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音楽シーンで唯一無二の存在であることをはっきりと示した、星野源の日比谷野音ワンマンライブ

星野 源 | 2012.05.30

 星野源はニッコリ笑って両手でバンザイしながら、ステージに現われた。

「ようこそ、星野源です。すっげー、人。いい感じで夕方じゃないですか。みんながいつ立ち出すか、楽しみですー」と、嬉しそうに言う。そう、星野自身もこの日比谷野音のステージに立つことを、心から楽しみにしていたのだ。

 ライブは星野のギターから。その繊細なタッチと和音が、去年デビューした後、あっという間に音楽好きを魅了したが、それもうなずける情感たっぷりなイントロだ。そのナイーブさが野音によく似合う。ドラムス、ウッドベースと本人のギターというシンプルなサウンドが、夕暮れ迫る会場の隅々に響く。バラードの「ひらめき」から、サクッとライブはスタート。胸にぽっかり開いた穴に、おかずの匂いだけが残っていると歌う不思議な失恋ソングの3曲目「キッチン」で、大きな拍手が起こった。

「精神が不安定なときに作った3曲を、明るいうちにやっとこうかと」と星野が言うと、野音は大笑い。シリアスな心を“日常”というどうしようもなくお間抜けな状況に放り込んでやり過ごす、独特のリリックが味わい深い。集まったオーディエンスたちの多くは、ビールやチューハイを片手にそんな星野の歌に耳を傾けている。きっと自分の体験と星野の言葉を重ねているのだろう。その光景は音楽とリスナーの“いい関係”を象徴しているように思えて、深く印象に残った。

 そんな感傷にひたっていると、一転、「みんなの声を聴きたい。立ち見の人、“ホー”って言ってみて!・・・(立ち見の観客が「ホー」っと大声で叫ぶ)・・ショッカーみたいだな(笑)。外で“音漏れ”聴いてる人は?」と星野が言うと、会場の外で聴いている人たちが声を上げる。かなりの人数が“音漏れ”を楽しんでいるようだ。「じゃ、次はおじいちゃんの歌です」と、軽快なリズムの「グー」へ。

 ペースはすっかり星野のものだ。ペダルスティールギター奏者の高田漣を呼び込んで歌った「営業」がよかった。♪痛みはまるで魔法さ 不安はまるでお金だ♪という星野ならではの含みの多いリリックが、柔らかくグルーヴィーなペダルスティールギターの音色と相まって心に刺さる。かと思うと、カントリー・タッチの「穴を掘る」もユーモラスでいい。

「もっと明るいときにやればよかった」と前置きして歌った「ステップ」はお墓参りの歌。つくづく歌の題材がユニークだ。そして、そんな歌を聴くシチュエーションとして、初夏の野外はぴったり。そろそろ暗くなってきて、照明が効き出すと、さらにムードは星野カラーに染まっていく。

 中で、弾き語りの「透明少女」が出色だった。惜しまれつつ解散したオルタナティヴ・ロックバンド“NUMBER GIRL”の名曲を星野が歌い始めると、意外な選曲とロックチューンをギター一本でカバーするスリルに反応して、観客席から「ウオー!」という異様な歓声が上がる。激しく複雑に絡み合うギターワークは、それまでの繊細なプレイと好対照であり、星野の内に潜むロック・スピリッツをダイレクトに表わしていて、彼の才能の奥深さを充分に感じさせてくれて秀逸だった。

 多彩な表情を伝える星野は、ときに歌がラフになってしまう場面もあったが、音楽シーンで唯一無二の存在であることをはっきりと示していて痛快だった。ブラスセクションの入った代表曲「くだらないの中に」では全面的に星野の良さが発揮され、ゆったりした歌世界を描き出す。

 生楽器を最大限に活かした、温かくインテリジェンスに満ちたサウンドに、そこにいる全員が身体を預ける。1曲1曲は短いが、それがかえって耳を音楽に集中させてくれて、充実したライブになった。

 アンコールは「くせのうた」。人に魅かれるしみじみとした気持ちが、夜空に届く。「来年もここでできたらいいなあ」という星野のつぶやきに、オーディエンスの思いが重なったとき、ライブは心地よく終わったのだった。

【取材・文:平山雄一】
【撮影:三浦知也】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 星野源

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リリース情報

エピソード

エピソード

2011年09月28日

ビクターエンタテインメント

1. エピソード
2. 湯気
3. 変わらないまま
4. くだらないの中に
5. 布団
6. バイト
7. 営業
8. ステップ
9. 未来
10. 喧嘩
11. ストーブ
12. 日常
13. 予想

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