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エレファントカシマシ、中秋の名月の下で26回目の日比谷野音

エレファントカシマシ | 2015.10.13

 エレファントカシマシにとって日比谷野外音楽堂は特別な場所だ。興が乗ってきた中盤に宮本浩次(Vo)が、「ホームグラウンドに帰ってきました!」と言ったのもうなづける。’90年から始まり26回目になった今年は、折しも中秋の名月の夜。雲間から顔を出した月の下で、この夜限りの特上のライヴを見せてくれた。

 台風21号の影響で天候が心配されたが幸いにも東京は前日には雨も上がり、秋風が心地よい黄昏の中にメンバーとともに白シャツ姿の宮本は登場。「ようこそ、エブリバディ、晴れてよかった。聞いてください」と歌い出したのは、お馴染みの「おはよう こんにちは」。冨永義之のどっしりとしたドラムと高緑成治の安定したベース、控えめなサポートギタリストのヒラマミキオの演奏に乗って、宮本の歌は力強く響く。間奏では短パンで気合を見せる石くんこと石森敏行のギターに合わせ頭を振って盛り上げ、「ドビッシャー男」へ。そして「今日も素敵なゲストと一緒に」とキーボードの細海魚を呼び込んだ。細海は3作目『浮世の夢』から7作目『東京の空』に参加していたキーボード奏者だ。彼の弾くハモンド・オルガンが加わった「悲しみの果て」は、石森のギターまで哀愁のある響きになっていた。全身を揺らして弾く細海のサイケデリックなハモンドは、エレカシの演奏に懐かしくも新鮮な空気を吹き込んだようだ。タメの効いたブルースになった「ああ流浪の民よ」に、「誰かのささやき」は途中で宮本がカウントを入れてアレンジを即興で変えるスリリングな展開になり、「暮れ行く夕べの空」は大きな起伏でオーディエンスを捉えた。

 この日比谷野音のリハーサルが始まってから、細海に参加を依頼したと後で聞いた。だから宮本はMCで「急に思いついて呼んだら来てくれて、よかった」と言い、彼が参加した『生活』から「月の夜」、さらに遡って「自宅にて」「待つ男」と、宣言通りマニアックな曲に観客が湧いた。ここで「一番新しい曲、自信作」と最新シングル「愛すべき今日」のカップリング曲「TEKUMAKUMAYAKON」を披露したのだが、四つ打ちを取り入れたこの曲から、定番曲「星の砂」「珍奇男」へと自然と繋がり、細海が全身を揺らしながら弾くハモンドとともにバンドの演奏も熱気を帯びていった。それは初期のエレカシが持っていた破天荒でクレイジーなエネルギーを思い出させると同時に、ブレることなく進化してきたエレカシというバンドの底力を思い知らせるもので、1部ラストの「四月の風」は、そんな今を象徴していた。

 穏やかな「生きている証」から始まった2部は、宮本の声が広い空に響き渡り、1部とは違った空気を醸し出した。ギターを抱え椅子に腰掛けた宮本が「月、出てますか? みんな好きだよな中秋の名月。そんな日にコンサートができてよかった。散歩の歌を聴いてください」と「月夜の散歩」を歌い出した。歌うほどに感情が込められ、2番に入った頃には歌が途切れ途切れに。歌いながら宮本は泣いていた。歌い終えると「『sweet memory~エレカシ青春セレクション~』というアルバムの中の曲で、佐久間(正英)さんがピアノを弾いてくれた。それを再現してもらって……。こういうことを人前でいうのは情けないんだけど」と目元をぬぐった。彼が信頼していたプロデューサーの故・佐久間正英のことを思い出していたようだ。そんな感傷を振り切るように歌い出した「今宵の月のように」は自分も鼓舞するように「エブリバディ、輝こうぜ!」と呼びかけ、最新シングル収録のヘヴィなナンバー「めんどくせい」へと繋ぐ。サーチライトが回った「ガストロンジャー」は歌詞を少し変えて今という時代に突き刺し、”だから胸を張ってさ”とシャツの前をはだけて見せた。アグレッシヴなだけでなく、ハモンドやギターと巧みに声を使ってジャムっていくのも圧巻。ホットなセッションを宮本たちも楽しんでいたのではないだろうか。

