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吉川晃司、連載、最終回。ツアー連動の連載、最終回はファイナル日本武道館レポ。

吉川晃司 | 2013.09.04

 開演から間もなく2時間半が経とうとしていた。
 猛暑の中、本人同様、ハイスピードで駆け抜けた観客=同士たちの額に汗が光る。日本武道館。そのあちこちで笑顔がはじけていた。その様子を見ながら話をしていた吉川晃司が、この日のライヴをこう振り返った。

「今日はクールに決めて、ダンスしてと思ってたけど、なんか最後には、ハプニングもあってそれどころじゃなくなっちゃったね(笑)。でもこういうライヴも、なかなか無いだろうから。皆さんと一緒に共有できて良かったです。アルバム『SAMURAI ROCK』に込めた想いは、映像でも出たんで、わかってくれたんじゃないかと思います」

 八角形の天井に拍が反響する。5月から始まった全国ツアー“KIKKAWA KOJI LIVE 2013 SAMURAI ROCK BEGINNING”。全体的にMCが少なめだった本ツアーだが、この日は珍しく饒舌だった。
 8月17日、土曜日。日本武道館。全18公演を行った本ツアー、そのファイナルライヴのアンコール。観客の声に応え、再びステージに姿を現した吉川晃司が言葉を綴る。

「今後も、細かいこと、ぐだぐだと言っていくんで、1人の意見として、あぁこいつ考えているんだなと思って、聞いてください」

 そして彼の言葉は、本人曰くの細かいことに“言及”していく。この連載でも、本人のインタビューはもちろん、ライヴを追い続けることで、様々な視点で何度も書き続けてきたことである。もし可能なら、もう1度、連載を最初から読み返してみて欲しい。彼がこのツアーで伝えたかったことの片鱗が、改めて見えてくるのではなかろうか。吉川の表情が変わる。目元がふと緩む。

「来年は30周年だから、また皆に、ここで笑顔で会えれば。2013年はこの30年間でいちばんいろいろあって、途中で回路が壊れたりもして。失ったものもたくさんあるけど、得たものもたくさんある。だから、30周年以降は、吉川、もっと面白くなると思うから、楽しみにしていてください」

 大きな拍手。この後、メンバー紹介を兼ね、バンドメンバーを1人ずつ呼び込んだ吉川。メンバーそれぞれのボケを拾ったり、一緒にボケたりしながら、和やかなムードを作っていく。その流れで、次の曲をこう紹介した。

「じゃアンコール、ちょいと歌わせてもらいます」

 この言葉をうけ「さよならは八月のララバイ」。1984年にリリースされた、2枚目のシングルだ。原曲よりもクール&スマートなグル―ヴに仕上げてきたが、この曲随一の特徴でもあるガラスの割れる音はしっかり残してきた。しかも、ど頭イントロにも、当時の音で入れてきた。クーっ、にくい! オーディエンスも大喜びで、サビでは大合唱になった。懐かしさがピアノの調べに変わっていく。次の曲のイントロ。下を向いてピアノを聴いている吉川。ゆっくりと顔を上げながら歌いだしたのは「この雨の終わりに」だった。途中 ♪ 空の向こうへ ♪ というワンフレーズに合わせ、ステージ上空からムーヴリングライトが一斉に動く。日本武道館に降り注ぐ光の破片。そのひとつひとつが、希望のかけらのように見えたのは、気のせいだっただろうか。
 曲終りで、吉川が再びマイクをとった。

「予定に無かったけど、ホッピー(神山)さんと2人でもう1曲やって帰ります。私から、いろんな思いを受け取ってください」

 大歓声。スタンバイする吉川晃司。微動だにしないその姿が、静寂を誘う。ピアノの弾き語りで歌われたのは「IMAGINE」の日本語バージョンだった。日本詞を手掛けたのは、忌野清志郎さん。1988年にRCサクセションがリリースしたカバーアルバム「COVERS」に収録された1曲である。吉川は、この曲を広島原爆の日である6日に、広島市のマツダスタジアムの「ピース(平和)ナイター」で始球式を行った後、一部の歌詞を変えて熱唱。この日も6日と同様の歌詞で歌いきった。
 余韻の中、ゆっくりと拍手が大きくなっていく。万感がしっかり届いたと感じたのか、それともここからが何かのスタートだと思ったのか――吉川晃司は、これまで見たことのないような複雑な表情をした後、最後にいつもの笑顔に戻ってこう言った。

