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クリープハイプ、1月に行われた全国ツアーの追加公演 『たぶんちょうど、そんな感じ』 初日公演をレポート

クリープハイプ | 2016.03.11

 今年1月に行った全国ツアー『わすれもの~つま先はその先へ~2016』は、2012年にメジャーデビューした際に回った同じライヴハウスを再度巡る内容だった。僕は1月21日の赤坂BLITZ公演を観てきたが、序盤は少しバンドと観客の間に不思議な緊張感が漂っていた。だが、それも次第になくなり、両者は次第に溶け合っていく。

 冒頭から「ここ小さいね」と尾崎世界観(Vo/G)はポロッと零す。4曲目「リバーシブルー」を終えて、「客席に固さがある」と尾崎が呟くと、会場からは笑いが漏れ、観客との距離をグッと縮めていた。それからバイト時代を懐かしく振り返り、「バイト バイト バイト」、中盤にはあの時には歌えなかった曲と前置きして、「二十九、三十」を演奏。あれからバンドの規模は大きくなり、成長と経験を積んだ彼らにとって、様々な気持ちが走馬灯のように思い出されたのかもしれない。曲が進むにつれ、バンド・アンサンブルには艶と磨きがかかり、アンコール最後は「リバーシブルー」収録の「わすれもの」で締め括った。

 そして、追加公演となった全国ツアー『たぶんちょうど、そんな感じ』はZepp Tokyo公演2デイズを皮切りに全7カ所8公演の日程で、その初日を観てきた。開演早々、「なんか気持ちが乗り切らない。ステージでもやる気が出ない・・・わけないだろうー!!」と尾崎は言い放ち、本編は「わすれもの」で始まった。屈託ないMCからもわかるが、この日は最初から会場中が開放的な空気に満ち溢れていた。尾崎、小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(B)、小泉拓(Dr)の歯切れのいい演奏は明るい光を放射し、満杯の観客を照らす。「リバーシブルー」を経て、鋭いギター・カッティングを合図に「左耳」に突入すると、会場の熱気はさらに高まる一方だ。「あの嫌いのうた」、「週刊誌」と続くと、歌も演奏もエモーションは加速し、観る者をグイグイと惹き付けていく。それから長谷川がリード・ヴォーカルを務めた「火まつり」を披露。尾崎の色気が漂う歌声とは違い、ド直球で迫る声質はまた魅力的に映る。詩的な歌詞も相まって、ライブの流れにもいいフックをもたらしていた。

 「新曲やります」と尾崎が言うと、前回のツアーでも披露した「破花(はっか)」をここで演奏。この曲は3月23日に出るニュー・シングル表題曲で、代々木ゼミナールCMソングに抜擢された楽曲だ。聴くのは今日で二度目になるが、イントロから癖のあるフレーズでドキッとする。早口風に捲し立てるヴォーカルや一筋縄ではいかない展開も素晴らしい。同じ歌詞を連呼するパートもキャッチーさに拍車をかけている。今後のライヴでも重要なキー曲になることだろう。

 中盤には「風にふかれて」、「山羊、数える」、「大丈夫」と情景が脳裏に浮かぶ聴かせる楽曲を配置し、リスナーの深い部分に訴えるアプローチも良かった。そして「憂、燦々」から再びアッパーな楽曲で焚き付けていく。「ウワノソラ」ではミラーボールが煌々と回る中、躍り出す観客がどんどん増えていた。「身も蓋もない水槽」に入ると、演奏も激しくなり、フロアは異様な活気を帯びていく。僕は二階席で観ていたが、皮膚からジワッと汗が滲み出てきた。その盛り上がりに油を注いだのは「HE IS MINE」、「社会の窓」で、観客も大声で歌い上げている。特に後者はクリープハイプの女性ファンの視点から綴ったユニークな歌詞で、聴き手の懐深くに切り込んだ内容ゆえに、ライヴでも熱い支持を得ていた。演奏が終わると、「今日、山口から来ました!」と男性ファンが突然声を発し、会場がざわつくシーンもあった。関東だけではなく、地方から今日のために駆けつけた人も多いのだろう。男性/女性の両ファンから愛されているのも、クリープハイプというバンドの間口の広さと豊かな音楽性を物語っている。

 後半には再び長谷川がリード・ヴォーカルを担当した「かえるの唄」も炸裂し、本編ラストは「手と手」で終了。アンコールでは「二十九、三十」、「愛の標識」をありったけの感情を込めて、エネルギッシュにプレイする姿が印象的だった。全23曲をやり終えたが、体感的にはあっという間だった。

 前回のツアーと比べて、演奏はより一層タイトに引き締まり、鋭い切れ味と奥深い表現力で観客を巻き込んでいた。彼らは前に進むために、辿ってきた道を一度振り返る必要性を感じたのだろう。"あの頃"を追体験することで、何が足りなくて、何ができるようになったのか。それを自分たちの中で明確にすることで、現在地をはっきりさせたかったに違いない。彼らのライヴは時に静かに耳を傾け、時に我も忘れて躍り、時に心のナイーブな部分を激しく刺激してくる。その感情のスケールと奥行きに何とも言えないカタルシスを得てしまう。今年はさらなる進化を遂げたクリープハイプに出会えそうな予感がする。今後も本当に楽しみで仕方がない。

【取材・文:荒金良介】
【撮影:神藤 剛】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル クリープハイプ

リリース情報

破花(初回限定盤)[CD+DVD]

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2016年03月23日

ユニバーサル シグマ

[CD]
1. 破花
2. answer
3. サウジアラビア

[DVD]
「破花」ミュージックビデオ
「破花」ミュージックビデオ メイキング
『「珍問答」ツアー「わすれもの~つま先はその先へ2016~」ドキュメンタリーフィルム』

お知らせ

■ライブ情報

J-WAVE "THE KINGS PLACE" LIVE Vol.10
2016/03/24(金)新木場 STUDIO COAST
共演:KEYTALK / パスピエ / 04 Limited Sazabys

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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