最新アルバム『８EIGHT８』は、悪い夢を食べてくれるクモが主人公。そんなアルバムのファンタジックなイメージが、武道館のあちこちに仕掛けられている。
天井に吊られたトラスからは、八方の客席にカラフルな糸がまるでクモの巣のように張りめぐらされていて、ステージ・セットはクモを形どっていて、左右には長い脚が見えている。上方には８個の目があり、あんぐり口を開けた部分がステージになっている。そこからアリーナに向かって、花道がフロアの中央まで延びている。
場内が暗くなると、その花道からクモ女の衣裳をつけた５人の女性ダンサ―が現われた。バンドの繰り出す強烈なリズムの中、ダンサー群の真ん中からカエラが登場。真っ黒なコスチュームにショートヘアが際立つ。凛々しい姿に会場が一気に沸く。アルバム・タイトル曲「８EIGHT８」からの、ダークで力強いオープニングだ。続くハードな「Make my day!」で、カエラの声がサウンドを明るく染めていく。これが彼女の力だ。

「ありがとぉー！ファイナルへようこそ。とうとうツアー最後の日です。今日はいつもと違うよ。テンションが上がりまくってる。クモくんと私が、みんなが普段抱えてる不安や悪い夢を食べてあげるから、最後まで楽しんでってくださいね。みんなが明日から超楽しく過ごせるように、楽しませるからね。じゃ、かっこいい曲、いっちゃうね」と「deep beep」に突入だ。その途端に、ステージ上方の“目”がいっせいに半分開いた。この後、８個の目は全開になったり半開になったり、目をつぶったり、いろんな表情でカエラとオーディエンスの交流の様子を見守ることになる。
前半は完全にカエラのペースで飛ばしまくる。「KEKKO」は歌詞がリズムにピタっとはまって気持ちいい。カエラの気持ちも、どんどん乗っていく。
「衣裳、見える？私の袖もクモの巣の模様が入っててキラキラしてる。こういうのが着たいって言ったら、形になるんですよ。すごいでしょ。今日、初めて私のライブ見る人？」とカエラが質問すると、かなりの人が手を上げる。「最高だよ」という声が飛んだ。するとカエラは「いろんな人が来てくれて嬉しい。これからもっと楽しくなるよ」。

「うたうらら」で、“クモの目”が瞬きする。「ホシノタネ」ではクモくんが巣を張るアニメーションが映写される。「lollipop」では再び男女のダンサーが現われて、カラフルなダンスを披露。
素晴らしかったのは「A winter faily is melting a snowman」だった。ピアノのバックだけで歌い出したカエラは、丁寧に歌詞を伝える。スクリーンにはスノーマンのアニメが映され、天井から雪が舞い落ちてくる。花道を歩きながらポップなアクションをするカエラと、エッジーなバックサウンドとの対比がキュートだ。その上で、クモの目が笑っている。ステージをフルに使って、この日のベストソングになった。
花道にアンプラグドのセットが用意される。「うわっ、みんなと近いね（笑）。ちょっと真面目な話をするね。『８EIGHT８』は３つのコンセプトを大切にして作りました。ひとつは８という数字。クモの脚は８本。それを横に倒すと「∞」＝「無限」になる。大切な人との無限のつながりを表わしたかった。もうひとつは、素直に“ありがとう”って言えること。もうひとつは、大変なときに“なんで私ばっかり？”って思わずに、一人じゃないって感じること。きっと誰かがそういう姿を見ていてくれて、それがいい風に自分に回ってくる。これから大切な歌をみんなの近くで演奏します。言葉にしようと思っても伝えられないものを歌ってます。みんなにありがとうの気持ちを込めて、『チョコレート』」。
アコギとピアニカを中心にしたサウンドを、デリケートなドラムがまとめる。前半のパワフルなロックとは対照的なリリカルなムードが武道館を満たす。この大きな振れ幅が、カエラの魅力だ。

終盤はもちろん、ぐんぐん盛り上がっていく。カエラもギターを持って「BEAT」、ラストは「喜怒哀楽 plus 愛」でパワフルに締めくくった。悪夢を食べるクモのアニメが流れる中、アンコールを求める大歓声が上がる。スクリーンに大きくて可愛いクモが映され、同系色のシャツを着たカエラが登場。
「アンコール、ありがとう。やばいね。みんなの声、裏まで届いてたよ。真っ黒なクモくんも、みんなのアンコールでカラフルになりました。ここからはハッピーな曲しか歌わないからね。私もカラフルになりました」。その言葉どおり、アンコールはハッピー一色。「Butterfly」は改めて名曲であることを思い知らされる。
「あともう１曲、歌っていいですか？詞を書いてる時、みんなの笑顔がみたいなと思ってやってるの。その気持ちが入ってる曲です」と、「Magic Music」。オーディエンスはアッパーなロックに合わせてぴょんぴょん跳ねてリアクションする。頭上のクモの８個の目も、笑いっぱなしだ。最後の最後、「happiness!!!」まで、みんなの笑顔は続いたのだった。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：三吉ツカサ】