go!go!vanillasの事務所に手紙が届く。差出人はUNISON SQUARE GARDEN。そこにはイベントへの出演依頼が熱く綴られていた。またパスピエの成田ハネダ(Key)は、ユニゾンの田淵智也(Ba)からこうムチャぶりされた。「あたまでセッションしてくれない？」

　UNISON SQUARE GARDENの自主企画イベント「fun time ACCIDENT」は、準備期間から想定外で進められていた。さらにこれは喉のポリープ摘出手術を受けた、ユニゾンのヴォーカル斎藤宏介の本格復帰も兼ねている。盛り上がらないわけがない。

　瞬く間に埋まったフロア。オープニング・アクトは2011年結成のサンドクロックだ。永田佳之(Gt&Vo)と滝田周(Key&Vo)によるユニットで、2人が交互に、時にハモりながら良質のポップスを歌う。介護にまで及ぶ人生設計的なラブソングなど、視点の鋭さも際立つ。初の大舞台に関わらず、その反応は上々だった。

　「ジャーン!!」と大音量でカマした一番手のgo!go!vanillas。前のめりなビートに乗せて、フォーキーな熱い歌で、自分達のペースに巻き込む。特筆すべきはそのサービス精神。変化をつけた曲の構成でガッチリとつかみ、ベース長谷川プリティ敬祐を中心に、全員がアオるアオる。気がつけば観客は飛び跳ね、「ホラーショー」では大きな声で歌っていた。ついにはドラムのジェットセイヤが「おりゃあ?!!」とフロアにダイブ。直筆手紙の熱いオファーに最後まで応え、全員の心にその名を刻みこんだ。

　二番手パスピエは怒涛のセッションで幕開け。ヴォーカル大胡田なつき(Vo)が姿を現すと、「オォォ──!!」と野太い歓声が。やはりドあたまは大事。特にイベントでは。ユニゾンの田淵はそれを伝えたかったのか。「楽しんだよ、私は」と大胡田のツンデレな態度も面白い。2014年最注目の彼ら。ダンスビートに♪これは理想じゃないそうじゃないそうじゃないそうじゃないの♪とトリッキーな歌詞を絡め、サビはあくまでドリーミーでキャッチーに。そして大胡田のカリスマ性はハンパなかった。ロングの黒髪で、キレのあるダンスと萌えボイスで挑発し、男女問わず熱い視線を浴びる様は、2014年のJUDY AND MARY？　そんな新スターの誕生に、少なからず衝撃を受けてしまう。

　斎藤宏介が深々と頭を下げた。待ちかねた一曲目は…なんと「クローバ ー」！　軽い裏切りも、じらされる感じも、すべてが心憎い。そして斎藤のハイ・トーンは健在だ。良かった。「シャンデリア・ワルツ」が始まり、待望のひと言。　

　「UNISON SQUARE GARDENです!!」
　会場の喜びが爆発する。「♪ハローグッバイ」で一斉に右手が挙がりジャンプ、ジャンプ。ベースの田淵智也もグネグネ動いてジャンプ。「♪さぁ、ワルツ・ワルツで」に合わせて手が小刻みに振られる。ユニゾンの曲はフックの嵐だが、ファンはそれをひとつも取りこぼさない。そのすべてを愛しているのだ。

　「僭越ながらですね、わたくしは“待ってるよ”ってみんなが思ってると思ってたんだけど、（声援は）“田淵~！”“田淵~！”（場内爆笑）。俺、斎藤ですけど」
　すると「斎藤！」の声援が飛び、「黙れ。うるせえ」と斎藤が笑いながら口にし、観客はまたもや大爆笑。こんなやり取りや、ほぼシングル以外の曲を揃えたセットリストで悟る。ユニゾンとファンの関係は対等だ。そしてお互いを信じ切っている。
　ユニゾンはまた言葉選びのセンスがズバ抜けている。ここぞというフックに、まさかの言葉を乗せる。たとえば「Miss.サンディ」の「♪で・す・よ・ね」。「デイライ協奏楽団」では会場が「先生っ！」と叫ぶと「♪バカタレ！」と意表を突く返しが。その直後に最新シングル「harmonized finale」。ストレートに泣ける曲だって抜群にうまい。

　見どころだらけの曲に、斎藤宏介、田淵智也、鈴木貴雄(Dr)という強烈な個性が重なるのだ。これは最強だ。田淵がぐわわんとベースを振り回し、斎藤が「♪なんか違う!!」とざらつく声でシャウトし、会場が「♪リミット!!」と叫んだ「プロトラクト・カウントダウン」。鈴木貴雄が熱帯的なリズムをドロドロ叩いて、フロアが祭りと化した「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」。そのまま極上のパーティ・チューン「like coffeeのおまじない」へなだれ込み、幸福感に包まれて本編は終了した。

　「同じ日に、同じステージに、めちゃくちゃ濃い色で、自分のバンドの色を出してくれた」
　斎藤はアンコールでこう感謝した。その言葉通り、出演者全員が自分達の良さを全力で出した。ここでもまたお互いが対等だった。これは「fun time ACCIDENT」という場所と、UNISON SQUARE GARDENの大きな功績だろう。それを実現させたのは最初から最後までイベントを楽しんだ観客の力だ。「オリオンをなぞる」で願った空前絶後の新未来はもう始まっているのかもしれない。

　最後にサプライズ。ステージ後方のスクリーンに「重大発表」として８月発売の5thアルバム、９月開始の全国ツアーが告知され、大騒ぎとなった。EX THEATER ROPPONGIの外に出れば、そこは「フルカラープログラム」が歌った“東京ジャングルの空の下”。六本木の街を歩くＴシャツ姿の観客は、それぞれが恍惚の表情を浮かべていた。

【取材・文：柳村 睦子】
【撮影：森 久】