藤巻亮太が１人、赤阪BLITZのステージに立ち、ソロアーティストとして初ワンマンライブを行った４月12日から丸5ヵ月。
彼は渋谷公会堂のステージに立った。

　2012年9月12日。開演時間だった18時45分から5分が過ぎようとしていたそのとき、会場の照明が静かに落ちた。アンプ等、機材から放たれるかすかな光が、ステージに現れたメンバーの姿を浮かび上がらせる。

　ステージ中央に藤巻がスタンバイし、１曲目の「オオカミ青年」のイントロが響き、照明がステージを照らすと、待ちわびたその時に、会場からは割れんばかりの歓声が沸き上がった。
“こんなにも求められているって、幸せなことだな………”

　ステージに立つ藤巻とオーディエンスとの関係性を、とても愛しく想った瞬間だった。
“自分に言い聞かせてるような、自分を駆り立ててるような1曲”と表現していた「キャッチ＆ボール」が2曲目に届けられると、客席からは自然と手拍子が生まれた。そんな手拍子に子供のような屈託のない笑顔を見せ、声を響かせる藤巻。
「渋公?っ！！！」
藤巻は高ぶった感情を押さえきれなくなったのだろう、曲中に大きな声で叫んだ。
オーディエンスはその声に応えるように声を上げ、この曲のラストに大きな拍手を贈った。
「ありがとう。ソロになって2回目のワンマンライヴになります。恥ずかしいくらい気合い入り過ぎて１曲目から声が嗄れちゃったよ（笑）！」

　そう。藤巻の言うとおり。彼の声は１曲目で完全に嗄れていた。

　そんな現実を、冷静に評論するとするならば、“１曲目で声を嗄らすなんてプロとしては失格！”と言われてしまうのかもしれないが、いやいや、そんな評価をする人など誰も居ない。居るはずがない。こんなにも“気持ち”が溢れた唄が他にあるだろうか？

　本当に、心から嬉しかったのだろう。

　本当に、心から楽しかったのだろう。

そんな藤巻の“心”そのものが、ダイレクトにぶつかってきたのである。

「2010年にレミオロメンでライヴをたくさんしてからというもの、ずっとライヴに餓えていたんです。“ソロは自分の好きなことだけをやっていこう”って思ってます。リリースした曲はまだ6曲しかないけど、でも、気にすんなよ（笑）！　アルバムも完成いたしましたので、今日はそんなアルバムに入る曲はもちろん、新曲なんかも歌っていけたらと」（藤巻）

　藤巻はこの日、出来上がったばかりの新曲たちもたくさん披露してくれた。

　中盤。サポートのバンドメンバーがステージからはけると、藤巻はアコースティックギターを肩からかけて、自らがつま弾くギターの音色の上に大切に言葉を乗せ、「砂時計」を届ける。
そんな彼の歌に吸い込まれるような感覚を覚えた。
そして。彼の歌は、“なんでもない１日”を、“特別な１日”にしてしまう力を持っていることを、このとき改めて確信したのだった。

　彼は、この日も、もちろん、再び歌う力を与えてもらうきっかけとなった「光をあつめて」も届けてくれたのだが、5ヵ月前、赤阪BLITZのステージで聴いたときよりも、その曲は更に深みを増し、伝える力が大きくなった曲へと変化していたのである。

　藤巻亮太が唄う事の意味---。
そんな根本を感じることが出来た一夜だった。

　10月17日にリリースされるという１stアルバム『オオカミ青年』。最新型のロックナンバーからバラードまで、藤巻亮太の魅力が存分に詰め込まれている名盤と言っても過言では無いこの作品が、世の中に届けられるその日を、心待ちにしているとしよう。

【取材・文：武市尚子】