるで路上ライヴみたいなノリに会場は大盛り上がり。そして1曲目は、ふたりの歌の掛け合いで物語を紡ぐ「おなじ話」。静かな別れの風景を語る淡々とした歌声が、薄暗い空に溶けこんでいく。
 さらに「さようなら君の街」をしっとり歌いあげたところで佐藤がギターをヴァイオリンに持ちかえ、バンドを迎え入れる。メンバーは坂田学(Dr)、安宅浩司(ペダルスティール他)、井上太郎(マンドリン)。さっきのおだやかなムードからは一転、ここからは赤いライトの下、ディープな世界が広がっていく。男目線の無骨な言葉を佐野遊穂のやわらかな歌声がなぞる「何も考えない」は、その不思議なミスマッチ感に背筋がゾクッとする。オリエンタルなムード漂う「荒神さま」と「波羅密」は、ハンバートハンバートならではのちょっぴり怖くて、どこかファニーな世界が全開。坂田学の躍動的なドラムが、どろどろとした不穏な空気を盛り立てる。

 MCでは佐野が「今日さ、ハーモニカを忘れちゃって。気をつけなさいって言われるけど、気をつけることを忘れちゃうんだよね」とのんびり語れば、佐藤が「俺ね、昨日1週間ぶりにシャワー浴びたんだよ」と衝撃の(?)告白。そんなとりとめのない話で和んだ後、新曲の「みじかいお別れ」を披露。夕暮れ空を思わせるレイドバックなサウンドに乗って、佐野の包容力ある歌声がおだやかなメロディを紡ぐ。うってかわって佐藤がリード・ヴォーカルをとる「虎」は、酒に逃げる男の愚痴ソング。その歌声は開き直ったような明るさがあり、あっけらかんとしている。こんなふうに人間の美しさも情けなさもまるっと飲み込んで歌うのがハンバートハンバートの魅力。ラストの「罪の味」?「アセロラ体操のうた」では生命力が爆発したような佐野の歌声に、観客も大きな歓声とダンスで応えていた。

 アンコールではハンバートハンバートと星野源がステージに上がり、たまの「さよなら人類」をカヴァー。3人の歌がまったりと溶け合い、歌詞の情景が鮮やかに頭に浮かんでくる。正直、こんなに深い歌詞だったっけと驚くほど滋味あふれる歌になっていた。そう、この2組はメッセージを声高に叫ぶタイプじゃない。つまんなかったり、くだらなかったりする日々を、そのまんま飾り気なく歌い、ときに辛らつなことも言う。だからこそ彼らの歌う日常は私たちの日常にすっと寄り添って、小さな喜びや幸せをかいま見せてくれる。そのさりげなくもあったかい“声”と“ことば”の力をしみじみ感じる一夜だった。

【取材・文 廿楽玲子】

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セットリスト

星野 源

  1. はじまりはいつも雨(カバー)
  2. 歌を歌うときは
  3. キッチン
  4. ばらばら
  5. グー
  6. 湯気
  7. くせのうた
  8. 穴を掘る
  9. 茶碗
  10. くだらないの中に
  11. ブランコ
  12. 老夫婦
  13. ハンバートハンバート

    1. おなじ話
    2. さようなら君の街
    3. 何も考えない
    4. 荒神さま
    5. 波羅蜜
    6. みじかいお別れ
    7. 国語
    8. オーイオイ
    9. 好きになったころ
    10. 罪の味~アセロラ体操
    11. ラストセッション ハンバートハンバート×星野 源

      1. さよなら人類(カバー)

INFORMATION

『SPACE SHOWER TV presents VOICES』
【放送日時】
 
  • 初回放送
  • 6/29(水)22:00~23:00
  • リピート
  • 7/3(日)20:00~、7/8(金)24:30~、7/11(月)20:00~、7/16(土)26:30~、7/24(日)25:30~

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