“SPICE BOYS”ツアーが、いよいよファイナルを迎える。最初、ファイナルが中野サンプラザと聞いて、ちょっと不思議だった。サンプラザは山下達郎ご用達のホールらしく、音の分離が良くてアンサンブル指向のポップミュージックに向いている。だが、ロックバンドには“音に包まれてる感”がないので、割と敬遠される会場なのだ。だから、なんでそこでMTR&Yバンドがやるのだろうと思ったのだ。が、そんな心配をする必要はまったくなかった。4人はサンプラで思う存分暴れ回り、見事なファイナルを見せてくれたのだった。

　ステージには、奥田民生（以下OT）にしてはカラフルなセットが組まれている。左右にはウッディーな塔が組まれ、赤や黄色の布が張られている。言ってみれば、メキシカンなフィーリング。さてどんなライブが行なわれるのだろう。

　オープニングは、前日リリースされたニューアルバム『O.T. Come Home』の収録曲「マイカントリーロード」だ。PUFFYに提供されたこの曲は、OT自身も気に入っていて、『O.T. Come Home』でセルフカバーされたのだ。さすがに１曲目に置かれるだけあって、大らかなロック・アレンジはMTR&Yのバンドカラーにピッタリ合っている。特に斎藤有太のオルガンの音の抜けが良く、早くもここでサンプラの特長が発揮されて、この後が楽しみになる。OTのギターの音も、凄くいい。またこの曲はサビのベースラインがよく出来ていて、おそらくそれがOTがオープニングにピックアップした理由なのだろう。小原礼はそんなOTの気持ちを受け取って、バロック音楽のようなラインのベースを鳴らす。
　続く「青春」では、湊雅史のドラムが豪快なシャッフルのリズムを刻む。青春のこっ恥ずかしい一面を描くこの歌は、今聴くと別な解釈が出来る。若い頃に進むと決めた道を黙々と行くOTの心情が、直に伝わってくる。

　「サンプラザは歴史のあるところ。その昔、ユニコーンというコミックバンドで、チラッとやったことがある（笑）。ラウドネスを観に来たこともあったな。最近はこういう昔からあるホールが、なくなったり、楽屋が妙にきれいになったりして。でも、残ってるここでやれてよかった」と、まずは最初のMC。 そのままメンバーの年齢談義になる。なんとなく聞いていたが、4人の合計が200才を超えていることに気付いて、彼らの音の若さに逆に驚いてしまった。

　そんな200才オーバー・パワーが爆発したのは6曲目の「荒野を行く」だった。マカロニ・ウエスタンの主題歌のような曲調が、今回のセットに妙に似合う。5thアルバム『GOLDBLEND』に収録されたこの曲は、OTがひたすらツアーを行なっていた時期の作品だ。3曲目の「ツアーメン」、11曲目の「あくまでドライブ」はほぼ同時期の4th『股旅』収録曲だが、同じ匂いが漂っている。そうしてみると今回のセットは、旅回りのサーカスのようにも見えてくる。♪見えそうで　消えそうな　道を行く♪という歌詞が、先の「青春」と重なって、このツアーの裏テーマらしきものが胸に押し寄せる。

　「なんだかわからないパンフを出し続けてますが、みんな、よく買ってくれるよね。みんなはパンフレットに何を求めてるの？」とOTが切り出す。そう、OTのツアーパンフは、ずっとソラミミスト安齋肇の手による前代未聞の企画が満載なのだ。ちなみに今回は、栃木県日光市にある東武ワールドスクエアでロケしたもの。そこには世界遺産を含む世界の有名建築の25分の１の模型がたくさんあるのだが、「普通は行かないですよ。パンフはオレと安齋さんの個人的思い出なんです」。そうした“個人的な思い”からの作品作りは、OTの音楽にも言えること。それを徹底的に突き詰めることで、個人を超えてみんなが楽しむことができる何かが生まれるのだ。僕はOTがパンフに言及するのを初めて聞いたが、ここまでそうしたパンフ作りを続けてきた手応えをつかんだからこその発言に思えた。さらに言えば、2年後に発表されるであろう「ゲージュー★ライダー」の歌詞にそれは反映されるだろうと勝手に予言したい。

　それにしてもMTR&Yバンドは、４人の個性がドスンドスンとぶつかって、太いサウンドを出す。終盤の「イナビカリ」や「御免ライダー」は、もう誰も追いつけないレベルのロックとして、日本の至宝と呼びたくなる。
　アンコールの「なんでもっと」ではそんな“至宝OT”が、ギブソンの至宝“1959年製レスポール”を抱えて素晴らしいソロを取る。それは、どんなにサンプリングやシミュレーターが進化しても決して得ることのできない音を発していて、OTがいつも言う“音楽の歓び”を実際の音として聴かせてくれた至福の瞬間だった。

　ダブル・アンコールでは、この日、オープニングアクトを務めた住岡梨奈を呼び込んで、「夕陽ヶ丘のサンセット」のリードボーカルを任せる。この曲は住岡が自身のアルバムでカバーしているが、OTはバックに徹してギターを弾く嬉しさを満喫。「なんつうんでしょ、この爽やかさは！　バンドにもう一人入れようぜ！」という爆弾（笑）発言まで飛び出した。

　最後の最後は「イージュー★ライダー」。この曲はメロディの最後が“ナインス”という難解な音程で終わるのだが、不自然さをまったく感じさせず、オーディエンスも難なく合唱する。そんなOTという天才ソングライターの今を、満喫したファイナルだった。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：山本倫子】