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圧巻のパフォーマンスで魅了した山崎まさよしのZepp Tokyoライブ

山崎まさよし | 2012.01.09

ドラムのカウントから、言葉を音に隙間なく乗せた見せ場が素晴しいヘヴィチューン「ガムシャラバタフライ」へと繋がれた。 オーディエンスは両手を高く掲げ、左右に大きく振り、その音に応えた。熱い。山崎が早口で見せ場を届けると、フロアからは熱い声援が飛んだ。MCやコール&レスポンスから生まれる【声】ではなく、感情が込み上げてきたままの声がフロアに広がった。熱い。海外のライヴのような空気感がそこにはあった。
 「真夜中のBoon Boon」のルーズなメロがオーディエンスの体を自然に揺らし、「パンを焼く」では、お馴染みとなった早口言葉での掛け合いでフロアを楽しませた。
 そして。SEで繋げられ、ステージは色を変えた。
 圧巻の演奏力に引き込まれたのは「Let’s form a R&R band」での一幕だ。

 山崎が鍵盤を弾きながら唄い出すところからこの曲は幕を開けたのだが、彼が鍵盤からギターへと身を移すとき、抑揚を付けたドラミングによって素晴しい流れで繋がれていったのだ。とうてい3ピースの音とは思えない重低音だ。演奏面ももちろん、リレーションや間の取り方など、すべてが余白を残さない時間であった。
 このとき。私は山崎まさよしに、ジョン・メイヤーを重ねた。ジョン・メイヤーはアメリカ出身のシンガーソングライターでありギタリストであるのだが、ギタリストとして世界的に評価が高く、『Rolling Stone』誌が【現代の三大ギタリスト】として彼を選んでいるほどだ。

 山崎も同じく。シンガーソングライターとしてはもちろん、声も唄も絶対的な個性を持ったアーティストなのだが、ギタリストとしても、純粋なギタリスト以上の絶対的な個性を放っているプレイヤーだと感じたのだ。
この日はとくに。ベーシストの中村キタローとドラム・パーカッションの江川ゲンタと3人だけという構成だったこともあり、山崎のギターがとても印象的だったのである。ジョン・メイヤーは、The Whoのサポートベーシストでもあるピノ・パラディーノと、エリック・クラプトンのサポートドラマーとしても知られるスティーヴ・ジョーダンと3ピースのブルースバンド、ジョン・メイヤー・トリオとしても活動しているのだが、まさに、今回の山崎まさよしのライヴは、個人的にジョン・メイヤー・トリオと重なる熱さを感じたのだ。

 山崎まさよし、中村キタロー、江川ゲンタ。そんな音楽好きな3人が奏でる音は、とことんマニアック。だが、しかし。それが決してマスターベーションになっていないのだ。自らが最高の高揚感の中に身を起きながらも、オーディエンスが最高の高揚感に浸れるようなプレイと唄で楽しませてくれるのである。
 ミュージシャンズミュージシャンでありながらも、多くの人たちから指示されるポピュラリティを持ち続けられる素晴しさに改めて感動した。

「どうもこんばんは?。山崎まさよしです」
 気さくな空気感を漂わせながら彼がトークを始めると、客席はハッピーバースデーの合唱を始めた。
「おぉ?。先取りでありがとうございます!」
 12月23日の誕生日を先取りし、オーディエンスは山崎に少し早いバースデープレゼントを唄って届けたのだ。
「本当にありがとう。今年はいろいろとありましたが、今年の厄払いとしてこのライヴを見てくれたら嬉しいなと思います。40歳になります。僕と同年代の方もいらっしゃることでしょう。今回はスタンディングツアーということで、お膝、お腰が辛いときは、どうか隣りの人に寄りかかって凌いで下さい(笑)。今年のテーマは絆なんで。それでいいのだ40歳。気にしてないのよ40歳。でも。少し気になるのよ40歳。大丈夫なのよ40歳………(笑)」
 ゴロの良いトークを受け、客席からは笑いと“ガンバレ?!”の声が飛ぶ(笑)。
「ガンバレって言わんといてくれ!(笑)。頑張ってるから!(笑)」
 そんな山崎の言葉に会場から笑いと拍手が起こった。アットホームな空気感が、彼の人間性を物語った。

