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元BOØWYの高橋まこと率いるJET SET BOYS。バンドとしての深化を見せた2ndアルバムを携え行われたツアーファイナルをレポート!

JET SET BOYS | 2017.08.10

 昨年、セルフタイトルの1stアルバムで、ロックな大人が奮い立つときの強烈さをまざまざと見せつけたJET SET BOYS。今年6月に出た2ndアルバム『BIRD EYE』では、メンバーの音楽的個性の有機的融合はさらに進み、バンドとして理想的な深化が遂げられていた。それを引っ提げてのツアー「JET SET BOYS LIVE TOUR 2017」のファイナル@東京・恵比寿LIQUIDROOM。

 刺激的な赤いライトが点滅するなかメンバーが登場すると、待ちかねていた観客から熱い歓迎の拍手が湧いた。気合い全開で友森昭一がギターをかき鳴らすと、高橋まことのトライバルなリズムとtatsuの生き物のように躍動するベースがからみつき、会場は一気にダイナミックな音世界に包まれる。鼓動をかき乱すほどのバスドラ。椎名慶治はその音に挑むように不敵な笑みを浮かべて歌い出した。「CRUSH AND BUILD」。一筋縄では生きてこなかった4人の男たちの人生そのもののような歌詞に、いきなりグッとくる。間髪入れずフリーのギターソロが繰り出した友森は、軽くガッツポーズして、ちょっとポップな「OH BABY」に。タンバリンを持った椎名は高橋と楽しげにアイコンタクト。黙々とベースを奏でるtatsuの姿は、それだけでめちゃくちゃロックだ。
 ノンストップで3曲終わったところで、椎名は「ヤバいよね。野郎の声」と男性客の多さに驚きつつ、「ここで開会の宣言をしてもらいます」と高橋にマイクを預けた。「ファイナル寂しいけどな、最後まで思いっきりいくから応援よろしく頼むぜ!」と高橋。会場が沸いたところで「Are you OK?」とカウベルが印象的なクールなファンクチューン「OK?」になだれこんだ。観客とのちょっとコミカルなコール&レスポンスから、椎名のカウントで「GO AWAY」。鳴りのいいスネアのフィルが抜群に気持ちいい「ONE STEP CLOSER」。2曲続いたこのスピード感のあるシャッフル系は、JET SET BOYSの看板ビートと言ってもいいだろう。
 中盤は、椎名曰く「身を削って歌う」ミディアム~バラード系が3曲続いた。哀愁がクールに漂う「IT’S JUST A LOVE AFFAIR」では、物語を紡ぐようなtatsuのメロディアスなベースに魅了される。「ROOM 504」が醸し出すムーディーな色気に酔わされた観客は、息を飲んで次を待った。「聴きたい」という衝動が、会場を独特な雰囲気にしていく。演るほうも観るほうもどこか緊張しながら集中する時間。圧巻だったのが「STRAYED」だ。どうしようもないくらいにせつないこのロッカバラードを、椎名は声を、そして、魂までをも振り絞るようにして歌いきった。まさに心をえぐられた瞬間。そのディープな余韻は「DEAR MERMAID」のヘヴィな世界に流れ込み、超弩級のエクスタシーを運んできてくれたのだった。
 「ここからは声をいただいてもいいでしょうか?」という椎名のMCで、後半戦はポップとロックが混在する魅力的なナンバー「PROMENADE」から。「♪ウォーオーエオーオエオー」という2声コーラスを、客席をふたつに分けてまず練習させる椎名。熱血先生のその姿につられて、驚くほどきれいなハーモニーが出来上がっていった。実際の曲中でその成果を最大限に引き出そうとする椎名。応えようとする観客。求め合う心が響き合って、JET SET BOYSとオーディエンスとの素晴らしいコラボレーションが実現。一気に開放的になった客席は、「BAD COMPANY」では手を思いっきり振って楽しさをステージにぶつけたのだった。
 ここで高橋まことがスネアのフィルから高速ハイパーサウンドを叩き始めた。その嵐のような音のなか、上手の友森、下手のtatsuのもとに椎名は駆け寄って、何か耳打ち。そして、何か突き抜けたかのようなぶっちぎり感で「GRAPEFRUITS」が始まった。熱に浮かされたように「ヘイ! ヘイ!」と声を合わせる観客。その勢いは止まらず、「ZIPPER DOWN」では大興奮のタオル回しとなった。
 終わって「いやー、生ものだって感じてます」と心から吐露するように話す椎名。種明かしをすると、実は本来のセットリストでは、「BAD COMPANY」のあと「WHO AM I?」にいくはずだった。ところが、高橋が高速ハイパーサウンドを叩き始めてしまったため、椎名は咄嗟にもう「WHO AM I?」には戻らず、そのままの勢いでラストまで向かうことを判断。友森、tatsuに耳打ちしたのだった。でも、観客にそのハプニングを明かせば興醒めになるだけ。そこも椎名は咄嗟に判断し、「生ものだって感じてます」という実感だけを述べたのだ。そして、こうも続けた。「このライブは4人だけで奏でてる音。テンポの感じや空気感やいろんなものにヤラれて、いっぱいいろいろありました(苦笑)。浮かれてるんだと思います。でも、ファイナルで浮かれるってサイコー!」と。
 思わず「Yeah!」と叫びたくなった。この段階で「WHO AM I?」を飛ばしてしまったことは、セットリストを知っている関係者しか気づかないこと。だから、本当は観客には何も言わずスルーしてもよかったはずだ。でも、椎名はそれをよしとせず、ちょっと自嘲気味に「浮かれている」と表現した。ミュージシャンとしてのその正直さが素敵だと思った。本編最後は「ずっと大事にしたい曲」と紹介した「IT’S CALLED LOVE」。JET SET BOYSの根底の温かさを表すようなラブアンセムに、あらためて正面切って思いをこめるメンバー。いい光景だった。

