前へ

次へ

思う存分笑顔で“電気グル―ヴを楽しんだ” そんな彼ら久々のツアーを詳細レポート

電気グルーヴ | 2013.04.01

電気グルーヴ、全方位、一斉解禁。

 そのエネルギー&カオスぶりったるや、観ているこっちが、終演後、笑顔で真っ白になるような凄まじさだった。2回のアンコール、しかも2度目は客電がついてから登場し「影アナからのもう一発。(フロアを)出たヤツも、もう1度、中に入るがいいさ、入るがいいさぁあ!」(ピエール瀧)と言いながら、電気グル―ヴのシンボル曲のひとつである「Cafe de 鬼」を披露するなど、サービス精神もてんこ盛りの2時間半オーバーであった。

 まずは、ここでちょっと、電気グルーヴについて、ざっくりおさらいしてみよう。

 石野卓球。ピエール瀧。打ち込み音楽。エレクトリック・ダンス・ミュージック。ユーモア。毒気。サンプリング。瀧はライヴで被り物&時々コスプレ。卓球は海外でも活躍するテクノDJ。マニアック。今でもたまに悪ふざけ、常識ギリギリ。ストイック。WIRE。歌詞が面白い。歌詞がくだらない。歌詞に意味がない。歌詞がすごい。テクノ。ニューウェイヴ。ロック。ポップス。歌謡曲。2人ともわりとおしゃべりが好き。映画。演劇。サブカルチャー。アートワーク。クリエィティヴ。ハイクオリティー。大音量。大光量。レーザー光線。ピンスポ無しのパイオニア。音響システム最先端。2人とも結構、2人にしかわからない話をするのが大好き。1991年にデビュー。現在までフォロワー無し。ちょっと怖い?気難しそう? そんなことありません、大人になりました。2人合わせて90歳。観てください、聴いてください、楽しんでください、ちょっと待ってください、電気で作るグルーヴです。
……と、書き出せばきりがない様々な要素から構成されている。これが電気グルーヴだ。
 この万華鏡のようなバックボーンを、2人が意志を持って一気に解放した、そんなライヴだった。

 2月27日に13枚目のオリジナルアルバム『人間と動物』をリリースした電気グル―ヴ。発売日と同日から、5年ぶりの全国ツアー「電気グル―ヴ ツアーパンダ 2013」を展開。追加公演なども含み、全国で8公演を敢行。その本編のファイナル2DAYSが、3月12日、13日の両日、Zepp DiverCityで行われた。アルバム『人間と動物』は、全曲歌ものという意欲作だったが、その意欲が、ライヴ全編にしっかりと反映されていた。この日、彼らが披露したのは『人間と動物』収録曲を中心に、アンコールも含め全27曲。このほとんどが、歌詞あり、歌あり(ラップ含む)の楽曲であった。

