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チャットモンチー、中野サンプラザ。ユーモアの向こうに見える進化と真価。

チャットモンチー | 2011.07.05

チャットモンチーの、4月にリリースされた4thアルバム『YOU MORE』をひっさげた全国ツアー“YOU MORE 前線”。その東京公演となる中野サンプラザ2Daysの二日目に足を運んだ。

客電が落ちると、『YOU MORE』のジャケットが映し出されていた白い幕に、茶目っ気たっぷりにポーズをキメる3人のシルエットが浮かび上がる。大歓声の中、するすると幕が上がると、まず目に飛び込んできたのは、高橋久美子(Dr)の下にある、ケーキみたいなドラム台。次の曲では、橋本絵莉子(G&Vo)と福岡晃子(B)も、前に出てきて笑顔で大きく手を振る。耳にも目にも鮮やかな、チャットモンチーのショウのはじまりだ。

 それからは、『YOU MORE』の収録曲に、これまでのキラーチューンを織り交ぜた、鉄板なセットリストで、テンポよく進行。加えて『YOU MORE』を具現化したライヴだけに、楽しい仕掛けも飛び出してきた。特に、『謹賀新年』と『バースデーケーキの上を歩いて帰った』。『謹賀新年』では、3人がお揃いのハッピを羽織り、高橋が和太鼓を叩くと、ステージ中央に鈴紐(つまり、神社で鈴を鳴らす時に振る紐です)がおごそかに降りてきた。それを橋本と福岡が振ると、ジャランジャランと鈴の音が! そして客席も含めてみんなでお祈りしてから演奏に入るという、この曲だけの、しかも一体感を増す流れがあったのだ。それは『バースデーケーキの上を歩いて帰った』についても言えることで、「今日が誕生日の人?」と問い掛けて花をプレゼントし、演奏中にはサビで誕生日の人たちは花を振り、他の人はその人たちに向けて手を叩くという、その場の全員が出演者になれる一幕を彼女たちは用意していた。どんなゴージャスな演出よりも大掛かりな、チャットモンチーとチャットモンチーを愛する人たちだからこそできる、素敵な演出だった。

 そのアットホームな空気は、長尺のMCにも表れていた。愛媛のライヴに高橋の親戚が40人(!!)も来た話。徳島のライヴの打ち上げで高橋と福岡がすだち酒で乾杯している時に、橋本は実家でお母さんと映画『かもめ食堂』を見ていたという話。そんなほのぼのとした話から繋げることでもないかもしれないが、可愛らしいほど仲良しに見える3人なのに、何てマイワールドが確立されているんだ!と笑いながら感動してしまった。ポップに聴こえるのに、巧妙なアンサンブルが展開されている、チャットモンチーのメカニズムの根本は、こういうところにあるんだと思う。
そして『YOU MORE』は、単に面白いという意味ではなく、ロックバンドとして、アーティストとして、突っ込んだ面白さが表現されていただけに、彼女たちのそういう本領が発揮された一枚なのだろうと、改めて思った。それだけに、『YOU MORE』の収録曲は、生だとより攻撃的に聴こえてきえた。『桜前線』では、福岡がベースさながらにアグレッシヴにピアノを披露! 激しい『拳銃』や、穏やかな『余韻』からは、そこはかとない狂気まで感じられたほどだった。また、相互作用のように、お馴染みの楽曲も、より骨太に進化。今のチャットモンチーは、こういうふうにホールでショウとして見ても十分に堪能できるけれど、次に見る時はライヴハウスで体当たりしてみたいな、と思えるようなバンドになっていると思う。

 アンコールで呼び戻されると、福岡は「期待されているの知ってた!」と満面の笑顔。ユーモアのあるグッズの紹介や、ライヴDVDのリリースの告知から、彼女たちが同じステージに立ちたいと思っているアーティストを招聘したZEPPツアーを秋に行うことも発表。これからへのワクワクを抱かせたまま終演した。このツアーは、震災の影響で延期となった数公演がまだ残されている。心を晴れにしかしない“YOU MORE 前線”は、逞しく北上を続けていく。

【 取材・文:高橋美穂 】

tag一覧 女性ボーカル チャットモンチー

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リリース情報

YOU MORE

YOU MORE

2011年04月06日

KRE

1. バースデーケーキの上を歩いて帰った
2. レディナビゲーション
3. 謹賀新年
4. 草原に立つ二本の木のように
5. 涙の行方
6. Boyfriend
7. 桜前線
8. Last Kiss
9. 少年のジャンプ
10. 拳銃
11. 余韻

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