開演から、間もなく３時間が経とうとしていた。
２度のアンコールに応えて、ステージに立った藤井フミヤが、客席に向かって言葉を繰り返す。
「楽しい。本当に楽しいです。ありがとう」

　９月上旬からスタートした藤井フミヤの全国ツアー「Fumiya Fujii Concert Tour 2012　Life is Beautiful」。12月6日、7日のBunkamuraオーチャードホールでのファイナルまで、追加公演も含め、全国で36公演を行うロング・ツアーだ。
　そのちょうど、20公演目。10月31日、大阪国際会議場でのライヴは、19時過ぎに幕をあげた。
　オープニングから数曲終わったところで、この日、最初のMC。まずは、フランクな口調で第一声。
「久しぶり」
軽くお辞儀をするようにかしこまりながら、第二声。「……初めての人ははじめまして。どうも、藤井です。ようこそ」
　挨拶を終えると、客席を見回しながらこう続けた。
「今日ハロウィンですね。みんな、いろんな格好してるね」
　満員の客席が、ワッと沸く。オレンジのとんがり帽子やジャックオーランターンを被ったり、小さい角のカチューシャをつけたり、お揃いのオレンジのTシャツを着ていたりと、それぞれのアレンジを加え、スペシャルな日に集まって来た観客達が、アピールしながら、一斉に手を振った。
　ハロウィン・スペシャルとなったこの日のライヴ。開演前にステージを覆っていた紗幕にも「HALLOWEEN」の文字が映し出されたりと、やる方も見る方も、最初から、通常のライヴとは少しムード＆テンションが違っていた。フミヤが話を続ける。
「俺の生まれた時代……昭和は、ハロウィンなんて無かったんですねー。（観客、笑ったり、うなずいたり）平成になってから、急にこんなになっちゃって……」
言った後、あははと笑った藤井フミヤ。最後はこう締めくくった。
「短い時間だけど、楽しんでください。というか……ライヴはみんなで作るものなので、ここにいるみんなで今日のライヴを作り上げましょう！」
この言葉へ、観客は勢いよく言葉を返しながら、大きな拍手でレスポンスした。
　7月に発売されたアルバム『Life is Beautiful』の楽曲を中心に、チェッカーズ時代からのヒット曲も網羅しながらライヴは進行していく。そのセットリストの印象は、あの日もこの日も、今日も同じくらいの鮮度を保ち、生きているようだった。しかも、蘇ったというより、今を生きている感じ。どれも今の藤井フミヤの歌だった。
本編の後半。新旧おりまぜたアップチューンを畳みかけ、会場をヒートアップさせた後、この日、何度目かのMCへ。顔を上気させながらフミヤがマイクをとった。
「いやぁ、いい感じでした。みんなが望んでくれたら、いくらでも歌う。ライヴは、そういうもんだよ。本当、1人じゃここまで出来ません。さっきも動いてて“あれ、俺、こんな事できたっけ？”って思った」
　そして、この日、10月31日にリリースされたニューアルバム『Winter String』の事に触れ、再び、自分の気持ちを、上がったテンションのまま素直に言葉にした。
「いい感じでライヴ、できました。こんなに集まってくれたみんなのおかげです。本当に良かった。楽しかったです。おおきに！」
本編最後の曲が、ゆっくりと解き放たれた。

時計の針は、間もなく21時30分を指そうとしていた。最初のアンコールが終わると、ステージを再び紗幕が覆った。そこに浮かんできたのは、魔女、ジャックオーランターン、コウモリ。キッチュな影絵風のイラストと照明が、スペシャル・パーティーのスタートを告げる。アンコールの声が、どんどん声が大きくなっていく。 薄闇に沈むステージの中に、うっすらと人影が見える。スタンバイするバンドメンバー達。しかし、10分前とは、明らかに、そのシルエットが異なっている。なんだかチャイナドレス着ている人、見えるんですけど……。爆笑しながら興奮する会場に、ホラー・ティストのBGMが響く。そこに重なる、不気味な笑い声。天から、いつもよりも、若干、野太い声がふってきた。
「お前たちの新鮮な生血をすべて吸いつくしてやる！」　
　イントロに重なる、月夜に吼えるおおかみのような雄叫び。その声の主・藤井フミヤが天に向かって叫ぶように歌いだした。
　ハロウィン・スペシャル。この日だけのために用意された１曲は、この夜にぴったりなこの曲だった。
「ROCK’N ROLL VANPIRE」。途中でダンサブルな展開もみせる、ダイナミックなアップ・チューンだ。ビートに乗り、滑らかなダンスと派手なアクションを交えながら、フミヤは、がんがん客席を煽っていく。会場中が踊りながら揺れる。そこにいる全員の笑顔が、この日だけのスペシャルな記憶を作りあげていく。
　曲が終わると、それぞれのコスチュームに軽く触れたりしながら、改めてバンドメンバーを紹介したフミヤ。最後は、自己紹介で締めくくった。
「そして私が……まるでPUFFYのようなドラキュラ」
　カーリーヘアを撫でながらのこの言葉に、会場はこの日１番の大爆笑。隣りの席の女性が、裏手で空を切りながら「全然、PUFFYじゃない」と、即座につっこみを入れていた様子に、私はさらに大爆笑してしまった。
「盛り上がっていこうか！　カモーン！」
　と、この日（10月31日）発売されたばかりの『Winter String』から「彼女のタンバリン」。初披露された1曲に、観客から嬌声があがる。往年のブラック・ミュージックのリズムもキャッチーな、超ブライトなポップ・チューンは、会場をピースフル＆ハッピーな空間に塗り替えていく。観客のクラップが、大阪国際会議場をバウンドしながら駆け巡った。曲終わりで、フミヤがポツリ。
「……この歌、今日初めて歌ったけど、こんなかっこうで歌う事になるなんて……（笑）」
　会場は、再びの大爆笑となった。
　最後にもう1曲披露し、スペシャル・ライヴは幕を閉じた。ステージ上を左右にゆっくり歩き、時にカーリーヘア―を被り直しながら、時に「どっちが前かわからなくなるんだよ（笑）」と、まるで隣りにいる友人に話しかけるように言いながら、観客に向かって何度も手を振る藤井フミヤ。最後は、こんな言葉を残して、ステージを後にした。
「サンキュー！　楽しかった！　また一緒に遊ぼうぜ！！　本当にありがとうございました」

【取材・文・構成：伊藤亜希】