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大好評!吉川晃司、連載。本人の出身地、広島でのライヴを独占取材!!

吉川晃司 | 2013.08.16

 羽田空港から1時間と少し。
 そこには、東京とは違う夏があった。
 息苦しいくらいの暑さ。皮膚をひっかく日差し。空は高いが、雲は厚い。そして風ひとつ無い。セミの鳴き声だけが響く昼下がり。時間が止まっているようだった。
 水蒸気のようなお天気雨が、静かに静かに、時を刻んでいた。
 2013年、8月3日。土曜日。15時を過ぎた頃。
 広島の街は、記録的な暑さに、じっと息をひそめているように静かだった。

 17時過ぎ。広島・上野学園ホール。開場予定時間、30分前。会場の入り口近辺には、既にたくさんの人で溢れていた。正面玄関前の駐車場には、本ツアー用にデコレートされたツアートラックが停まっている。強い日差しに、ジェラルミンの車体が乱反射していた。その光をうまく使いながら、トラック前で記念撮影している複数のグループ。お互い、譲り合い、シャッターを切りあい、写真を見せあいながら、談笑したりしている。その口調は、心なしか、いつもよりも早口のようだった。
 期待と興奮が、猛暑の中で陽炎のように揺れていた。

 5月5日の浦安市文化会館からスタートした、吉川晃司の全国ツアー“KIKKAWA KOJI LIVE 2013 SAMURAI ROCK BEGINNING”。ファイナルの日本武道館まで全18公演を行う本ツアー、そのホールシリーズの最終日で、セミファイナルライヴが、始まろうとしていた。