 一息入れたところで、新作が完成間近で11月18日にリリースされることを知らせ、「『RAINBOW』ってタイトルのアルバムにしました。俺が考えたんだ、かっこいいだろう」と、ちょっと忌野清志郎を連想させるMCをして、同タイトルの新曲「RAINBOW』を披露。ダイナミックな起伏をもった曲に細海のハモンドが中期ビートルズ風の味わいを添え、スケール感のある演奏と共に歌がおおらかに響いた。ドラマチックな流れになった2部を「生命賛歌」で締め、宮本が黒いシャツに着替えた1stアンコールは、「星の降るような夜に」で”夜になっちまったなあ 野音でよお これからどうする?”とアドリブも入れ、「友達がいるのさ」は”出かけようぜ!歩いて行くぜ!”と気持ちよさそうに呼びかけた。2ndアンコールでは「蔦谷さんが駆けつけてくれました」と蔦谷好位置を呼び込み、蔦谷と録音した最新シングル曲「愛すべき今日」を披露。最後を飾った「ファイティングマン」の熱気と一体感はハンパなく、宮本も満足そうだった。そんな喜びを伝えるように「さあ、ローリングストーンズみたいに挨拶しよう」と皆に呼びかけステージの前に並ぶと、深々と頭を下げた。そして「ありがとう、また会おう!レコード買うように!」と言うと、なぜか高緑のシャツを破って胸をはだけた。エレカシらしいジャレ合いに、また大きな拍手が送られた。

 エレカシのライヴはいつもスリリングで期待を上回る感動を与えてくれるが、この日もまた一段と特別な思い出となるものだった。こうした夜を経て彼らは前に進んでいく。新作『RAINBOW』、その先のツアーが楽しみだ。

【取材・文:今井智子】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル エレファントカシマシ

リリース情報

愛すべき今日(初回限定スペシャルパッケージ盤)[2CD+DVD]

愛すべき今日(初回限定スペシャルパッケージ盤)[2CD+DVD]

2015年09月23日

ユニバーサル シグマ

[CD]
1. 愛すべき今日
2. TEKUMAKUMAYAKON
3.めんどくせい

[ボーナスCD]
新春ライブ20150103@日本武道館 のLIVE音源を収録。
1.部屋 2. 始まりはいつも 3. パワー・イン・ザ・ワールド 4. おまえとふたりきり 5. 季節はずれの男 6. 彼女は買い物の帰り道 7. もしも願いが叶うなら 8. シグナル 9. so many people 10 .花男

[DVD]
愛すべき今日 Music Video、TEKUMAKUMAYAKON Music Video めんどくせい Music Video

リリース情報

RAINBOW(初回限定盤)[CD+DVD]

RAINBOW(初回限定盤)[CD+DVD]

2015年11月18日

ユニバーサル シグマ

[CD]
1. 3、2、1、0(読み:サンニーイチゼロ)
2. RAINBOW
3. ズレてる方がいい
4. 愛すべき今日
5. 昨日よ
6. TEKUMAKUMAYAKON
7. なからん
8. シナリオどおり
9. 永遠の旅人
10. あなたへ
11. Destiny
12. Under the sky
13. 雨の日も風の日も

[DVD]
「26年目の野音の1日」
2015.9.27日比谷野外大音楽堂公演の貴重なドキュメンタリー映像を収録

お知らせ

■ライブ情報

RAINBOW TOUR 2015
2015/11/19(木)豊洲PIT
2015/11/26(木)なんばHatch
2015/12/04(金)サンポートホール高松
2015/12/10(木)わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
2015/12/12(土)仙台イズミティ21
2015/12/18(金)名古屋 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
2015/12/20(日)福岡サンパレス
2015/12/22(火)広島アステールプラザ 大ホール
2015/12/23(水・祝)なら100年会館
2015/12/26(土)金沢・本多の森ホール

新春ライブ 2016
2016/01/04(月) 東京国際フォーラム ホールA
2016/01/05(火) 東京国際フォーラム ホールA
2016/01/10(日) 大阪フェスティバルホール
2016/01/11(月・祝) 大阪フェスティバルホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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