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結成10周年を迎えたTHE NOVEMBERS。全国ツアー初日、新木場STUDIO COASTの模様をレポート。

THE NOVEMBERS | 2015.11.30

 結成10周年を迎えたTHE NOVEMBERSが全国ツアー「10th Anniversary TOUR - Honeymoon -」を開催。その初日となる東京・新木場STUDIO COAST公演で彼らは、美しさと鋭さ、静寂と高揚を共存させた、まさに唯一無二のロックミュージックを響かせた。

 会場に入るとエリック・サティをはじめとする印象派の作曲家によるピアノ曲が聴こえてくる。まるでサロンのような雰囲気のなか(オーディエンスも騒ぐことなく、静かに開演を待っている)、サティの「ジムノペディ」とともに会場の照明が落され、メンバーの4人がステージに登場。オープニングナンバーの「クララ」が放たれる。静かなサイケデリアとでも形容すべきサウンド、小林祐介(Vo&G)の官能的なメロディラインが広がり、会場はゆっくりとTHE NOVEMBERSの色に染まっていく。さらに繊細なギターのアルペジオから始まる「バースデイ」へ。「朝のミルク 子供達 幸せを形にしてみたい」という静謐な世界観からはじまり、サビに突入した瞬間、轟音のギターサウンドが鳴り響く。内省的な雰囲気と爆発的なバンドグルーヴが何の違和感もなく共存する空間は、このバンドのアイデンティティそのものだ。

 続く「chernobyl」は、ゆったり沈んでいくような音像が印象的にはミディアムチューン。「僕の優しさ いたわり 愛を全て あげられたらいいと思っている」という切実な思いを込めた歌詞を、決して押しつけがましくならず、デリケートなメロディとともに描き出す小林のボーカルがとにかく素晴らしい。凄まじい爆音を鳴らすことも多いTHE NOVEMBERSだが――音の洪水に飲み込まれるような感覚も、このバンドの大きな魅力だ――どんな状態においても、小林のボーカルは楽曲の真ん中で美しく存在している。特にこの日のライブは、ボーカルのバランスが強めにレイアウトされていて、彼の歌の魅力をしっかりと体感することができた。

 この後はTHE NOVEMBERSのカラフルな魅力が伝わるシーンが続いた。軽やかに跳ねるリズム・セクションが印象的だった「裸のミンク」、直線的なビートとノイズが混じったアンサンブルのなかで、激情的なシャウトが炸裂する「dnim」。音像とリンクした照明(ステージ上はメンバーの顔が見えないほどの暗さ)を含め、楽曲ごとに会場の雰囲気が変化していくのも楽しい。シューゲイザー、ニューウェイブ、音響系、オルタナティブなどのテイストを取り入れながら、耽美性とダイナミズムを融合させた独自の音楽世界を作り上げてきた彼ら。結成10年目を迎え、そのクオリティはさらに上がっているようだ。

「こんにちは」
「THE NOVEMBERSです。今日は来てくれて、どうもありがとう。THE NOVEMBERSの最初の曲を贈ります」(小林)というMCのあとは、1st demo「THE NOVEMBERS」の「marble」を披露。イノセントという言葉がぴったりと似合うギターアレンジ、瑞々しい手触りのメロディライン、「輪郭が消える キミが消えるよ」というリリックがひとつになったこの曲は、このバンドの原点と言っていいだろう。激しさと繊細さがナチュラルに結びついたアレンジ、独特のトリップ感を備えたバンドグルーヴなど、彼らの特徴が初期の段階から既に表出していたことも、大きな発見だった。そう、このバンドの価値観と美意識は結成当初から何も変わっていないのだ。(ちなみに終演後、すべての観客に“1st demo”が配布されていました。バンドの原点を改めて認識できる、とても意義深い試みだと思います)

 吉木諒祐(Dr)による強靭なリズムを軸にした「出る傷」からライブは後半へ。内面の深部に向かって螺旋状に落ちていくような高松浩史(Ba)のベースライン、小林のハイトーン・シャウトがめちゃくちゃ気持ちいい「dogma」、鮮血を思わせるライティング、エッジの立ちまくったケンゴマツモト(G)のギターリフが炸裂した「Blood Music.1985」、空気を切り裂くようなバンドグルーヴと鋭利なメロディラインがまっすぐに伝わってきた「Xeno」。バンドのテンションは徐々に上がっていき、独特の高揚感が巻き起こるのだが、観客がほとんど身体を動かさず、じっくりと音楽を浴びていることも興味深い。シンプルなダンスビートでオーディエンスを踊らせるのが昨今のバンドシーンの流れだが、THE NOVEMBERSのライブのスタイルはまったく違う。安易な一体感を求めるのではなく、あくまでも自らの音楽観を叩きつけることで、他のどこにもない世界を生み出しているのだ。どちらが良いとか悪いという話ではないが、THE NOVEMBERSのスタンスはきわめて貴重だし、個人的も絶対的に支持したいと思う。

 本編ラストは、抑圧から開放されたかのような壮大なサウンドが広がった「Misstopia」(巨大なミラーボールの光がキレイ!)、そして、新作「Elegance」の収録曲「きれいな海へ」。凛としたイメージのリズムセクション、華やかさと憂いが同時に感じられるメロディからは、現在のTHE NOVEMBERSの充実ぶりがはっきりと感じられた。

 アンコールのコールに応え、再びメンバーがステージに登場。小林は観客に向かってこんなふうに語りかけた。
「結成10周年のツアー、その初日に来てくれて、ホントにどうもありがとうございます。長く続けようとか、10年目指そうと思ってバンドをやってきたわけではなくて。いろんな幸運とか、いろんな人に助けてもらいながら、仲良く――仲良くもない時期もあるんだけど――気づいたら10年、あっという間だったという感じです。まだ11月始まったばっかりなので、お互い、いい11月にしましょう」
「もう1曲だけ聴いてください」と披露されたのは、「今日も生きたね」。穏やかな旋律のなかで聴こえてくる「なんて美しい日々だろう なんて美しい日々なんだろう」というリフレインは、THE NOVEMBERSの10年、そして、この先の未来を祝福しているようだった。10年間の活動のなかで純粋に紡ぎ出された、このバンドの独創的なロックミュージックを心ゆくまで堪能できる、素晴らしいステージだったと思う。

【取材・文:森朋之】
【撮影:SHOOT KUMASAKI、YUSUKE YAMATANI】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル THE NOVEMBERS

リリース情報

Elegance

Elegance

2015年10月07日

MERZ

1. クララ
2. 心一つ持ちきれないまま
3. きれいな海へ
4. 裸のミンク
5. エメラルド
6. 出る傷を探す血

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お知らせ

■ライブ情報

首 vol.9 - Louder Than Bombs -
2015/12/10(木)大阪CONPASS
w / LOSTAGE / Klan Aileen
DJ DAWA(FLAKE RECORDS)

MAD MAGAZINE RECORDS PRESENTS [ PURGE No.1 “Anarchy”]
2015/12/11(金)松山SALON KITTY
w / the droop

downy×THE NOVEMBERS
2016/01/11(月・祝)沖縄Output
w / downy

CUE
2016/01/29(金)代官山UNIT
w / 大沢伸一+MOJA NEW BAND / PELICAN FANCLUB / TERROR FAMILIA

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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