 会場が暗くなる。ざわめきとともに、立ち上がる観客。歓声が飛ぶ。女性の声。男性の声。斜め前の席にいた子供が、背伸びをして手を挙げる。バンドメンバーが姿を現す。抒情的なサウンドが響き始める。ステージバックのスクリーンに映像が流れる。はためく白い旗が、迷彩に塗り替えられていく。迷彩は、形を変え日本列島に。アルバム『SAMURAI ROCK』の深遠の一部を切り取ったかのようだ。スクリーンの中央に、吉川晃司のアップ。閉じられていた目が開かれる。曲は「覚醒」。アルバム1曲目のタイトルだ。ステージ中央から、シルエットが歩み出してくる。インストルメンタルの曲調が変わる。大歓声。壮大なバンドサウンドの波に、吉川晃司がギターで切り込んでいった。ギターを下げたままのスタイルで、2曲目「DA DA DA」へ。エッジの効いたパンキッシュなノリが特徴のスピードチューン。白い光が激しく明滅する。続く、コケティッシュなリズムが軽快なブライト・ナンバー「Do the JOY」では、スクリーンに劇画タッチなイラストが登場。赤い空と富士山。そのふもとには、観覧者とビル群などの街並み。海からは大きな波。吉川が歌う。♪ この太平洋(うみ)はいただけない ♪ 映像のイラストでは、この波の向うを吉川晃司の横顔が見詰めていた。ステージでアクションする本人は、スッと自分の目元を差し、その後、上空を指さす仕草を見せた。、緊張感をキープしたまま、アルバム『SAMURAI ROCK』のストーリーが、目の前で開いていく。スタンドマイクを手繰り寄せ、ちょい奇天烈なギターフレーズが耳に残るエイティーズ・ディスコ・ナンバー「I’m Yes Man」。サビのブレイクでは、観客全員が、本人のアクションに合わせて小粋なクラップを響かせた。ホンキートンクなリズムとホーンの音が楽しいミディアム・チューン「Lovely Mary」では、リズムに合わせて少しステップする吉川。じっくりメロディーを聴かせるアダルトなナンバー「FIRE」では、スクリーンに炎が。吉川も照明で真っ赤に燃えあがる。会場にいた男性が叫んだ。「ぶち、カッコイイ!」。ハットを被り、ハンドマイクでドラマチックなバラード「Nobody’s Perfect」へ。吉川のボーカルのひとつの武器である低音が、ゆったりと空間を満たしていく。少しクールダウンする思考回路。ここまでのサウンドで研ぎ澄まされた耳が、こんな言葉をキャッチした。
 ♪ それだけが命の証……さあおまえの罪を数え 魂に踏みとどまれ ♪
 CDで聴いていた時よりも、言葉が鮮明に見えてきた、そんな印象。この印象が、これから自分の中でどのように変化していくのか。鮮烈にするのも、戦慄を感じるのも、たぶん、自分次第だ。言葉は、まずはしっかり受け止めることで、初めて自分の中で意味を持ってくる。それがどういう意味であっても、いいと私は思う。正解はひとつではない。それが音楽の醍醐味だ。
 ここで初めてのMC。「はいはい、帰ってきましたよ」と、出身地のライヴならではのMC。「久しぶりじゃのう、元気にしとったかい」と、広島弁、全開。完全に地元モードだ。観客も同様に広島弁でレスポンス。「しかし熱いのう……」と、衣装に触れたりしていたが、言葉数はいたって少な目。元々、ライヴ中のMCでは饒舌な方では無いが、それでも今回のツアー、特に本編では、MCが少なかった。思えば、吉川晃司は、ツアーの初日のMCにこんなことを言っていた。
 「今回のライヴは、あまり話しませんから。いつも以上にMCを少なくしようか、と。話したいことは、全部アルバムに込めたつもりなので、それでいいかな、と。だから(ライヴを重ねていく中で)特に前半は、MCがどんどん短くなっていくと思うんで。MCほとんどありませんから。そういうライヴですから。それぐらいのアルバムを作ったと、思っているんで」
 アルバム『SAMURAI ROCK』のエンディングを飾るバラード「survival CALL」では、ツアー前半では見られなかった新しい演出が登場。スクリーンに次々とモノクロ写真が映し出された。最初は、たぶん、大震災の被災地の最近の風景。並行して空を飛ぶオスプレイ、戦闘機。2011年3月11日以降、ニュースでよく見たあの港町の爪あと。白い煙を吹く原子炉。2013年参院選挙の結果速報の画面。TPP反対のデモ行進の様子。選挙カーの上で演説している立候補者……。目の前に、日本の現状が次々と飛び出してくる。聞けば、この広島公演の数公演前から加わった演出だったそうだ。
 写真を使うことでリアリティーも印象づけられるし、非常にインパクトのある手法だと思うが、インパクトが強い分、他の演出を圧倒してしまう。ライヴ前半を使って積み重ねてきたストーリーが、この演出ですべて上書きされてしまう危険性もあると思うのだ。もちろん、本人もその危険性は重々承知しているところだろう。それでも、演出として加えたのには大きな理由があるのではないかと思った。
 この演出を目の当たりにして、吉川晃司は、本アルバムのメッセージの発信の仕方について、まだまだ模索中であると思ったのが、個人的には正直なところ。しかしながら反面、この模索、一生続くんだろうな、だったら表現しがいがあるんじゃないの? と思ったのも、また本音である。
 「survival CALL」会場全体に、観客が掲げたサイリウムが光った。
 ライヴは後半へ向かっていく。
 1度、ステージを後にした吉川晃司。着替えて再びステージに上がった後は、ど派手なサビで大合唱になる「FANTASIA」へ。抜群のスケール感を持ったダイナミックな1曲だ。ゆえに、以前からアンセムソング的な印象があったが、この日は、特にアンセム色が強かったように思う。それだけ、ライヴの前半のストーリーが、強く残っていた証拠だったのではあるまいか。「PURPLE PAIN」が終わるとMC。始球式(8月6日に行われたピースナイターの始球式に登場。111キロのボールをストライクゾーンに投げ込んだ。8月7日付のスポーツニュース、ネットニュースなどでも取り上げられた)の話題から、そのために練習した、投げるフォームを変更したら球のスピードが落ちたと笑いをとった後、こう続けた。
 「たぶん(当日は)力が入りすぎてワンバウンドじゃのう(観客:笑)。……ま、あんまり長くしゃべると、怒られるけんね(笑)」と笑いながらメンバー紹介へ。緊張が続いていた会場に、初めて笑いが起こった。
 観客全員が吉川と一緒に手を振った「せつなさを殺せない」、激しいアクションでマイクを落としそうになった「A-LA-BA-LA-M-BA」、BPM198のハイパー・ギター・ロック「GOOD SAVAGE」などで、観客を沸かせた後、本編最後は、トライバルでエレクトリックなパーティー・チューン「Juicy Jungle」。歌って踊った観客は笑顔で大きく手を振った。
 「笑顔で再会できる、これほど嬉しいことはありません。みんな、また笑顔で会いましょう」
 こう言って、吉川晃司はステージを後にした。
 アンコールでは、最初に本人が登場。メンバーを1人ずつ呼び込み、時に笑いもとりながらそれぞれと会話を展開。バンドメンバーのリアクションに、本人が大笑いする場面も。そして吉川はマイクをとった。
 「じゃあ、懐かしの……というか、皆さんの好きそうなのやって、その次にこっちの好きなのやって、で、帰ろうかの」
 大喜びする観客に放たれたのは「LA VIE EN ROSE 2011」。エンディング。最後の ♪ ラヴィアンローズ ♪ というワンフレーズで、歌のロングトーンとともに、スタンドマイクと一緒に後ろに倒れこんだ吉川晃司。この後、マイクの音が出なくなるというハプニングが! 音の出なくなったマイクに噛みつくような真似をし“ダメじゃん!”と、お手上げジェスチャーをしたのが、ちょっとキュートだった。口に両手をあてている女性ファンが、複数おりました。
 最後の曲「この雨の終わりに」を歌い終えると、吉川晃司はマイクをとった。
 「来年、30周年。またその時、ツアーで回ってきた時に、笑顔で会えればいいな」と、本編最後の言葉を繰り返した後「伝えたいことがある」と、今のこの国は、正しい情報は探しにいかなければならない国になってる……と、シビアな持論を展開。そして少し話した後、こう話しをまとめた。
 「最後にごめんね。でも、いいでしょ。セミファイナルだし」
 観客から拍手。吉川が観客を見渡す。見たことのない表情。葛藤や迷いが少し顔に出ているのだろうか。グッとマイクを改めて握りなおした吉川晃司は、いつものようにサラっとした口調で、最後にこんな言葉を残して、大きな背中を向けた。
 「愉快な音楽、楽しい音楽。それはそれで素晴らしい、ずっとやっていきたい。同時に、その音楽の中に、喜びも悲しみも、そしてそことは別に、考えることもあって。でもこれから、そのすべてを皆さんと一緒にやっていきたいと思っています。今日はありがとう」