 すぐに「アンコール!」という正統的な声が上がった。もしかしたら、ライブ自体が初というお客さんも多かったのかもしれない。音楽シーンを支えてきたレジェントたちへの憧れの眼差しが、ストレートにステージに向けられていることにジンとする。最初にひとり中央に出てきたのは高橋まことだった。「1曲飛ばしちゃったよ。埋め合わせするからな。ついてこれんのか?」と照れくさそうに告白する姿が、なんともチャーミングだ。満面の笑みで高橋まこと印のドンドコドラムを叩き始めた彼は、エネルギッシュなソロで延々と客席を沸かしていった。
 「もうネタが切れるぜ」と叫んだところで、メンバーが再登場。これぞというスネアのフィルで件の「WHO AM I?」が始まった。これぞというギターリフ、これぞという太くステディなベース。うれしそうに頬を紅潮させた椎名は、心ごと観客とコミュニケーションをしながら歌詞を飛ばしてる。その人間くささがまた、これぞ椎名だ。「PASTA」でパンクにハジけたあと、ラストナンバーは「FAM」だった。大人だって完全じゃない。だからもがいてる。君もそうだろう。そんなふうに語りかけられてる気がして、鼻の奥がツンとなった。一筋縄では生きてこなかった4人の男たちのちょっと不器用だけど嘘のない姿に、密かにVサインを送った夜だった。

(OPENING ACT:LUV K RAFT)

【取材・文:藤井 美保】
【撮影:井上洋平、朝原聖】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル JET SET BOYS

リリース情報

BIRD EYE

BIRD EYE

2017年06月14日

ユニバーサルGEAR

1.BIRD EYE
2.CRUSH AND BUILD
3.OH BABY
4.OK?
5.IT’S JUST A LOVE AFFAIR
6.IT’S CALLED LOVE
7.ONE STEP CLOSER
8.DEAR MERMAID
9.GO AWAY
10.GRAPEFRUITS
11.WHO AM I?
12.FAM

セットリスト

JET SET BOYS
LIVE TOUR 2017
2017.7.29@恵比寿LIQUIDROOM

  1. 1.CRUSH AND BUILD
  2. 2.OH BABY
  3. 3.LEVIATHAN
  4. 4.OK?
  5. 5.GO AWAY
  6. 6.ONE STEP CLOSER
  7. 7.IT’S JUST A LOVE AFFAIR
  8. 8.ROOM 504
  9. 9.STRAYED
  10. 10.DEAR MERMAID
  11. 11.PROMENADE
  12. 12.BAD COMPANY
  13. 13.GRAPEFRUITS
  14. 14.ZIPPER DOWN
  15. 15.IT’S CALLED LOVE
 <ENCORE>
  1. EN-1.WHO AM I?
  2. EN-2.PASTA
  3. EN-3.FAM

お知らせ

■ライブ情報

JET SET BOYS LIVE 2018
2018/01/20(土) 東京・DAIKANYAMA UNIT

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