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超満員の恵比寿リキッドルーム。黒木渚、全国フリーライブワンマンツアー大成功!

黒木渚 | 2015.08.06

 いま、自分の身の回りに信じられるものが何もない、依るべきものが見当たらないと感じている方には、黒木渚のライブに足を運ぶことをお勧めしたい。なぜなら、彼女の音楽には嘘や建前、ごまかしやまやかしが一切ないから。

 今年6月にリリースした、全てラブソングの4曲入りシングル「君が私をダメにする」のリリースを記念した全国“フリーライブ”ワンマンツアーの最終日。恵比寿リキッドルームのステージに現れた彼女は開口一番、観客に向けて、「これからの90分間だけで構いません。黒木渚をあなたの本命にしてください」と希求した。黒木のライブではおなじみのセリフだが、これは、「私は、正直なタイプの音楽家です」と自認する彼女から観衆の一人一人に向けた大真面目なプロポーズである。その声、その目に、邪気はない。やがて、エレキギターのストロークに合わせて左手を高く掲げながら、<♪右目には冒険が宿り/左目は未来を見る>と歌いはじめる。独りで戦う決意と覚悟を込めた「革命」。彼女の言葉を受け取った観客はクラップを打ち鳴らし、ドラムがカウントを叫ぶと同時に、バンドアンサンブルも加わる。♪ エーエーアーアー ♪ の大合唱が巻き起こる会場に眩い光が充ち満ちていく。彼女の気高く勇敢な歌声を聴くと、心の奥底で眠っていた戦士が行進をはじめる。ステージ上で伸びやかに歌う黒木の勇壮さに早くも涙が出そうになってしまった。

 どうして涙が出るかというと、彼女の歌声が圧倒的なほど切実に愛を求めているからだ。彼女の音楽の中心にはいつだって「愛とはなんでしょう?」という問いかけがある。ファルセットのロングトーンが心地いい「金魚姫」の少女は、スカートを翻しながら、笑顔で運命の人を探している。「マトリョーシカ」の女は開けても開けても本質が見えないことに戸惑い、アウトロではカオティックな心境に陥る。アカペラからロック、さらにワルツへと展開する「あたしの心臓あげる」では、<ギター聞かせてあげるから/あなたの心臓ちょうだい>と懇願し、ハードコアな「アンチスーパースター」では、歌詞通りに<ステージ上からピースサイン>を見せながら、愛と憎しみの狭間を切り取る。「初恋で片想いの曲」と紹介されたソウルバラード「窓」、真実の愛を求めて悶絶するパンクロック「テーマ」、口上と呼ばれる朗読を経て、「東京が私に書かせてくれた」と語る「エジソン」へ。ドラマチックなロックバラードの中で、彼女は逡巡する。あなたへの強い執着心を愛と呼ぶのかしら? それでもいつか、私はたった1つの愛さえ切り離して前へ、まだ見ぬ未来へと進もうとするのかしら、と。歌唱後には、この日いちばんの大きな拍手と歓声が沸き起こった。この声が、彼女を次のステージへと向かわせる推進力となるだろう。<愛/思想/時間/体>という、大切なものを4つあげるからふたりで崩れあってゆこうと誘う夏のラブソング「君が私をダメにする」。<好き/嫌い/生きる/死ぬ>の大合唱となった小気味のいいスカロック「フラフープ」。そして、本編のラストナンバー「虎視眈々と淡々と」には、<ギラッとした本性を吐き出したくて爆音>というフレーズがある。彼女は本性を、本音を見せ合いたいのだ。そもそも恋愛とは、その人の本性がいちばん出るものだと思う。甘えや嫉妬、自分の見たくない欲望まで見えることがある。それでもやめられないのが恋であり、求めてやまないのが愛である。彼女が音楽を通して発しているメッセージとは、心の扉を全て開き、黒木渚と我を忘れ(て恋愛をし)ましょう、という提案なのだ。ライブを通して「全部出し切ってる?」と呼びかけていた彼女は、最後にこう語った。

