台風一過の東京・渋谷クラブクアトロは超満員。バンドシーンの台風の目“ヒトリエ”の、最新ミニアルバム『モノクロノ・エントランス』を掲げたツアーの初日だ。

　オープニングSEが流れると、若いオーディエンスから熱いハンドクラップが起こる。ステージに登場したメンバー４人のうち、ギターのシノダがさらにクラップを煽る。
　１曲目は新作から「劇場街」だ。最初の１音から、全力のサウンドが炸裂。火花が散るようなゆーまおのドラムと、それを柔らかく受け止めるイガラシのベース。めちゃ尖がったシノダのギター。その真ん中で力強く歌うwowaka。バンドの“柱”がくっきり見えるスタートとなった。
　２曲目も同じく『モノクロノ・エントランス』収録の「トーキーダンス」。フロアにモッシュの輪が生まれる。新曲２曲でオーディエンスが即爆発するのが、今のヒトリエの勢いだ。
「半年ぶりの、ワンマンです。皆さんも待ちに待ってたと思いますが、我々も待ってました。最新の曲も懐かしい曲もやります」とシノダが言って、「NONSENSE」が始まった。昨年リリースした初のフルアルバム『WONDER and WONDER』からの曲で、トリッキーなギターのフレーズが嵐のように飛び交う中を、ギリギリまで詰め込んだwowakaのリリックが切り裂いていく。さらにはドラム・ソロ、ギター・バトルなど、ヒトリエの持つファクターのすべてが繰り出される。この日、ヒトリエはこの難曲をしっかりと聴かせた。彼らのライブの実力が、ぐんぐん上昇しているのを証明する１曲となった。

　多彩なバリエーションも披露する。スペイシーなギターのアルペジオで始まる「Inaikara」は、途中で16ビートに展開するなど、構成の複雑さが魅力だ。キーボード・トラックをフィーチャーしたタイトなファンクナンバー「アンチテーゼ・ジャンクガール」では、バックのスリリングなアンサンブルに乗りながら、悠然と美メロをwowakaのボーカルが伝える。激しいビートを繰り出す「ローリンガール」では、wowakaのシャープなギターのカッティングに煽られて、ついにフロアでダイブする者が現われた。バンドのアンサンブルが千変万化しながら、オーディエンスの熱を上げていく。
　かと思うと、MCでシノダがこのライブ前日に７万１千円入りの財布を拾った顛末を語り出す。「あまりにたくさんのお金が入ってたんでビックリしてたら、俺の中の天使が『明日のMCで使えるかも』ってささやいたから、生まれて初めて交番に届けたんですよ。そしたら、お巡りさんって全部中身を調べるんですね。もしメイド喫茶のカードとか入ってたら恥ずかしいですよ。財布、落とせね~って思いました」と客席に爆笑を巻き起こすなど、音楽以外でも多彩さを見せる。そんなバンドの破格のエネルギーを、素直に受け止めるオーディエンスが、何より素敵だ。

　そして凄かったのは本編の最後に演奏された『モノクロノ・エントランス』の中心ナンバー「モノカラー」だった。
　トリッキーなリズムの曲がずっと続いてきただけに、ストレートな８ビートが新鮮に響く。さらには、ずっとトリッキーなギター・リフを弾いてきたシノダの弾く、シンプルなフレーズが心を打つ。
　特にシノダのアームワークが素晴らしい。ギターの音程を微妙に揺らすアームは、 ロックバンドでよく使われるが、シノダのそれは繊細かつ大胆。wowakaの歌う♪音は消えて　色に溶けた　~僕は消えて　君も溶けた♪というリリックを完全に理解したアームプレーが、このバンドの目指す“美しい世界”へとリスナーを導く。実際、限界ギリギリまで盛り上がっていたオーディエンスたちも、この最後の曲に吸い込まれるように聴き入っていた。それは、目もくらむようなスピードとスリルを聴かせてくれるバンドだからこそたどりつくことのできる境地だった。

　アンコールは再びジェットコースターのような演奏。メジャー・デビューシングル「センスレス・ワンダー」では、wowakaもハードなシャウトを決めたり、ギターを上に持ち上げてエキサイティングなスタイルでプレイする。観客もモッシュの嵐で応える。
　自分たちの求めるスタイルに勇気を持って踏み出したバンドと、自分たちの夢をヒトリエの音楽に素直に託すオーディエンスが、真正面からぶつかりあったライブだった。ヒトリエに「トリッキーな実力派」の称号を贈りたい。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：西槇太一】