 超満員のフロア。会場が暗転するとここ数年の電気グル―ヴサウンドの盟友agraph(牛尾憲輔)がステージに登場。ステージ中央、後方の機材ブースの前へ。彼の上半身が軽く揺れる。大音量のエレクトリック・サウンドと大歓声の中、ライヴはスタート。期待を刺激する低音に、フロアがバウンドしようとした瞬間、ステージ向かって左手から、石野卓球とピエール瀧がゆっくりとステージに姿を表した。「The Big Shirts」。卓球は台車の上にあぐらをかき点滴。その台車を厳かに押し進めて行く瀧。2人とも大きな白いシャツを着ている。その様子が明確になった瞬間、2階からみていて、ギュー詰めだったフロアのあちこちに、ぼこ、ぼこぼこっとクレーターができた。観客達が、爆笑しながら上半身を折り畳む。その動作で出来た穴であった。曲中、卓球が立ちあがろうとプルプル、瀧がそれを応援するという、小芝居のようなパフォーマンスに、会場、大盛り上がり。全員でプルプルする卓球を応援、立ち上がった際には大歓声&大きな拍手という光景に、一体感を感じたのは私だけではないだろう。電気グル―ヴは、自分達の見せ方で、あっと言う間に観客を“ひとつ”にしてみせた。次の曲のイントロの中、卓球が「こんばんは! 電気グル―ヴでございます」と挨拶。この言葉に合わせて、瀧は被っていたシルクハットを取り、キュートに挨拶して見せた。最新シングル収録曲「shameful」では、トライバルなリズムに合わせて、瀧が腹太鼓&尻ドラムも披露。その様子に合わせ、一緒に腹太鼓をする観客の姿も見えた。
 前半から中盤までステージを彩ったのは、卓球と瀧の顔をかたどった巨大な白い模型。ローポリゴンという代物だが、そこに曲毎に、映像、照明などを投影させ、様々なプロジェクションマッピングを展開。MCでは、それぞれのしゃべりに合わせて、それぞれの白い巨頭の眼が光り、口が光りと、ロボットが話しているような演出も。初めてお目にかかった演出だったが、この5年くらいで、どんどんいい意味で“石野卓球とピエール瀧”という“永遠のツートップ”を前面に出して来るようになった電気グル―ヴに、ぴったりの演出だったと思う。
 2つの巨頭が巨大なミラーボールに変わった「Disco Union」からは懐かしい曲を連発。「Hi-Score」や「Monkeyに警告」など、15年ぶりくらい?(ざっくりですみません。でも本当に超久々だったのです)しかもオリジナルからあまりアレンジをいじらず(サウンドバランスは結構いじってたけど)披露した彼らの心意気に、彼らの歴史を良く知る観客達は狂気乱舞。あまり知らない観客達も、リズムに飛び乗り、思う存分楽しんでいた。曲をあまり知らなくても踊ってて楽しい。これ、ダンスミュージックのすごくいいところ、だと思うのだ!
 この日、何度目かのMC。暴走する卓球⇒呆れながらフォローする瀧⇒さらに暴走する卓球⇒結局、瀧も並走して暴走⇒観客おいてきぼりというのが、電気グル―ヴのMCパターン。ひとしきり暴走した後、2人の会話はこんな風に展開した。
卓球「(観客に)くだらねぇと思ってんだろ?」
瀧「わかってねぇんだよー」
卓球「だってくだらねぇ事、言いに来たんだもん。わかってたまるか!」
瀧「みんな“だんじり”を観るような眼で観てますね。“わー、来た来た、屋根壊してったぁー!”」
卓球「日本の奇祭。歩く奇祭!」
 きょとーんとしていた観客、最後には爆笑。普通は絶対に思いつかない言葉で例えてくる。この独特の言語感覚は、電気グル―ヴの大きな武器だ。歌詞とMCでは、切り口は違うが(同じ時も多々あるけど)、この武器を想像以上に存分に堪能できたのも、今回のツアーの特徴と言えるだろう。これだけ楽曲もMCも饒舌だったのは、彼らのライヴの歴史の中でも珍しかったのではないか。んー、全体を通していえば、ここまでこの武器を楽しそうに振りまわしたのは、初めてだったと言っていいかも。