「ありがとうございました じゃあみんな、次に会う時まで元気でね!」

 右手を軽く上げて、大きな背中がステージ向こうに消えていく。
 時計の針は、20時40分を指そうとしていた。

 18時過ぎ。満員の日本武道館が暗転する。絶叫がいきかう。歓声という名の期待が、日本武道館の空気を一瞬で塗り替えていった。オープニングから前半の半分は、アルバム『SAMURAI ROCK』のブロック。ほぼノンストップで、アルバムを1曲目から順番に披露。イラストや写真などの映像とリンクさせた大胆な演出で展開していく。バリエーション豊かな曲調の中には、ブライトでキャッチーな楽曲や、ディスコ・ビートのナンバーもある。さらには1曲1曲がタイトな構成ということもあり、サウンド面だけにスポットを当てれば、決してシリアスな印象は無い。しかしそこに、歌詞がのり、映像が加わり、鬼気迫る吉川晃司の歌声と表情が加わると、メッセージ性が生まれてくる。それは、時にあまりにインパクトが強くて、正直、観客として持て余してしまった瞬間が何度かあった。この“持て余してる感”を解決させたのが、ライヴが後半へ向かう時のひとこまである。アルバム『SAMURAI ROCK』最後の曲「survival CALL」。その歌詞は、アポロ計画、さらに言えば、月面着陸を彷彿させる内容だ。スペイシーな効果音、スクリーンの映像も相まって、宇宙から地球を見つめているような視点になる。歌を終え、暗転した中、吉川晃司は一旦ステージを後にする。その後、メンバー紹介を含んだ、ビックバンを思わせるような映像を挟み、再び本人が登場。明滅するステージの中、後半戦のトップバッターとして放たれるのが、ど派手なアップチューン「FANTASIA」だ。この曲の最初を飾る呪文のような ♪ NEVER HAVE TO WORRY ABOUT A DARK DAY JUST FIND YOUR WAY TO FANTASIA ♪ という言葉、そして楽曲の歌詞を、地球のことかも……とイメージできてしまうのが、今回のライヴである。前半ブロックの最後の曲で“生きる場所はこの先 あるだろうか♪ と歌った直後に、♪砂漠にKISS(中略)世界にKISS(中略)消えろこの闇 ファンタジア ♪ と吠える。これまで何度となくライヴで聴いてきたお馴染の曲に、新たな意味が宿る。新しいエネルギーを見い出すことが出来る。強いメッセージそのものも大切だが、私にとってもっと大切だったのは、吉川晃司が作りだしたストーリーを読み解くことだった。そのことに気がついた時、ほんの少しだけ気が楽になった。アルバム『SAMURAI ROCK』が、自分の中で自然に消化された瞬間だったからだろう。

 吉川晃司が操るロックンロールダイナソーが、一斉に雄叫びをあげる。客席を飲みこむ白光のフラッシュライト。2階席に設置されたスクリーンに、ライヴ映像が踊る。空中に何度もパンチを繰り出す吉川。「FANTASIA」に続く「PURPLE PAIN」では、ラストで見事にシンバルキック⇒ステージ上で上着の裾を翻すターンを決めた。
「シンバルキック、うまくいきましたね」とひとこと。観客から拍手喝采。吉川が続けた。

「シンバルがあるから蹴る…そんなんで、人生いいんじゃないか、と。こうやってみんなが集まってくれるから、頑張って歌えます(会場から拍手)。はい、そんじゃあ、一緒に歌いましょうのコーナーです!」

 と言い、吉川は首を少し傾けて見せた。客席のあちこちから笑いが起こるも、そんな様子を無視して、次の曲へ。「せつなさを殺せない」。ゆっくりとステージを歩きながら、観客にマイクを向ける吉川。少しカメラ目線で顔を作ってみたりと、ちょっとお茶目な一面に、黄色い声が飛んだ。サビでは大合唱&観客全員のスルーユアハンズが武道館を彩った。突然「指がつった、ちょっと待って」と吉川。自分の手の指をぐりぐり伸ばしながら、ギターのEMMAとこんな会話を展開。吉川「初めてつった。いや、2回目だ、最初は無人島の時、カリウム足りなくなって……」うんぬんかんぬん、指、ぐりぐり。EMMA「僕はすぐ足がつるんだよね。人生で、2回しかつってないの? すごいね(笑)」この言葉に、観客賛同して客席が沸くも、その様子を無視して、吉川晃司はこのくだりをこうまとめた。

