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おなじみの名曲が”今”の表情で並列したくるりワンマンツアー2014「金の玉、ふたつ」

くるり | 2014.11.26

 ニューアルバム『THE PIER』の発売記念ワンマンライブツアー2014「金の玉、ふたつ」。本アルバムは、音楽だからこそ成し得る、時空や国境を超えて感覚上の旅情を体感させる醍醐味を見事に立ち上げた。2014年にあって、言葉通りの意味でオルタナティヴ(別の道)を提示した力作ゆえに、期待だけではない、いい緊張感に包まれつつ、中野サンプラザ公演の2日目に足を運んだ。なお、ツアーの最中であるため、全曲の詳述を避けることをご了承いただきたい。

 入念な機材チェックが行われた薄暗がりのステージが暗転し、アルバムの1曲目である「2034」のトラックが流れ、メンバー7人が登場。楽器を持ち、同曲を生演奏で膨らませていくというオープニングに早くも旅情をかき立てられる。今回のサポートは奥野真哉(Key)、福田洋子(Dr)、権藤知彦(ユーフォニウム、フリューゲルホルン、マニピュレーター)、松本大樹(G)という面々だ。曲間を岸田繁(Vo、G)が走らせる水滴の音などのシーケンスが繋ぎ、作品ではストリングスが担っていたフレーズを松本のフレージングでスタートした「日本海」のアレンジ、バンド全体のサウンドのふくよかさに序盤から唸ってしまう。オーディエンスもバンドの演奏の緩急に“心地よい棒立ち”状態だ。大きな拍手が起こった後、岸田が無声映画の弁士のような口調で淡々と「皆さんの前に見えますは3本の桟橋、THE PIERでございます。この桟橋から船に乗って旅をいたしましょう」と、滑りだしたのは“くるりの変な曲”としてファン以外のリスナー、ミュージシャンにも今年きっての話題となった「Liberty&Gravity」。BPMは決して高速ではないのに、日本の山奥からインド、開拓時代のアメリカまで時間旅行をするようなめくるめく内的情景がすっかりバンドの血肉になり、「ヨイショ!」「ア・ソーレ!」の合いの手に観客も思わず手を挙げる。もはや変な曲どころじゃなく、我々にとってかけがえのない日々の歌に変貌を遂げていたことにこみ上げる何かがあった。他にもニューアルバムから、音源よりさらにハードロック色を増し、奥野のオルガンが往年のディープ・パープルばりだった「しゃぼんがぼんぼん」の苛烈さに大きな拍手。イントロをストリングスからアコギのコードワークに変換した「Remember me」では、ファンファン(Tp)と権藤のホーンが有機的に機能していたことも印象深い。街の喧騒をSEで流し、旅の行方を示唆しつつ奏でられた「遙かなるリスボン」では、奥野のアコーディオンが際立っていた。

 サポートメンバーが一旦はけ、メンバーだけになったステージで「思えば遠くまできましたね」と岸田が話すと、少しバンドの歴史にも重なって感慨深い。”3人ぼっち”のブロックで演奏されたマキシマムな合奏アルバム『ワルツを踊れ』から「ブレーメン」を披露した際の驚き。曲の骨格の強さには圧倒されてしまった。殊に佐藤征史(B)のよく歌い肉厚なベースラインには何故か食欲を刺激され(笑)、ストリングスのアンサンブルをトランペットの豊穣な息吹で表現したファンファン、そして岸田という改めてくるりは今、この3人が心臓部なんだなぁということを実感する演奏だった。食欲をかき立てる原因は、世界各地の光景が立体的に描き出されていたから…かもしれない。

 再び”THE PIERオーケストラ”も加わり、東欧ムードをそのまま「ハヴェルカ」で表現したのも粋な流れ。そして意外な選曲だった「かごの中のジョニー」。オリジナルよりサーカスっぽいムードが漂うのは奥野のルーツライクなピアノのせいだろう。ヨーロッパからアメリカ大陸に渡航している気分になってくる。そして旅のクライマックスは、心の故郷に戻ってくるような選曲が…。イントロ一発でくるりが旅に出る理由を実感してしまうようなエンディングが「ロックンロール」、そして、さらに一度たりとも同じ曲に聴こえないバンドの“体調”を示すような「東京」で本編は終了。架空の世界旅行を体感できる『THE PIER』を作り上げた今のくるりは、おなじみの名曲たちもまた、今存在する意味や曲の性格をアップデートさせてみせたのだ。

 匂いや味さえしそうな世界旅行を本編で完結させた彼らは、アンコールの最後に、アルバムのラストナンバーにして、一つ独立した世界観を持つ「There is(always light)」を刻み込むように合奏して、ステージを後にした。知っているのに知らない――もしくは知らないのに知っている――くるりのライブを体験する醍醐味のマキシマムな喜びがこのツアーにはある。

【取材・文:石角友香】
【撮影:五十嵐一晴】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル くるり

リリース情報

THE PIER【初回限定盤】

THE PIER【初回限定盤】

2014年09月17日

ビクターエンタテインメント

1. 2034
2. 日本海
3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit> 
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10.Brose&Butter
11.Amamoyo
12.最後のメリークリスマス<album edit>
13.メェメェ
14.There is(always light)

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お知らせ

■ライブ情報

「THE PIER」リリース記念 くるりワンマンライブツアー2014~金の玉、ふたつ~
2014/11/29 (土) 福岡:Zepp Fukuoka
2014/12/02 (火) 大阪:オリックス劇場

DISCOVERY [QINKI]
2014/12/04 (木) 大阪:心斎橋JANUS
2014/12/05 (金) 滋賀:滋賀B-FLAT
2014/12/07 (日) 奈良:奈良ネバーランド
2014/12/08 (月) 和歌山:和歌山GATE
2014/12/10 (水) 兵庫:姫路Beta
2014/12/11 (木) 京都:京都KBSホール

Ticket PIA 30th Anniversary「MUSIC COMPLEX 2014,winter~supported by uP!!!~」
2014/12/17 (水) 東京:豊洲PIT

FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY
2014/12/28 (日) 大阪:インテックス大阪 (サンフジンズ)

COUNTDOWN JAPAN 14/15
2014/12/30 (火) 幕張メッセ国際展示場

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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