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期待を遥かに上回る特大ホームラン連発!My Hair is Bad初の日比谷野音公演をレポート!

My Hair is Bad | 2017.05.18

 バットを楽器に替え、3人が全身全霊のフルスイングで放った音楽は、立ち見席までぎっしりと埋め尽くした満員御礼の客席、そのひとり一人のど真ん中をぶち抜き、さらには遥か場外にまで勢いよく飛んで日比谷の空気を容赦なく揺らす。昨年12月3日に彼らの地元、新潟県上越市のライブハウ<bス・EARTHからスタートし、約7ヵ月間に渡って全43公演を敢行するツアー、その名も“ハイパーホームランツアー”も後半戦を迎えた5月4日、数えることきっかり30本目の東京・日比谷野外大音楽堂だ。

 今ツアーにおけるひとつのハイライトとも言うべきこの日、大きな感慨を噛み締めながら「初めての野外ワンマンだからいいものをいっぱい見せたいし、楽しんでもらいたい。でも誰よりも俺がいちばんいいものを見て楽しんで帰ります。しょっぱなからここをライブハウスにします!」と序盤から力強く意気込んだ椎木知仁(Vo& Gt)。まさにその意気に違わぬ渾身のパフォーマンスで詰めかけた3000人を圧倒、宣言通り初めての日比谷野音を瞬く間に彼らのホーム=ライブハウスに変えた。

 “My Hair is Bad”と“野音”という取り合わせに少しばかり違和感を覚えなかったと言ったら嘘になる。彼らの楽曲は大半が恋愛の歌だけれど、それらは綺麗事などカケラもない、むしろ過ぎるほど赤裸々にやるせなく、どこか茫洋と達観しているようで往生際が悪く、身も蓋もなく胸苦しい劣情の吐露だったりする。だから野外と聞いて世間一般が浮かべる明るい開放感や健康的で爽やかなイメージとはあまりにかけ離れている気がしたし、前述したように彼らの主戦場はライブハウスだという先入観もあった。一方で日比谷野外大音楽堂は多くのロックバンド、ロックアーティストたちが目指し、数々の伝説を生み落としてきた聖地とも呼ぶべき会場でもある。My Hair is Badがここに何を残すのか、取り合わせが意外であればこそ、その化学反応に期待を募らせていたのも事実で、そして3人はあっさりと期待を遥かに上回る特大ホームランを連発してみせたのだった。

 山本大樹(Ba& Cho)が弾き出すタフなベースライン、山田淳(Dr)の疾走感溢れるビートがオーディエンスの昂揚を牽引し、熱狂を加速させる。 「ロックバンドをやりにきたんだ! ロックバンドを観て帰ってくれ!」

 そう叫んで突入した「ディアウェンディ」で椎木はギターを掻きむしっては自身の内側にあるものをすべて吐きだすように歌い、さらには曲中、「昨日も300円の蕎麦食べたし、ひとりで寝た。ロックバンドやっても女になんかモテない。でもバンドマンだから頑張ります」だの、「女はみんな、医者とか不動産とかちゃんと働いてるほうがいいよな」だの、「安定とか不安定とかぶっ飛ばせ!」だの、挙げ句の果てには「そんなに安定したいんだったらずっとそこで座ってな!」とわめき散らした。どうしようもなく支離滅裂で、けれど、そのどうしようもなさをひたすら浴びる快感。とめどなく猛る演奏には曲を重ねれば重ねるほど凄みが宿り、オーディエンスに瞬きする隙すら与えない。

 情けない歌はどこまでも情けなく、救いのない心情は鬼気迫って聴き手を抉る。鉄壁の3ピースロックサウンド、滔々と垂れ流されるエモーション、その実にキャッチーなメロディ、それらが三位一体となってオーディエンスを巻き込み、場内に大きなうねりを起こす。“My Hair is Badの野音”を満たしていたのは健やかな開放感というよりは鬱屈した魂の解放で、ステージの3人と客席にいる3000人、そのひとり一人から噴き出しているのは爽やかな汗ではなく、ようやく出口を見つけた情動の滴だ。晴れ渡った空の下で轟々と渦巻く、このカオスのごとき一体感が痛快ですらあった。 「少しだけ時間もらっていいか? 先にも後にも今しかないと思ってます。1曲聴いてください」

 3000人が固唾を呑んで見守る中、「フロムナウオン」が迸った。「これからも続けていきます、そんなこと言うつもりもない。必ずいつか終わる。だが必ずいつか終わるまでカッコよく居続ける。本物で居続ける。自分に酔っぱらい続ける」「どんなことが起こったって、あんたらが好きなロックバンドはあんたらを裏切らねぇ!」「外で歌う歌、どこまでも自分の声が飛ぶとは思わねぇ! 飛ばないからこそ、俺は遠くに飛ばすんだ」--矢継ぎ早に椎木が紡ぐ“今、この瞬間の想い”がずっしりと積もる。ロックバンドに大切なのは強さでも大きさでも高さでもなく、その“らしさ”だけだと言い切り、自分らしくいることが正解じゃなかったらなんなんだと問いかけ、ただ今日も生きていることが俺たちの正解であり成功であれと希求する姿は、この大舞台に改めて己の覚悟を表明しているかのようにも映った。