「なんで日本武道館ファイナルなのに、俺達、漫談やってんだよ!」

 どっかーん! 観客、大爆笑。この感じ、ファイナル公演ならではのサプライズと言えるかも……なんて思っていたら、もっとすごいことが起こった。20曲目。スピードチューン「Fame&Money」の間奏。曲に合わせて踊っていた吉川晃司が、突然、ぶっ倒れたのである。ステージに緊張が走る。吉川の様子を気にしながら、それでも演奏を止めないメンバー達。ふらふらとスタンドマイクを探す様子に、すわ、酸欠かと思ったが、マイクの前に立ち、頭をブルリと1回振った後、再び歌いだした吉川の様子に、酸欠じゃなかったんだと安堵。なぜなら彼は、曲のグル―ヴにすぐ飛び乗り、それまで以上にロングトーンを使いながらシャウトしたからだ。周囲を見渡せば、たくさんの観客達の両手があがっている。そこには、長い時間をかけて積み重ねてきた、吉川晃司とそのファンの関係性が垣間見られたようだった。
 倒れても、また起き上がることを信じているーーそんな信頼関係が。

 本編最後は、ダンサブルなアップチューン「Juicy Jungle」。2006年に発表されて以降、必ずと言っていいほどライヴのセットリストに入っている曲である。ハウスのリズムがフィーチャーされたダンスミュージックであるゆえ、元々プリミティブな印象が強い曲だったが、ライヴで回を重ねるにつれ、観客の反応なども含みピースフルな1曲に変化していった。2013年現在、吉川と観客をつなぐ、重要なアンセムソングになっている。
 腰をくねらせ、踊りながら吉川が叫ぶ。レスポンスする観客。明るくなる会場。無数の銀色のテープが弧を描く。K2マークやハートを形どった白いスチロールが、ひらひらと舞い降りてくる。銀のテープにも、K2マークにもハートにも、無数の手が伸びていく。テープもマークもハートも、たくさんの手に握られていた。
 手を伸ばして握った、この日のかけら。この日の想い。自ら手を伸ばし自分の意思で握る、何か。手を伸ばす意思を、手にする貴重さを、これからもふとした瞬間に意識していけるだろうか。吉川晃司は、これからも何度も諦めず、言葉にしてくれるだろうか。

 この日、吉川晃司ははっきりこう言葉にした。

「失ったものもあるけど、得たものもある。吉川、もっと面白くなると思うから、楽しみにしていてください」

 2014年、吉川晃司は、デビュー30周年を迎える。
 もっと面白くなった吉川晃司をなるべく早く見せて欲しいと、切に願う。

【取材・文・構成/伊藤亜希】
【撮影:TEPPEI】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 吉川晃司

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リリース情報

SAMURAI ROCK(初回盤)

SAMURAI ROCK(初回盤)

2013年04月16日

ワーナーミュージック・ジャパン

ディスク:1
1. 覚醒
2. DA DA DA
3. DO the JOY
4. I’m Yes Man
5. Lovely Mary
6. FIRE
7. Nobody’s Perfect
8. SAMURAI ROCK
9. HEART∞BREAKER
10. 絶世の美女
11. survival CALL
ディスク:2
1. 地下室のメロディ

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お知らせ

■ライブ情報

KIKKAWA KOJI LIVE 2013
SAMURAI ROCK BEGINNING

2013/05/05(日)浦安市文化会館
2013/05/12(日)オリンパスホール八王子
2013/05/19(日)鎌倉芸術館 大ホール
2013/05/25(土)静岡市民文化会館 中ホール
2013/05/26(日)大宮ソニックシティ 大ホール
2013/05/31(金)中野サンプラザホール
2013/06/02(日)東京エレクトロン韮崎文化ホール 大ホール(山梨)
2013/06/09(日)福岡市民会館
2013/06/16(日)栃木県教育会館
2013/06/22(土)金沢市文化ホール
2013/06/23(日)新潟市民芸術文化会館・劇場
2013/07/07(日)札幌市教育文化会館・大ホール
2013/07/13(土)アルファあなぶきホール(香川県民ホール)・小ホール
2013/07/14(日)大阪・オリックス劇場
2013/07/20(土)日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館)
2013/07/28(日)仙台市民会館 大ホール
2013/08/03(土)広島・上野学園ホール

KIKKAWA KOJI LIVE 2013
SAMURAI ROCK BEGINNING TOUR FINAL

2013/08/17(土)日本武道館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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