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音楽プロデューサー島田昌典活動30周年記念ライブをレポート。

島田昌典 | 2014.11.14

 いきものがかり、秦 基博、back numberの3組による、音楽プロデューサー・島田昌典の活動30周年を記念したイベントが日本武道館で行なわれた。ライブ中、秦はこのイベントについて、「スタジオでずっと名曲、名アレンジを作り続けている島田さんを何とか外にひっぱり出して、その素晴らしさを知ってもらおうというのがきっかけだった」と話したが、まさにそれは普段は裏方に徹する島田昌典その人がいかにJ-POPシーンの重要人物であるかを改めて感じさせるスペシャルな内容のライブだった。

 イベントタイトル「バラスーシな奴らがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」にちなんで、ビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」が大音量で流れると、イベントはスタート。島田がグランドピアノの前に座り、ストリングスと共に奏でたインスト曲がこの日のオープニングを告げた。ちなみに「イベントタイトルの“バラスーシ”とは、“素晴らしい”の逆さ言葉で、島田がレコーディングで良いプレイが録れた時などに使う言葉だそうだ。

 「レコーディングスタジオ“Great Studio”を日本武道館に運んできました。そろそろアーティストが来るようです」と島田が司会進行を務めると、ピンポーンとチャイムの音。back numberの3人が「島田さんの新しいスタジオ広いですねー(笑)」と会場を見渡しながら現れた。この日のステージは上手側にアナログレコードを飾った棚とソファが置いてあり、まずはそこでトークタイム。インディーズ時代のback numberが群馬から島田のもとへ通っていた日々を振り返り、島田が初めてback numberをプロデュースした「風の強い日」をアコースティック編成で披露した。ステージの下手側を“ブース”と呼び(ちなみにトークをしていたのは、“コントロール・ルーム”)、そこで島田のピアノと共に、ドラムの栗原はカホンを叩く、しっとりした演奏に会場は着席のままじっと聴き入っていた。

 その後いきものがかりの3人と秦 基博をステージに招き入れると、総勢8人がざっくばらんにトーク。いきものがかりも島田が手がけたデビュー曲「SAKURA」をアコースティック演奏で披露。秦も同じく島田のプロデュース曲を……と思いきや、自身の最新曲シングルで、しかも島田プロデュースではない「ひまわりの約束」が選曲されることになった経緯を「僕は反対したんです!でも島田さんがやりたいって言うから(笑)」と弁明。2014年を代表する泣き歌を二人でセッションし、島田は、すかさず「バラスーシ!」と大絶賛だった。

 圧巻だったのは、back number清水といきものがかり吉岡、秦というボーカル3人による島田ワークスの代表作、aikoの「カブトムシ」のカバー。島田のピアノをバックに、歌を自分の内側に引き寄せる清水、淡々と歌の世界に寄り添う秦、どこまでも真っ直ぐに歌を投げかける吉岡という、3者それぞれのボーカリストの持ち味が発揮された名カバーだった。

 メドレーコーナーではこの日の出演者たちの楽曲はもちろんaikoやYUKI、ファンキーモンキーベイビーズ、アンダーグラフらの楽曲を、ベース根岸孝旨や→、キーボード皆川真人、ギター八橋義幸、ドラム玉田豊夢、パーカッション朝倉真司と8人編成の真部裕ストリングスを擁したGreat Bandによるダイナミックな演奏で披露。それは誰もが一度は聴いたことがある有名な楽曲ばかりで、インストながら、そこにないはずの歌声も聴こえてくるような不思議な感覚がした。

 後半戦は、棚やソファはなくなり、舞台を左右に拡げたようなシンプルながらも壮観なステージングで、Great Bandの演奏と共に3組が曲ごとに様々な組み合わせで登場していく。まずはback numberが「恋」を披露。プレイヤーとしてはピアニストである島田だが、プロデューサーとしては印象的なストリングスを用いるのも持ち味のひとつ。それが清水の描くラブソングをいっそう切なく彩る。
 続く秦は「朝が来る前に」を吉岡と歌い上げる。島田に「僕のプロデュース人生でベスト3に入る」と言わせたその曲は、秦のシンガーソングライターとしての原点とも言うべき楽曲であり、そのあとに清水を迎え、いきものがかりが実に5年ぶりにライブで披露した「茜色の約束」はこれも7年前の楽曲だが、オレンジ色に染め上げたステージに色あせない瑞々しさを放っていた。