 14曲目「ポマト」からは、彼らのライヴやWIREなどでお馴染のVJユニット、DIVICE GIRLSがイマジネーションを誘っていく。「Oyster?私は牡蠣になりたい」では、円形に並んだ牡蠣の殻が開くと、中にはアーティスト写真にも使われていた卓球と瀧の姿が。願いがかなって良かったねー、なんて笑ってしまった。
 MC。瀧が、ちょっとしたポーズをつけて「ありがとう」と言えば、卓球が「今、にしおかすみこ!」と拾う。卓球にしかわからない、瀧の面白さが、このひとことで観客の笑いとなった。いいコンビだと、しみじみ。
 ライヴは後半へ向かう。それまで、いつもより少し抑え気味に感じられたトラックの低音が、ズバンとストライクを決め「The Words」。オリジナルよりもフロアライクな印象。瀧の両手が挙がる。観客の両手も挙がる。明滅するライト。キャットウォークに組まれたライトが、フロアを照らす。BPMがあがっていく。客席そのものが点灯するように明るくなったり、暗くなったりする。音圧の大木が、どんどん太くなっていく。その様子はライク・ア・WIRE。エレクトロでダンサブルなポップチューン「FlashBack Disco」。スクリーンでは、卓球と瀧と背中合わせになったパンダが踊る。結構シュール。リズムだけを残し、次の曲へ変わっていく。ロマンチックなフレーズ。卓球の煽りで ♪ Kiss Kiss Kiss ♪の大合唱になった。「Shangri-La」。右手にハンドマイクで歌っていた卓球。♪ ただようような?♪ というフレーズに合わせて、左手を目の前でくねくねさせて見せた。イントロで瀧が腹チラし、前方の客がのけぞった「少年ヤング」に続き「N.O.」。イントロで機材の前から、ステージ前に走り出して来た卓球。待ちかまえていたのは、瀧だ。瀧は跪き、卓球の前にマイクを差し出す。そのマイクに向かい、卓球はアゴゴベルを叩く。2人の共同演奏(?)に、観客のテンションが上がっていく。スタンドマイクで歌い始める卓球。瀧は、小走りで機材の前へ。一仕事終えた後は、マイクを観客に向け煽る。サビの繰り返しは、会場中の大合唱となった。
 この“会場中の大合唱”も、本ツアーでの特徴と言えるのではないか。ここ数年、フェスなどでも時にお目にかかる光景ではあったが、ワンマンの中で、これだけ何度も観客と電気グル―ヴが一緒に歌った事など無かったと思う。(その兆しはあったけど、ね)
 幾多のレーザー光線が濃紺の闇を切り裂き「あすなろサンシャイン」。電気グル―ヴ楽曲の中でも、屈指のミニマルトラックに、観客がバウンドする。瀧のメインボーカルに、卓球がボーカルで絡んでいく。アドリブかフェイクかというバリエーションに、心底びっくり。おそらくツアー中に出来あがったパターンだったのではなかろうか。本ツアー、歌いまくった(ユニゾンはもちろん、時にハモリあり!)石野卓球とピエール瀧であったが、彼らの歌は、プレツアーと銘打たれた2月25日の恵比寿リキッドルームのライヴに比べ、格段にレベルアップしていた。特に卓球なんて、ツアー中に、明らかに歌が上手くなっていて、歌詞もはっきり聴こえてきた。
 本編最後は「Reaktion」。卓球と瀧が、ステージ前方に並ぶ。途中、チラリと瀧を見た卓球。瀧がステージ向かって右側に歩を進めるのを確認し、自分は左側へ動いた。そして、途中で歌うキーを変え、瀧と一緒にフレーズを繰り返した。

 2度のアンコールを終え、ライヴが終わったのは21時46分。
 冒頭でも書いたが、まさに電気グル―ヴ、全方位、一斉解禁なライヴであったが、解禁されて現れたのは、笑顔だった。
 ステージ上の石野卓球もピエール瀧も、agraphも、超満員の客席も、思う存分笑顔で“電気グル―ヴを楽しんだ”ライヴだったと思う。
 電気グル―ヴの楽しみ方はいろいろあるし、たぶんわりといろいろ知ってる方だと思うが、誰もが笑顔になるこんな楽しみ方もあるんだよな、と。
 2人の“今のオープンマインド”が、彼らならではのエンターテインメントにつながった、とてもいいライヴだったと思う。
 電気グル―ヴ、今なら、あっちこっち360度、全方向の扉、開いてます。あなたのお好きな扉から、どうぞ。
 バターン! あ、また新しい扉が、開いたみたい?

【取材・文 伊藤亜希】
【Photo by MASANORI NARUSE】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 電気グルーヴ

リリース情報

人間と動物(初回盤)

人間と動物(初回盤)

2013年02月27日

KRE

ディスク:1
1. The Big Shirts
2. Missing Beatz (Album version)
3. Shameful (Album version)
4. P
5. Slow Motion
6. Prof. Radio
7. Upside Down (Album version)
8. Oyster (私は牡蠣になりたい)
9. 電気グルーヴのSteppin’ Stone
ディスク:2
1. Hello! Mr.Monkey Magic Orchestra
2. SHAME
3. SHAMEFUL
4. Shangri-La
5. キラーポマト/KILLER POMATO
6. 誰だ!/DAREDA!
7. 虹/Niji
8. wire,wireless

このアルバムを購入

セットリスト

ツアーパンダ2013
2013.3.13@Zepp Diver City

  1. Intro
  2. The Big Shirts
  3. Missing Beatz
  4. Shame
  5. Shameful
  6. ZooDesire
  7. モノノケダンス
  8. SlowMotion
  9. アルペジ夫とオシ礼太
  10. DiscoUnion
  11. Hi-Score
  12. Monkeyに警告
  13. BBE
  14. P
  15. ポマト
  16. Prof.Radio
  17. Oyster
  18. UpsideDown
  19. TheWords
  20. FlashBackDisco
  21. Shangli-ra
  22. 少年ヤング
  23. N.O.
  24. あすなろサンシャイン
  25. Reaktion
Encore
  1. 電気ビリビリ
Double Encore
  1. Cafe de 鬼

トップに戻る