9月。ニューシングル『らしさ / わたくしごと』のリリース直前にギターの柳沢亮太が入院してしまう、という経緯があり、リリースツアー初日の渋谷クアトロは、そんな柳沢復活を祝うムードからライブが始まった。《ただいまと言える場所が　あの日のまま僕を待ってるから》――それは、もちろんお客さんに向けたメッセージでもある。だが同時に、帰還した仲間への“おかえり”にも聴こえたのは、私だけではないと思う。

　4人組バンド、SUPER BEAVERの今年2度目となる渋谷クアトロでのワンマンライブは、そんなふうに幕を開けた。そして、ギター柳沢とベース上杉研太のツートップによる荒々しいプレイから入った2曲目は、早くもこのツアーの中核となる「らしさ」だ。サビでぐっと広がる強力なバンドサウンドに、満員ソールドアウトの客席からは一斉に拳があがる。

　渋谷龍太はとにかく伝えたいことがたくさんあるタイプのボーカリストだ。お客さんを“あなた”と呼び、曲に入る前に多くの言葉を投げかける。歌詞の意味をリスナーに噛み砕いてほしいから。そうやってジェスチャーを交えながら渋谷が歌えば、ドラムの藤原は、その表情から、歌の意味を感じながら叩いているのが見てとれる。上杉と柳沢は首に筋を浮かべて、全力のコーラスだ。激しさと、切なさに揺り動かされながらライブは進む。

　7曲目「センチメンタル」からは、そのタイトルどおり、少しテンポを落として聴かせるブロックだった。アグレッシブな演奏以上に、SUPER BEAVERというバンドの大きな魅力なのが、メロディと言葉を大切にした歌だ。ミディアムテンポの楽曲ではそれが一気に顕著になる。「Your Song」では、《きっと伝わりきらないから　僕は歌を歌い続けるんだ》と、じっと客席を見つめて歌う渋谷。ほとんどメンバーのほうを振り返らずに歌うその姿には、もはや10年近くも変わらずにバンドを続けるメンバーへの信頼が見える気がした。

　「いろいろなところで躓き続けたバンドだけど、ステージに立ち始めて約10年。一度もスタート地点だと思ったことはありません。誰が何と言おうと、あなたはひとりじゃない。我々より意志を込めて」。そんな強い口調から、新曲「証明」が披露された。ダイナミックな演奏のなか、ふとドラムの音だけになり、そこに渋谷のボーカルと、上杉、柳沢のコーラス隊が重なる。そして「あなた」では、渋谷がモニターに足をのせて、お客さんにマイクを向けると、みんなでラララ~をシンガロング。目の前に素敵な光景が広がっていく。

　「何が正しいか、間違っているか、何が楽しいか、考えることが多い。でも満員御礼のライブ。一人ひとりの笑顔をみていると、正しいことをしてきたと思う。楽しいかどうかを決めるのはあなただ！」と捲し立て、突如はじまった「×」（ばってん）から怒涛の後半戦へと突入した。柳沢の左手が激しく弦の上を滑る「わたくしごと」、藤原が立ち上がって全身全霊でドラムを叩く「歓びの明日に」、さらにミラーボールが会場を照らしたライブの鉄板曲「東京流星群」。ここまで一気に畳みかけ、ラスト1曲を前に、渋谷がこれまでの感謝とこの先への想いを時間をかけて語ると、最後は「ありがとう」だった。マイクを通さず、メンバー全員とお客さんで一緒にメロディを紡ぐ感動のフィナーレ。みんな、とても良い表情だった。

　アンコールでは、汗でビチョビチョの服を着替えもせずに、再び登場したメンバー。あれほど言葉を尽くす渋谷が、ここでは、「ありきたりな言葉だけど、ありがとう」と、ただシンプルに感謝を伝える。そして、本当のラスト1曲は、未来の自分へ宛てた力強いロックナンバー「まわる、まわる」だった。“生き方”を問うテーマが多いSUPER BEAVERの楽曲のなかでも、ひときわ強烈なメッセージを持ったこの曲を、マイクを両手でギュっと握りしめた渋谷は渾身の力で届けた。泥臭くて、熱い。これがSUPER BEAVERのライブなのだ。

　「あなたの気持ちを持ってツアーに行ってきます！」と、最後に笑顔で手を振った4人。彼らは12月19日福岡のツアーファイナルまで一気に駆け抜けていく。

【取材・文：秦 理絵】
【撮影：MAYUMI -kiss it bitter-】