 その後、ライヴは山崎のボイパから始まった「アヒルちゃん」、ロックンロールなリズムにフロアが躍った「昼休み」などで盛り上げられ、後半戦へと繋がれたのだった。
「3月11日に大きな地震があって、いろいろと考えさせられることがたくさんあったんですが、今回のツアーで仙台にも行かせてもらってライヴをして来たんですが、少しずつだけど何かを取り戻しつつあったのを感じました。東北の方々のたくましいエネルギーを貰って、カウンターパンチをくらった感じでした。今年はレコーディングをしなかったので、来年はレコーディングもして、更に頑張っていこうと思ってますので、よろしくお願いします!」

 山崎はそんなメッセージを贈ると、アンコールで、「あなたしか知らない朝」をピアノの弾き語りで届けたのだった。
 楽しそうに体を音に委ねていたオーディエンスは、ステージを真っ直ぐ見つめ、その唄に聴き入った。山崎まさよしという存在を心から求め、そこに集まってきた人たちなのだと感じ、改めてその空間の必要性を感じた。
 山崎だけではなく、多くのアーティストが地震後に感じたと言う“娯楽”である音楽やライヴは本当に必要なモノなのか? という葛藤。その葛藤の答えがこの日、ここにあったと思う。
 自分が今、やれることは何か。その答えはステージに立つこと。ステージに立った自分をこんなにも多くの人たちが、満面の笑みで迎えてくれること、必要としてくれることを、山崎まさよしはこの日、そして、このツアーで胸に深く刻んだに違いない。

 ラストは「根無し草のラプソディー」。
カントリー調のほんわかソングに、オーディエンスは最高の笑顔をこぼした。
 本当に心からの笑顔に出逢えた時間だった。
曲はラストに向け、どこまでもテンポを上げていく中、山崎は誇らしげにこう叫んだ。
「ありがとうございました! 山崎まさよしでした!」
 大きな拍手が彼を包んだ。
音楽の必要性。音楽の力。人間が生きようとする強い力。そして、山崎まさよしというアーティストの絶対的な個性を改めて感じた夜だった。

【 取材・文:武市尚子 】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 山崎まさよし

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リリース情報

ONE KNIGHT STANDS 2010-2011 on films

ONE KNIGHT STANDS 2010-2011 on films

2011年11月02日

NAYUTAWAVE RECORDS

ディスク:1
1. 月明かりに照らされて
2. ドミノ
3. シングルマン
4. 僕のオンリー ワン
5. ルナちっく
6. Let’s form a R&R band
7. 週末には食事をしよう
8. ツバメ
9. 全部、君だった。
10. 僕と不良と校庭で
11. セロリ
12. 君と見てた空
13. 僕と君の最小公倍数
14. 花火
15. ペンギン
16. ステレオ
17. I’m sorry
18. HOBO Walking|晴男
ディスク:2
1. アレルギーの特効薬 (ENCORE)
2. One more time, One more chance (ENCORE)
3. ブランコ (ENCORE)

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セットリスト

  1. 君とピクニック
  2. ガムシャラバタフライ
  3. 真夜中のBoon Boon
  4. Respect
  5. パンを焼く
  6. 晴男
  7. 窮鼠猫を噛め
  8. Let’s form A R&R Band
  9. ステレオ
  10. 関係ない
  11. 心拍数
  12. 深海魚
  13. アヒルちゃん
  14. 長男
  15. 昼休み
  16. 春も嵐も
  17. ドミノ
  18. ソノラマ
  19. ペンギン
  20. アレルギーの特効薬
  21. Passage
  22. ENCORE
  23. あなたしか知らない朝
  24. Fat mama
  25. 根無し草ラプソディー

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