「正直者の私が、この場を借りて、本音を言わせてもらえば、最近の世の中はぜんぜんつまらない。 みんな真面目にやってるけど、安パイばかりだし。不謹慎、自重と、世の中の豊かな部分をどんどん省略していってしまう。私はそんな世の中に刃向かうつもりで、このツアーをスタートさせました。この会場にいる人は、少なくとも、自分の足と自分の意思で、この会場にきたんでしょう。そうでしょう? この場にいる人だけでいい、我々だけでも、とことんタフに、とことん貪欲に生きていこう! 虎視眈々と生きていこう!!」

 彼女の言葉には猛烈な説得力がある。MCというよりも、心に響く演説を聞いたあとのような余韻に浸っていたままで突入したアンコールでは、<私を本命にしてよ>というオープニングの言葉を曲にした「大本命」をアコギとキーボードのみで優しく柔らかく歌唱。理知的ながらも情熱がほとばしっていた本編の演奏から一転して、親しみやすいムードが漂うなか、彼女は最後にこう言った。

「初めて来た方もだいたい分かったと思うけど、私、そんなに怖くないですよ(笑)。私ね、快楽主義なんですよ。世の中に転がっている楽しいことを1つも逃したくありません。日々に潜んでる喜びを、取りこぼすことのないように、かなり注意深く生きてます。この生き方は、とってもおすすめです、愉快でたくましく生きていけるから。だから、1つお願いがあるんだけど、私が骨になってしまうまでの間、できる限りたくさん、あなたのことを黒木渚の音楽で抱きしめさせてくれないかな」

 “ずっと“とか“これからも“というあいまいな言葉ではなく、“骨になるまで“という約束――誓いを立ててくれた音楽家は、黒木渚以外、ほかに見当たらないだろう。実は、バンド時代から演奏していたナンバーであるのだが、この日ほど、まっすぐに胸に届いたことはなかった。激情と勇壮、孤独と寂しさの両極を表現できるバンドへの信頼感もあるだろうが、大地にどしりと根を下ろしたような堂々たる歌いぷりは、実に見事なものだった。全国5都市9公演に及んだ全国“フリーライブ“ワンマンツアーで揺るぎない自信を得て、新たに強い覚悟を決めたのかもしれない。 彼女は聞き手に嘘はつかない。だから信じられるし、ついて行こうと思える。人生について、真実の愛について考えざるを得なくなったとき、黒木渚の音楽は間違いなく、あなたに生きる勇気と力を与えてくれるはずだ。

【取材・文:永堀アツオ】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 黒木渚

リリース情報

[DVD]「TOUR 虎視眈々と淡々と」東京グローブ座 2015

[DVD]「TOUR 虎視眈々と淡々と」東京グローブ座 2015

2015年07月01日

ラストラム・ミュージックエンタテインメント

1. マトリョーシカ
2. 金魚姫
3. ようこそ世界へ
4. クマリ
5. エスパー
6. あたしの心臓あげる
7. プラナリア
8. ピカソ
9. 窓
10. 大本命
11. 砂金
12. はさみ
13. 骨
14. 虎視眈々と淡々と
15. フラフープ
16. テーマ
17. 君が私をダメにする
18. 革命

セットリスト

FREE LIVE ONEMAN TOUR
「君が私をダメにする」
2015.7.22@恵比寿リキッドルーム

  1. 革命
  2. 金魚姫
  3. マトリョーシカ
  4. あたしの心臓あげる
  5. アンチスーパースター
  6. ピカソ
  7. プラナリア
  8. テーマ
  9. エジソン
  10. 君が私をダメにする
  11. フラフープ
  12. 虎視眈々と淡々と
ENCORE
  1. 大本命

お知らせ

■ライブ情報

黒木渚 ONEMAN TOUR 2015「自由律」
2015/11/22(日)福岡DRUM LOGOS
2015/12/06(日)大阪BIGCAT
2015/12/13(日)名古屋ボトムライン
2015/12/19(土)仙台MACANA
2015/12/20(日)札幌DUCE
2016/01/11(月・祝)東京EX THEATER ROPPONGI

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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