今春発売されたニューアルバム『アナログ』を引っ提げ、行われたチリヌルヲワカの全国ツアー「ヲワカ　春の蛇パンツアー」が、この6月15日の渋谷クアトロでファイナルを迎えた。最初の全国ツアーのファイナルとして立って以来、同ステージに上がるのも実に8年ぶりだという彼ら。ステージから発せられた熱量を会場が全力で受け止め返し、それをまたステージからバンドが放ち返す、そんなエネルギーの交歓が昇華されていったかのような一夜であった。

　過去から最新まで、多岐多彩に渡る彼らの歴史が堪能出来た、この日。中心となったのは、やはり、この日のセットリストに全曲組み込まれたニューアルバム『アナログ』からの曲であった。
　ベースのイワイエイキチの放つドライブ感と、サビの部分でのテンポアップが、会場のノリに火をつけた、1曲目の「マシーン」を皮切りに、「イロメキ」が会場をグイッとひっぱり、のっけからボーカル＆ギターのユウも、ステージ中央に設置されたお立ち台にてギターソロを披露。フロアの熱気に更に火をつける。また、「手遊び」では、ドラム阿部耕作が中心となり、日本的な土着性のリズムが会場に、お祭り的なダンサブルさを寄与。加え、中盤でも「永久-とこしえ-」が、会場をその永遠性あふれる曲の雰囲気に浸らせ、後半部には、ジャジーな「虎と馬」が会場にムーディーな雰囲気を寄与し、一体感と呼応性が印象的だった「作りかけの歌」での会場中からの一体感のあるハンドクラップは、ライヴでのハイライトの一つだったと言えよう。そして、本編ラストに飛び出した「連鎖」では、ミラーボールが回る中、至福感溢れる同曲の「♪歌い出すから、つながってると思った♪」のフレーズが、会場をことさら一つにしていった。

　ユウの雅(みやび)を感じさせる独特の和のメロディと時折見せる凛とした部分とファルセットを折り混ぜた各曲での歌唱はもとより、織り交ざる代表曲が彼らのこれまでの幅や各メンバーの高いプレイヤビリティを味あわせてくれた、この日。各箇所でギターの坂本夏樹の放つ、奇天烈なフレーズが不思議な空間を生み出していたのだが、それもユウがリズムギターをキチンと刻み、イワイ、阿部のリズム隊がしっかりとボトムを支えていたからこそ。その時の坂本のプレイはまさに天衣無縫。各楽曲の持つ世界観に、彼独特の不穏でいて、自由に泳ぎ回るギターが上手い助演を施していた。
　この日は、坂本に限らず、各メンバーともバンドの一丸性と一体感を大切にしながらも、演奏能力/技術を炸裂させていたのも特徴的であった。中でも、「再生可能」でのアウトロのインタープレイが会場をグイグイ惹き込めば、ポップさと弾んだロデオ調の「苔の生したこんな代は」では、坂本→イワイ→ユウ→阿部が各パートでショートながらもインパクト大なソロをリレーションで披露。ラストへ向かう勢いづけにもなった「甲と乙」では、センターのお立ち台上でイワイがソロを弾き、間髪置かずにその後ろでは、坂本がアンプの上に乗りギターソロを弾き倒す。これらの曲は、盛り上げどころはもちろん、各メンバー間のチームワークや楽曲に更なるドラマ性を持たせる為の、出るところ/引っ込むところの強い意識を感じさせた。
　また、代表曲とも言えるナンバーの連射には、フロアも黙っていなかった。後半に向けて会場をグイグイと惹き込んでいった「ホワイトホール」や「はなむけ」。スカビートが立てノリと呼応の嵐を呼んだ「シーホース」、目まぐるしい楽曲展開と譜割を詰め込んだ、ユウの情報量の多い歌が逆に心地よかった「天邪鬼」等は、チリヌルヲワカがノリの良いバンドとひとくくりにできない、様々な音楽性を擁し、消化したからこそ生まれたオリジナリティを立証してくれた。中でも、記憶に深く残るものだったのは、アンコールのラストを飾った「カスガイ」。同曲では会場中が天に腕を挙げる場面が発生し、一緒に終始歌っている光景も、まさに彼らの歌が、みんなの歌になった瞬間と言えよう。
予定になかったダブルアンコールにも応えてくれた彼ら。会場の呼応の声が力強い中歌われた「ヨスガ」では、阿部も興奮のあまりスタンディングドラムにて叩き、これでもかというぐらいの盛り上がりと沸きは、この日のエンディングにぴったりの爽快感を会場に残してくれた。

　コンパクトに、シャープに、伝えたいことをバシッと伝え切った、ダブルアンコールも含めた2時間、全22曲。ステージもお客さんも大満足な表情を終始していたのが、この「春の蛇パンツアー」が大成功だったことを、改めて物語っていた。

【取材・文：池田スカオ和宏】