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まさに秋の夜の夢! 安藤裕子の一夜限りのスペシャルライヴの模様を濃厚レポート!!

安藤裕子 | 2012.11.20

 安藤裕子が東京スカパラダイスオーケストラのメンバーやストリングス・カルテットを迎えて行った一夜限りのスペシャル・ライブ「秋の大演奏会」。もとより管弦楽を取り入れた楽曲も多く発表してきた彼女だけに、普段のライブでは再現しづらかった曲がどのような形で披露されるのか。場内に入ると、奥行きの深いステージにグランドピアノやストリングス用のひな壇がセットされており、それらを目にしただけで期待に胸は膨らむばかりだ。

 開演に先駆け、観覧上の注意が清水ミチコのものまねメドレーでユーモアたっぷりに読み上げられ、ドッと場内が湧き上がると、しばらくして安藤がたったひとりステージに登場。パステルカラーの生地が美しいアラビアンナイトのような衣装には、そこかしこから「かわいい~」とため息にも似た声がこぼれる。まるで学園祭を前にした学生のように、楽しみで仕方ないといった様子の安藤。彼女のライブではお馴染みの山本隆二(ピアノ)、山本タカシ(ギター)のW山本、CHICA stringsの4人、そしてスカパラから茂木欣一(ドラム)と川上つよし(ベース)のリズム隊を上機嫌で呼びこむと、いよいよライブがスタートした。

 まずはイントロから全員の音が壮大なハーモニーを奏で、軽快なリズムも清々しい「"I" novel.」。陳腐な形容になってしまうかもしれないが、やはりストリングスが加わったサウンドは芳醇にして優雅だ。そして家の小さなスピーカーで聴くよりも、格段にひとつひとつの音がグッと響いてくる。続いて「パラレル」、短いMCを挟んで「水色の調べ」と比較的アップテンポな曲を披露すると、ストリングスは一旦退場し、代わりにNARGO(トランペット)、北原雅彦(トロンボーン)、GAMO(テナーサックス)のスカパラメンバー3人がステージへ。原曲とは異なるホーンを活かしたアレンジで披露された「TEXAS」は、より温かみのあるアンサンブルが印象的。心強いバックを得たこともあってか、安藤の歌声にもやさしさが増し、新鮮な聴き心地を残してくれた。
 改めてホーン隊の3人を紹介し、その編成のまま「さみしがり屋の言葉達」、各演奏陣の魅せ場も満載の「黒い車」を聴かせた後は、ホーン隊と入れ替わって再びストリングスが入場。不穏なストリングスのイントロから始まった「エルロイ」は、CDよりも2割増しのスピードアップで披露。歌声と弦の調べが緊張感たっぷりに交錯する展開は、呼吸すら忘れてしまいそうなほどの迫力で、ここまでで一番の拍手が沸き起こった。
 ここからは編成を変えながら立て続けにバラードを披露。特にピアノ、チェロ、ソプラノサックスという珍しい編成で聴かせた「サリー」は映画の名場面のように情緒にあふれ、MCでファンに対して口下手な感謝を述べた後に歌った「六月十三日、強い雨。」では、「♪いつもあなたに有り難う♪」という歌詞がすべてを凝縮し、言葉以上の感情を届けてくれた。
 その後は客席からの手拍子も加わり場内が一体となった「輝かしき日々」、全身を躍動させて渾身の歌声を響かせた「鬼」、満点の星空を映しだしたステージが吸い込まれそうなほど美しかった「海原の月」など、ホーンやストリングスという編成をさらに引き立てる演出で次々と大きな感動を呼び起こし、ラストの「聖者の行進」へ。安藤が体全体を使って感情を爆発させた終盤の盛り上がりは圧巻で、満場の拍手を浴びて本編を締めくくった。

 アンコールでは安藤が改めて演奏陣をひとりずつ呼びこむと、明らかに様子のおかしな人が…と思ったら、ゲストの池田貴史(レキシ)がホーン隊に混じってサックス片手にステージへ。しかし、何事もなかったかのように無視して進行を続ける安藤。その放置プレイに耐えかねて“触れて!”と池田が食って掛かったところで、“言わせねぇよ”とばかりに茂木がドラムを叩き始め、大爆笑のなか「林檎殺人事件」がスタート。ここで初めてストリングスとホーン隊が全員揃って演奏し、安藤と池田も愉快なダンスを踊りながらデュエット。客席も総立ちとなり、本編とは打って変わって場内はお祭り騒ぎに。そして最後は小沢健二の名曲にして、音源では茂木とのデュエットも素晴らしかった「僕らぼくらが旅に出る理由」。ホーン隊とストリングスはこの日最高のアンサンブルを響かせ、期待に違わず茂木も歌声を披露すると興奮は最高潮に。『大人のまじめなカバーシリーズ』からの2曲でアンコールは盛大に締めくくられた。

 なお、この日の模様は12月23日にWOWOWにて放送予定とのこと。そして来年2月28日には、西本智実率いる日本フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーションによるコンサートも決定!この日のステージでも「ずっとフルオーケストラでやりたかった」と語っていただけに、期待を軽く上まわる名演が見られることだろう。出産明けとなった今年は、ニューアルバム『勘違い』リリースに伴うライブ、毎年恒例のアコースティックライブ、そしてこの日の大演奏会と、異なる3種のライブで楽しませてくれた安藤裕子。これからも、その日その場でしか味わえない演出で、常に新鮮な姿を見せてくれるであろうことを確信させてくれた夜だった。

【取材・文:タナカヒロシ】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 安藤裕子

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リリース情報

勘違い

勘違い

2011年03月28日

cutting edge

1.勘違い
2.エルロイ
3.輝かしき日々
4.すずむし
5.それから
6.アフリカの夜
7.永すぎた日向で
8.地平線まで(Album ver.)
9.飛翔
10.お誕生日の夜に
11.鬼

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セットリスト

秋の大演奏会
2012.11. 9@NHKホール

  1. “I”novel.
  2. パラレル
  3. 水色の調べ
  4. TEXAS
  5. さみしがり屋の言葉達
  6. 黒い車
  7. エルロイ
  8. Lost child,
  9. サリー
  10. 蒔かれた種について
  11. 六月十三日、強い雨。
  12. 隣人に光が差すとき
  13. 輝かしき日々
  14. The Still Steel Down
  15. 海原の月
  16. 聖者の行進
ENCORE
  1. 林檎殺人事件
  2. ぼくらが旅に出る理由

お知らせ

■ライブ情報

Billboard Classics
「安藤裕子×西本智実スペシャルプレミア・シンフォニック・コンサート」

2013/02/28(木)Bunkamuraオーチャードホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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