 そうやってお互いの楽曲に参加し合いながら3組の豪華競演が次々と繰り広げられると、ライブはあっと言う間にクライマックスへ。back numberの「花束」に秦が参加した時のMCでは、「来年、秦さんもback numberのメンバーになりませんか?」という清水の誘いに、「オフィシャルにはお断りします(笑)」と即答する秦だったが、思えば、今日の出演者はみんな30歳前後の同世代。そんな彼らの気の置けないやりとりも面白かった。
 いきものがかりの「マイサンシャインストーリー」からは、それまでイスに座って聴き入っていたお客さんも立ち上がって曲に合わせて手拍子。吉岡が星型のタンバリンを打ち鳴らしながら、くるくるとステージを移動しながら盛り上げると、会場の熱気も一段とヒートアップ。秦の「グッバイ・アイザック」で一体感は更に増し、本編ラストはボーカリスト3人がステージの端から端までを駆け回り、バックスタンド席も巻き込んでのいきものがかりの「KIRA☆KIRA☆TRAIN」で盛大に締めくくられた。

 アンコールではそれぞれ今日の感想を語った3組。
 「昔、壁塗りの仕事をしてたけど、その時にiPodで2組の曲を聴いてて“このまま終わりたくない”と思ってた。今日は一緒に出られて本当にありがたいです」(清水)
 「昨日11月3日が島田さん誕生日で、僕らも結成15周年。デビュー曲からずっと支えられた人と同じ誕生日でうれしいです。島田さんは前に全然出ようとしない人だけど、本当にすごい人。島田さんの曲がもっとみなさんに届いてほしいと思います」(水野)
 「5年前に初めてやった島田会が、結果この日本武道館でできて……それは結果じゃなくて、まだ途中かもしれないけど、今回島田さんの30周年をお祝いできることができてうれしいです。島田会は永久に不滅ということで、これからはお客さんも島田会の一員として一緒に音楽を楽しめたらと思います」(秦)

 3人がそう言うと、「僕は音楽しかないので最後はこの曲を聴いてもらいましょう」と、誰よりも言葉少なだった島田。コール&レスポンスに失敗したりと、表舞台に慣れていない姿が微笑ましかったが、そんな飾らない人柄もまた島田が多くのミュージシャンに好かれる要因だろう。音楽が生まれる現場の空気感を少しだけ触れられた気がした。
 アンコールの最後の曲、いきものがかりの「帰りたくなったよ」では、まるでこのライブの終わりを惜しむように弾く島田のピアノソロに会場から大きな拍手が送られた。

【取材・文:秦 理絵】
【撮影:冨田望】

tag一覧 ライブ イベント いきものがかり 秦 基博 back number

リリース情報

島田印-島田昌典ワークス・ヒットコレクション-

島田印-島田昌典ワークス・ヒットコレクション-

2014年04月16日

アリオラ

1. 「SAKURA」いきものがかり
2. 「あとひとつ」FUNKY MONKEY BABYS
3. 「グッバイ・アイザック」秦 基博
4. 「YOU -Single Version-」JUJU
5. 「花束」back number
6. 「歓びの種」YUKI
7. 「ツバサ」アンダーグラフ
8. 「ギブス」JUJU
9. 「春夏秋冬」スガ シカオ
10.「フルール」近藤晃央
11.「遠い匂い」YO-KING
12.「帰りたくなったよ」いきものがかり
13.「朝が来る前に」秦 基博

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セットリスト

「Great Studio Live at BUDOKAN」
~バラスーシな奴らがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!~
2014.11.4@日本武道館

  1. 風の強い日
  2. SAKURA
  3. ひまわりの約束
  4. カブトムシ
  5. 島田昌典プロデュース作品インストメドレー
  6. fish
  7. 朝が来る前に
  8. 茜色の約束
  9. 青い蝶
  10. 花束
  11. マイサンシャインストーリー
  12. グッバイ・アイザック
  13. KIRA☆KIRA☆TRAIN
Encore
  1. 帰りたくなったよ

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