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日本三景のひとつ宮島。その厳島神社で行われた奥田民生ひとり股旅スペシャルをレポート

奥田民生 | 2011.12.01

 奥田民生(以下OT)がいつもの作務衣に手ぬぐい姿で神殿の奥から現われると、観客に緊張が走る。OTはステージ に向かう前に、ご神体に礼拝する。そのままおもむろに、“高舞台”に歩いていく。心なしか、OTの表情も緊張しているようだ。それはそうだろう。何せ今日の舞台は、ご神体と海上にライトアップされた大鳥居の真ん中にセットされている。日本でも珍しい、海に張り出し た神社の中心と言える場所で歌うのだ。広島球場の中心、マウンドに作られたステージでの“ひとり股旅”も凄かったが、平清盛の造営に なる世界遺産の海上回廊でのライブだけに、“いつもと違う”ことだらけの弾き語りになった。

 OT入場の際の定番、あのいつもの吉本喜劇チックなBGMがない。シーンとした中、回廊を埋めた観客のど真ん中に座る。アコギを手に取ると、「ゴホン」と咳をひとつ。いつものように、タバコも吸わない。さすがに木造の世界遺産は厳しい禁煙エリア。会場には何台ものテレビカメラが配置され、全国の劇場生中継に備えている。いつもなら弾き語りというパーソナルなコミュニケーションが楽しい“ひとり股旅”だが、今日はスクリーンの向こうの日本中のファンが見守る中でのライブになる。

 注目のオープ ニングは「HIROSHIMA(アルバム『井上陽水奥田民生』からのカバー)」。故郷の町並みや 景色が穏やかに描写される。3拍子のギターのコード・ストロークが、美しく堂々と流れる。横から当てられたライトが、神社の裏山にOTの大きな影を映し出す。とても幻想的なシチュエーションだ。
2曲目「トリッパー」が終わったところで、「雨が上がりました。ただ九州から雨雲が近づいてるみたいで、最終的に帰る頃は、みなさん、びしょ濡れかも」とOTが笑わせる。そう、前日から朝まで豪雨。さすがの“晴男OT”伝説もここまでかと思われたが、奇跡的に雨は上がった。
「愛のボート」は、ボートを漕ぐ歌。「今日、舟で見に来る人、案外、いないもんですね。タダなのに(笑)」。

 前半のハイライトはカバー曲で、どれも素晴らしいパフォーマンスだった。特にTHE YELLOW MONEYのカバー「バラ色の日々」では、その選曲センスに拍手が起こる。実は10月2日に渋谷エッグマンで行われた若手バンド“ザ・ビートモーターズ” との対バン・ライブで、OTはこの曲を歌ったのだが、もしかしたら厳島の練習だったのかもしれない(笑)。

 続いて「広島 の大先輩の歌を2曲続けて」と、まずは吉田拓郎の「今日までそして明日から」。次のPerfumeのカバー「レーザービーム」で爆笑と歓声が上がる。考えてみればこれが、この日初めての歓声だったかもしれない。OTも観客もようやく緊張がほぐれたのだった。

OTがニッコリ笑って話し出す。「これで終わったようなもん。これを乗り切ればもう(笑)。この曲がずっと気になってた。沖縄と大阪で練習しまして。広島を代表する2組のアーティストをやったんで、神様も祝福してくれてるだろうと思います」。
OTの言葉どおり、この後は“いつもの”ペースでライブが進む。とはいえタバコは吸いませんが(笑)。

いつもに戻ったOTの歌の中で、特に素晴らしかったのは、「ひとりカンタビレのテーマ」だった。

話題の公開レ コーディング・ツアー“ひとりカンタビレ”の渋谷AXで録音されたこの曲は、♪雨もまだ降って 外には用がない♪と歌い始まる。当然、雨も予想されたこのライブの中盤に、この歌を持ってくる野太いユーモアに感心。イントロのデリケートなアルペジオから、完全にOTならではの世界に入っていく。
歌が♪カンタンなのさ ひとりきりって おきらくなのさ ひとりきりって しあわせなのさ ひとりきりって♪の部分に至ると、僕の目から自然に涙があふれてきた。国宝の建物の真ん中で、プレッシャーを超えてひとり歌うOTの心情に触れたような気がして、「ひとりカンタビレ」という曲の深さを改めて発見したのだった。

