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平井堅、15年目のKen’s Barでも変わらぬ歌バカぶり

平井堅 | 2014.06.11

 会場をバーに見立て、お酒やドリンクとともに、“店主・平井堅”の歌を嗜むコンセプト・ライブ「Ken’s Bar」。オリジナル曲に加え、洋・邦のカバー曲を最小のアコースティック編成で聴かせるというものだ。だが、バーと呼ぶにはあまりにも広い会場、スタンドまでぎっしりと埋め尽くされた客席。それでもステージに浮かぶシャンデリアの灯はロウソクのように温かく、ゆらゆらと揺れた。皆リラックスした様子で開演を待つ。開店から15年、どれだけ規模が大きくなろうとも、「Ken’s Bar」のコンセプトは今以て受け継がれている。

 ゆっくりと照明が落ち、弦楽隊が静かに着席すると、黒づくめの平井がステージに登場。椅子に腰かけ、ひとつ息を吐く。「やつらの足音のバラード」はアカペラで始まった。彩りを添えていく美しいストリングスの調べに体を任せる平井。オープニングの緊張感も心地よい。「今宵も命がけで歌わせていただきます!」。カバーへの入り口となったという「大きな古時計」、鈴木大のピアノをバックに歌う「家族になろうよ」と続く。大神田智彦の弾くジンジンと震えるウッド・ベースと観客の手拍子をリズムに、間奏では口笛も飛び出した「グロテスク」はこの日が初披露のスペシャル・バージョン。粘りのある歌を聴かせる平井のモノクロの映像と、技術を駆使した照明のコントラストが目をひく。石成正人の掻き鳴らすアコギから、店構えをカラフルに変えた「タイミング」。キメのポーズはPOP STARらしく。「カバーもやりたい、オリジナルもやりたい」、この臆面もない“歌バカ”ぶりこそが平井の真骨頂だ。

 天然素材だけでできているような平井のシルキーな声は、生楽器によく合う。時折スクリーンに映る横からのアングルで見るその背中は真っ直ぐだ。音程に合わせて上下する右手も、気持ちいいほどスッと伸びている。歌にたっぷりと情感を込めようとも、これみよがしに前のめりになることはない。不惑を超えた男の「瞳をとじて」は、繊細さを伴いながら、いっそう盤石であることを物語っていた。

 やや長めの休憩時間をとり、落ち着きを取り戻した店内。第二部のステージに上がった平井の白いコート姿に会場がざわつく。幕開けは、この日リリースの最新カバー集『Ken’s BarⅢ』にも収められていた「いとしのエリー」。自他共に認めるサザン・フリークである平井、見事なまでに楽曲を自らに引き寄せ、軽やかに華やかに歌いあげる。だが、この日のライブで最も胸を打ったのは、直近のシングルに収録され、ステージでは初披露だという「青空傘下」だった。いつものようにユーモアを交えながら「息も吸えないくらい辛かった」少年時代の苦い経験と曲に込めた自身の思いを語る平井。結局は「何が言いたいのかわからないですけれども」と、またいつものように笑いながら歌に入った瞬間、少年・平井堅のいる景色が脳裏に描かれる。頭上に広がる水色。大人になった平井少年の思いは、一瞬の無音の後、遠くへ放たれた。聴いているこちら側の心もまた解放されていくのがわかる。それは与えられた/もらった感動などではなく、あくまでも彼の歌がもたらした自然な作用としか言いようがない。

 だが彼はその余韻を引きずらないし、引きずらせない。それをスマートにやってのける。嬉々としてNYでのジャケット撮影秘話を披露し、笑わせ、次のステージへと進む。この根っからのエンターテイナー気質は、彼の血肉となっている黄金期の音楽シーン、その賜物だろうか。なごやかになった会場に平井のフィンガー・スナップが響き、1万5千人の手拍子と重なる。「切手のないおくりもの」。陽気なブラス隊が奏でる音の上でフェイクが転がった。「Virtual Insanity」は、いつの日か小さなライブスペースで聴いてみたいと思わせる名演であった。

 暗闇に吐息だけが響く。吸い込んだ息は「Love Love Love」になった。総立ちの観客は、「Ken’s Bar」スタートの年に世に出たこの曲を、今も愛してやまない。一気にスケールが広がった。“いい曲をいい声で歌う”。それがカバーであれ、オリジナルであれ、それ以上でもそれ以下でもないことの凄味。「15周年は通過点に過ぎません。年甲斐もなく、まだまだ自分に伸びしろがあると信じて、これからも攻め続けたいと思います」。縦横無尽にポピュラーミュージックに切り込んできた彼の新たな決意、その無敵感。ステージの端から端までキラキラの魔法を振りまいた、読んで字のごとくの「POP STAR」は、はじけ飛んだ銀テープと共に大きく地面を蹴った。

「『Ken’s Bar』開店の時に書いた曲。これからも大切に歌っていきたい」。ピアノの弾き語りによる「even if」で締めくくられたアンコール。これまでと同様、この日も最初から最後まで命がけの“歌屋”であり続けた平井堅。来年、デビュー20周年を迎える。

【取材・文:篠原美江】
【撮影:田中栄治】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 平井堅

リリース情報

Ken’s Bar III(初回限定盤A)(DVD付)

Ken’s Bar III(初回限定盤A)(DVD付)

2014年05月28日

アリオラジャパン

1. Open
2. even if ~instrumental~
3. 家族になろうよ
4. 順子
5. WE’RE ALL ALONE
6. いとしのエリー
7. Love Is Blind
8. Intermission
9. Virtual Insanity
10. 切手のないおくりもの
11. タイミング
12. やつらの足音のバラード
13. KILLING ME SOFTLY WITH HIS SONG
14. マイ・ウェイ
15. Close

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セットリスト

Ken’s Bar 15th Anniversary Special!
Vol.4
2014.5.28@さいたまスーパーアリーナ


[第一部]
  1. やつらの足音のバラード
  2. 大きな古時計
  3. 家族になろうよ
  4. グロテスク
  5. タイミング
  6. 瞳をとじて
  7. Love Is Blind

[第二部]
  1. いとしのエリー
  2. 青空傘下
  3. 順子
  4. 切手のないおくりもの
  5. Virtual Insanity
  6. LOVE LOVE LOVE
Encore
  1. POP STAR
  2. even if

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