「雪男イエティ」のイントロが流れ、聞こえてきた「お待たせしました！」というコムアイの声。しかし、ステージ上に彼女の姿はない。「どこだろう？」と見回すと、なんと関係者エリアの2階席にいる！　全身がモップのようなモコモコに覆われている姿は、まるでイエティ。全く予想外の登場の仕方をして一気に盛り上げた彼女は、背後に従者のイエティを引き連れながら歌い、1階フロアへ降りると、観客の間を縫ってステージへと向かったのであった。

　ステージに辿り着くと、モコモコした衣装を脱いで身軽になり、2曲目「カメハメハ大王」を歌い始めたコムアイ。しなやかに身体を揺らしながら歌い踊る姿が実に活き活きしている。そして、この曲を歌い終えると、「今晩は！　人がいっぱいいる～！」と元気よく挨拶をしたのだが……いつの間にか話題は小田原へ行った時のエピソードへ。ファンに突然声をかけられたそうなのだが、「美味しいお店はありませんか？」と彼女は尋ねて、一緒に中華料理屋で食事をしたのだという（水餃子が美味しかったらしい）。プライベートでも自由奔放であることが窺われる話を聞いて、観客は大爆笑していた。

　《♪いい湯だね》とコムアイが歌うと《♪いい湯だね》という大きな声が起こり、《♪手の指の皮が》に対しては《♪ふやけるね》が返って来る……という、ワンマンライブならではのノリの良い盛り上がりが痛快だった「ディアブロ」。パーカッシヴなトラックに合わせて猛烈な手拍子が起こった「シャクシャイン」。2曲を経て「誰も聴いたことがない新曲をやります」と言い、歌い始めたのは「チャップリン」。チョビ髭をつけて、ステンレスのボウルを抱えつつ何かをかき混ぜる彼女の姿が目を引く。どうやら「チャップリン」は“抹茶プリンのレシピ”と“チャップリン”がミックスされた歌らしい。全く異なる要素を大胆にリンクさせ、最高にキャッチーな音楽を生み出す水カンならではの作風が、冴え渡っている新曲だった。

　スタッフが担ぐユニークなフォルムのお神輿にコムアイが乗り込んで歌うのがライブでの恒例となっている「ナポレオン」。今回飛び出したお神輿は、“黒ひげ危機一髪”風の樽から何本ものカラフルな足がニョキニョキと生えている……というユニーク極まりないデザインであった。樽の中に入りながらフロア内を巡る彼女に向かって熱い歓声を届ける観客の姿は、まるで凱旋した英雄を讃える民衆のようだった。そして、このお神輿に乗ったまま続いて放たれたのは「チュパカブラ」。曲の途中でステージへと辿り着いた彼女は、樽の縁に座って歌おうとしたらしいのだが、尻から樽の底へとズルズルと落下。樽の外に飛び出した彼女の手足を見つめながら歌に耳を傾けるという、なかなか貴重な体験となった。

　数名のスタッフの助けを借りて樽の外へ出たコムアイは、エモーショナルなサウンドの連発で、観客を巻き込んでいった。爆音の「ツイッギー」を全身で浴びながら激しく踊った観客の興奮は、「ウランちゃん」へ突入すると一層エスカレート。幻想的な音像が轟いた「バク」と「ユタ」は、トランス状態で歌うコムアイの姿が、シャーマンのような神々しさを放っていた。こうして、異世界に辿り着いたかのような非日常感に包まれた川崎クラブチッタ。しかし、MCが始まると一気にほのぼのとしたムードになっていた。「私、川崎出身なんですよ」という地元トークを経て、「今日、重大発表がありまして」と言って観客をどよめかせたコムアイ。最前列の観客の1人1人に「重大発表は何だと思う？」と彼女が尋ねたところ、「結婚」「DVDを出す」「大きい会場でやる」「紅白出場」という予想が次々挙げられたのだが、「出産」「2人目」「実はカツラ」「年齢詐称」「大統領選に出る」など、センスの良いとぼけた答えも飛び出す。「ほんとすごい。なんて子たちなの！」と彼女は明るい笑顔を浮かべていた。そして、「えー、実は」と発表されたのは、来年の3月8日に行われることが決定した初の日本武道館単独公演『八角宇宙』。大喜びした観客の間から祝福の歓声が上がった。

　配信されたばかりの新曲だが、観客も共に歌いながら大いに盛り上がっていた「アラジン」を皮切りに突入した終盤戦。ダンサーチームも加わり、ダイナミックなパフォーマンスを繰り広げた「ラー」。恍惚の表情で一斉に踊る観客の姿が眩しかった「ミツコ」……ライブで聴くと一際楽しいサウンドが連発された。「あと2曲でおしまいです。エネルギーを注ぎ込むので、干からびて帰ってください！」というMCを挟んで突入した「松尾芭蕉」は、色とりどりの絵柄がLEDで浮かび上がる“グラフィックポイ”を用いながらダンサーたちと共に展開したパフォーマンスがドラマチックだった。そして、ラストを飾ったのは「桃太郎」。川崎大師に参詣した人が購入するお土産の定番“だるま煎餅”を観客に配ったコムアイは、透明の大きなバルーンの中へと入った。バルーンはフロアへと投入され、観客の頭上を回転しながら移動。大きな水泡の内部で歌っているかのような彼女の姿は、まるでファンタジー映画の主人公のよう。粋なアイディア、予想外の演出、全力投球のパフォーマンスで満ち溢れている水曜日のカンパネラのライブの刺激を、改めて強く噛み締めたエンディングであった。

【取材・文：田中 大】
【撮影：横山マサト】