 終盤の「すばらしい日々」、「CUSTOM」は力で押し切る。

「いやあ、降らなかったですね。この度はこういう特殊な状況に付き合っていただき、ありがとうございます。客席もぐるりとあるのに、ケアできず、すいません。でも、なかなか経験できないことなんで、よかったと思います。球場と宮島でやったら、もういいよね。寒い中、ありがとうございます。ひとりの落伍者もなくて、よかった。帰りに、海に落ちないように」。

 ラストは「さすらい」。重責を果たした安堵からか、力が抜けて伸び伸びと歌うOT。

 アンコールで 再び登場したOTは「風がなくなって、この後、雨が降りますね。さっさとやっちゃいます。でも、何をやればいいんですかね。『ワインのばか』ってわけにもいかないし。みなさんに歌ってもらおう、上手じゃないのは知ってますが(笑)」 と言って、「イージュー★ライダー」。途中で「ひろしまぁー」と雄たけびを上げたOTの顔は、上空の雲いきとは反対に、晴れ晴れとしていたのだった。

 広島市内に戻って行われた打ち上げで「緊張してたのに、ギターの弦を一本も切らなかったね」と言うと、「弦を切るのは30代まで。もう切らないよ、俺は」とOTはジワリと笑った。

 余談だが、来年 の大河ドラマの主人公は平清盛らしい。ひろしまぁー!!

【 取材・文:平山雄一 】

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リリース情報

OKUDA TAMIO JAPAN TOUR MTR&Y2010 2010.12.24 C.C.Lemon Hall

OKUDA TAMIO JAPAN TOUR MTR&Y2010 2010.12.24 C.C.Lemon Hall

2011年04月13日

KRE

1.人間2
2.彼が泣く
3.恋のかけら
4.音のない音
5.ひとりカンタビレのテーマ
6.E
7.いつもそう
8.ハネムーン
9.海の中へ
10.サウンド・オブ・ミュージック
11.イオン
12.最強のこれから
13.花になる
14.イナビカリ
15.まんをじして
16.月を超えろ
17.SUNのSON
18.解体ショー
19.あくまでドライブ
20.イージュー☆ライダー

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セットリスト

  1. HIROSHIMA(オリジナル:井上陽水奥田民生)
  2. トリッパー
  3. 愛のボート
  4. 人間
  5. バラ色の日々(オリジナル:THE YELLOW MONKEY)
  6. 今日までそして明日から(オリジナル:吉田拓郎)
  7. レーザービーム(オリジナル:Perfume)
  8. 家に帰れば
  9. The STANDARD
  10. 歌うたいのバラッド(オリジナル:斉藤和義)
  11. 野ばら
  12. あやかりたい’65(オリジナル:ユニコーン)
  13. ひとりカンタビレのテーマ
  14. MANY
  15. すばらしい日々(オリジナル:ユニコーン)
  16. CUSTOM
  17. さすらい


  18. ENCORE
  19. イージュー☆ライダー

お知らせ

■ライブ情報

okuda tamio tour 2011-2012 ~おとしのレイら~
2011/11/30 浦安市文化会館
2011/12/07 静岡市清水文化センター 大ホール
2011/12/09 福岡サンパレス
2011/12/11 長崎市公会堂
2011/12/13 梅田芸術劇場
2011/12/14 梅田芸術劇場
2011/12/16 京都会館 第一ホール
2011/12/19 神戸国際会館こくさいホール
2011/12/20 中京大学文化市民会館オーロラホール
2011/12/22 まつもと市民芸術館・主ホール
2011/12/25 新潟県民会館
2012/01/07 府中の森芸術劇場
2012/01/11 NHKホール
2012/01/12 NHKホール
2012/01/17 仙台サンプラザ
2012/01/18 盛岡市民文化ホール
2012/01/20 札幌ニトリ文化ホール
2012/01/23 大宮ソニックシティ
2012/01/25 米子コンベンションセンターBiG SHiP
2012/01/27 広島ALSOKホール
2012/01/31 渋谷公会堂

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください

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