 次回は連載、最終回。8月17日、土曜日の日本武道館ライヴをレポートします。

【取材・文・構成:伊藤亜希】
【撮影:HIRO KIMURA】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 吉川晃司

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リリース情報

SAMURAI ROCK(初回盤)

SAMURAI ROCK(初回盤)

2013年04月16日

ワーナーミュージック・ジャパン

ディスク:1
1. 覚醒
2. DA DA DA
3. DO the JOY
4. I’m Yes Man
5. Lovely Mary
6. FIRE
7. Nobody’s Perfect
8. SAMURAI ROCK
9. HEART∞BREAKER
10. 絶世の美女
11. survival CALL
ディスク:2
1. 地下室のメロディ

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お知らせ

■ライブ情報

KIKKAWA KOJI LIVE 2013
SAMURAI ROCK BEGINNING

2013/05/05(日)浦安市文化会館
2013/05/12(日)オリンパスホール八王子
2013/05/19(日)鎌倉芸術館 大ホール
2013/05/25(土)静岡市民文化会館 中ホール
2013/05/26(日)大宮ソニックシティ 大ホール
2013/05/31(金)中野サンプラザホール
2013/06/02(日)東京エレクトロン韮崎文化ホール 大ホール(山梨)
2013/06/09(日)福岡市民会館
2013/06/16(日)栃木県教育会館
2013/06/22(土)金沢市文化ホール
2013/06/23(日)新潟市民芸術文化会館・劇場
2013/07/07(日)札幌市教育文化会館・大ホール
2013/07/13(土)アルファあなぶきホール(香川県民ホール)・小ホール
2013/07/14(日)大阪・オリックス劇場
2013/07/20(土)日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館)
2013/07/28(日)仙台市民会館 大ホール
2013/08/03(土)広島・上野学園ホール

KIKKAWA KOJI LIVE 2013
SAMURAI ROCK BEGINNING TOUR FINAL

2013/08/17(土)日本武道館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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