 恋をしたって愛を知ったって埋められない何かがあるから音を鳴らす。やるせなさもどうしようもなさも歌にして叫べば生きていける。彼らにとってのロックとはきっとそういうものなのだろう。彼らの奏でる音楽はある意味、とてもパーソナルでささやかだ。活動だって派手に展開してきたわけじゃない。年間100本、200本と地道にライブを重ねながら、ささやかな歌をささやかな個人に手渡し続けてきた。その集積が今に届いたということに意義と重みを感じずにはいられない。 「荒れましたね。大荒れ。これが今日の僕らだったなと思いました。こういう大きいところでやれるのは僕らだけの力じゃないです。何回も言ったけど改めてありがとう。さっきも言ったけど、続けていくとか言いません。こんなものはいつ終わるかわからない。そうでしょう? でも終わるまではカッコよくいたい。これからもどうぞよろしくお願いします」

 じっくりとバラードを聴かせるブロックでは椎木が着席を促すも、慣れぬ事態に戸惑ったのか、なかなかオーディエンスが座ろうとせず「また立たせるので座ってもらっていいですか」と苦笑いで再度呼びかける場面があったり、また、アンコールでは椎木が冗談で“犬ダンス”なる単語を口にするや、悪ノリした山田に四つ打ちのキックを鳴らされてうっかり踊りかけそうになるなど、和やかなムードも随所に散りばめつつ、終始、全力の“今”を叩きつけたこの日。格別な1日を振り返って、そう椎木は言った。感謝と覚悟と約束のすべてがここにはあった。

 今ツアーは6月18日の新潟LOTSまで続き、さらには“延長戦”として8月に3都市3公演での開催が予定されている。願わくばMy Hair is Badの“今”をそのずっと先まで見ていたい。

【取材・文:本間 夕子】
【撮影:MASANORI FUJIKAWA】

▼ハイパーホームランツアー日比谷野外大音楽堂 2017/5/4

tag一覧 ライブ 男性ボーカル My Hair is Bad

リリース情報

woman’s[初回限定盤]

woman’s[初回限定盤]

2016年10月19日

EMI Records

[CD収録曲]
01.告白
02.接吻とフレンド
03.音楽家(ミュージシャン)になりたくて
04.グッバイ・マイマリー
05.戦争を知らない大人たち
06.恋人ができたんだ
07.mendo_931
08.ワーカーインザダークネス
09.革命はいつも
10. 沈黙と陳列 幼少は永遠(とわ)へ
11. 真赤
12. 卒業
13. また来年になっても

[初回盤 LIVE DVD 収録内容]
・2015年12月14日 渋谷 CLUB QUATTRO「師走の虎」
01.真赤
02.18歳よ
03.新曲
04.白熱灯、焼ける朝
05.月に群雲
06.クリサンセマム
07.ディアウェンディ
08.フロムナウオン
09.最近のこと
10.悪い癖
11.ドラマみたいだ
12.優しさの行方
13.アフターアワー

お知らせ

■ライブ情報

My Hair is Bad presents ハイパーホームランツアー
05/20(土) 桜坂セントラル
05/25(木) 広島CLUB QUATTRO
05/27(土) 福岡BEAT STATION
05/29(月) 高松DIME
06/01(木) 松本ALECX
06/03(土) 仙台JUNK BOX
06/06(火) 横浜FAD
06/10(土) 宮崎FLOOR
06/11(日) 小倉FUSE
06/15(木) 甲府KAZOO HALL
06/18(日) 新潟LOTS

My Hair is Bad presents ハイパーホームランツアー 延長戦
08/01(火) 高崎club FLEEZ
08/22(火) 徳島club GRINDHOUSE
08/24(木) 長崎Studio Do!

百万石音楽祭2017~ミリオンロックフェスティバル~
06/04(日) 石川県産業展示館1~4号館

OTOSATA ROCK FESTIVAL
06/17(土) 長野県茅野市民館

サンボマスター presents 今年は何かとはっちゃけたい!~2017全国ツアー~
06/24(土) 周南RISING HALL
06/25(日) 小倉WOW

ストレイテナー presents BROKEN SCENE TOUR 2017
06/26(月) 梅田クラブクアトロv 06/28(水) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
06/30(金) 熊本B.9 V1

SiM presents DEAD POP FESTiVAL 2017
07/01(土) 神奈川県川崎市 東扇島東公園特設会場
07/02(日) 神奈川県川崎市 東扇島東公園特設会場

Northern19 presents LIVE tour 2017
07/05(水) 八王子RIPS

京都大作戦2017~心の10電!10執念!10横無尽にはしゃぎな祭!~
07/07(金) 京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ

Northern19 & My Hair is Bad presents 八海山 vol.2
07/12(水) 上越EARTH

cinema staff presents “熱源” Release tour 『高機動熱源体』
07/16(日) 高崎club FLEEZ
07/17(月) HEAVEN’S ROCKさいたま新都心

片平里菜 presents 片平里菜 2マンツアー2017 ”LOVE”ツアー
07/19(水) 渋谷CLUB QUATTRO

MURO FESTIVAL 2017
07/22(土) お台場野外特設会場

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017
08/05(土) 国営ひたち海浜公園
08/06(日) 国営ひたち海浜公園
08/11(金) 国営ひたち海浜公園
08/12(土) 国営ひたち海浜公園

WILD BUNCH FEST. 2017
08/19(土) 山口きらら博記念公園

MONSTER baSH 2017
08/20(日) 国営讃岐まんのう公園

音楽と髭達2017-No border-
08/26(土) HARD OFF ECO スタジアム新潟

SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2017
08/27(日) 山中湖交流プラザ きらら

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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