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きのこ帝国、くるりと共に迎えた「怪獣と猫のツーマンツアー」ファイナル公演

きのこ帝国 | 2015.12.24

 きのこ帝国のライヴを観る前は、なぜかいつも不思議な緊張感に包まれてしまう。音源がどんな形でライヴで表現され、そこでどんな表情を見せてくれるのだろうか。音源と違ってもいいし、同じでも構わない。ただ、今回は特に予想が付かなかった。
 メジャー1stアルバム『猫とアレルギー』を初めて聴いたときは少なからず衝撃を受けた。ピアノとオーケストラの比重は高まり、ヴォーカルと歌詞が果たす役割をさらに増し、楽曲は私小説みたいな世界観を深めていたから。

 「怪獣と猫のツーマンツアー」、7本目のファイナルになる東京公演。この日の対バンはきのこ帝国のずっと先輩にあたるバンドだ。くるりのメンバーがぞろぞろと現れると、ステージが狭く感じてしまう。岸田繁(Vo/G)、佐藤征史(B/Vo)に加え、サポートにギター、鍵盤、ドラム、女性コーラス2人の計7人の大所帯。「こんばんは、くるりです。よろしくお願いします」と岸田が挨拶すると、「ワンダーフォーゲル」で本編開始。序盤はブルージーな色合いを浮かべたロック・サウンドを響かせた後、4曲目に新曲を披露する。ミディアムテンポで大らかな歌心を備えた心温まる曲調だった。中盤、「きのこ帝国の「海と花束」がダントツで好き。今日やってくれるかわからんけど・・・」と岸田が突然言い出す場面には思わず苦笑いしてしまった。後半は「everybody feels the same」を皮切りに、広壮なスケール感で聴かせる楽曲を連発する。さすがくるりと言わざるを得ない。強烈な個性を颯爽と披露してステージを去っていった。

 次はきのこ帝国だ。ステージを覆う幕が左右に開くと、真っ暗闇の中で西村"コン"(Dr)のキメ細かなビートがさざ波のごとく会場いっぱいに広がる。そこにあーちゃん(G)、谷口滋昭(B)の演奏が折り重なり、最後にゆっくり吐き出すような佐藤千亜妃(Vo/G)の歌声が乗る。オープニング曲は夢と現実の狭間を彷徨うような重厚長大な「足音」で始まる。それからあーちゃんのささくれ立ったディストーション・ギターが炸裂する「YOUTHFUL ANGER」、哀切なメロディとヘヴィなグルーヴがトグロを巻く「海と花束」と続く。そして、ここから新作の楽曲を連投。「怪獣の腕のなか」はあーちゃんが鍵盤を担当し、まるでオルゴールのような可愛いらしい音色が特徴的なナンバー。軽やかなポップ性もライヴで一段と映え、繊細かつ丁寧に歌い上げる佐藤のヴォーカルにもうっとりと聴き入った。それから「猫とアレルギー」では後半の伸びのある歌声は鳥肌が立つほどで、ラストの歌詞「アレルギーでも あなたは優しく撫でた」における感情移入も素晴らしかった。音源に忠実ではあるけれど、歌声は歌詞の感情に寄り添い、強弱や起伏を付けた歌い回しで何度もハッとさせられる。それからイントロが聴こえただけで思わす涙腺が緩んだ名曲「桜が咲く前に」へ移る。途中、佐藤のギター・ストラップがはずれるハプニングもあったが、それに動じず堂々と曲の世界観を表現した。

 そして、オープニング同様、真っ暗闇のステージの中で「ミュージシャン」を披露。歌と轟音だけが会場に鳴り響くシチュエーションの中、視覚が奪われる分、意識はどんどん研ぎ澄まされていくようだった。音の渦の中にポツンと一人立たされた心境だが、これが不思議と心地いい。envyにも通じる荘厳なムードに耽溺した。その空気を引き継ぐ「夜が明けたら」は、深海を彷徨うような神秘的なサウンドに引き込まれた。

 8曲目を終えたところで、佐藤は「くるりさんに出てもらい、感無量です。自分たちも「東京」という曲があるのでやります。」と宣言すると、これまた名曲の誉れ高き「東京」を放つ。スケール感のあるメロディを観客の心奥深くまで伝えると、本編最後は個人的に大好きな曲「Donut」で締め括る。ちょっぴりセクシャルかつ遊び心のある歌詞で、こういう側面もきのこ帝国の魅力だと思う。

 バンドはアンコールに応えると、まずは「クロノスタシス」をプレイ。話し言葉を用いた歌詞のパートは本当にセリフっぽい言い回しで聴かせ、以前と比べても表現豊かなアプローチが際立っていた。最後の「ありふれた言葉」まで全12曲をやり切ってショウは終了。新作からまだまだ聴きたい曲はたくさんあったけれど、それは来年の3月から始まるワンマンツアー2016「きみと宝物をさがすツアー」まで楽しみにしておこう。

 今日のライヴを観る限り、前回のレコ発と比較してもバンドの成長ぶりが窺える内容だった。新作はバンドというフォーマットに縛られず、良質の楽曲をひらすら真摯に追い求める姿勢が伝わってきた。ライヴにおいても音楽という枠組を越え、時に映画だったり、時に演劇だったり・・・がふと脳裏に浮かぶ瞬間が多々あった。きのこ帝国の底ナシの表現欲を垣間見たライヴで、来年のツアーも心から期待している。

【取材・文:荒金良介】
【撮影:上飯坂 一】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル きのこ帝国 くるり

リリース情報

きのこ帝国『猫とアレルギー』

きのこ帝国『猫とアレルギー』

2015年11月11日

ユニバーサル ミュージック

1.猫とアレルギー
2.怪獣の腕のなか
3.夏の夜の街
4.35℃
5.スカルプチャー
6.ドライブ
7.桜が咲く前に
8.ハッカ
9.ありふれた言葉
10.YOUTHFUL ANGER
11.名前を呼んで
12.ひとひら

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お知らせ

■ライブ情報

ワンマンツアー2016『きみと宝物をさがすツアー』
2016/03/11(金)福岡 DRUM Be-1
2016/03/12(土)広島 Cave-Be
2016/03/18(金)金沢 AZ
2016/03/21(月・祝)札幌 cube garden
2016/03/24(木)大阪 BIG CAT
2016/03/25(金)名古屋 CLUB QUATRO
2016/03/27(日)高松 MONSTER
2016/04/01(金)仙台 MACANA
2016/04/03(日)東京・中野サンプラザホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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