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人間椅子、初のMV集『おどろ曼荼羅』を引っ提げ繰り広げた“実演販売の旅”ファイナル

人間椅子 | 2018.05.16

 新作に伴うレコ発ツアーとも、フェスや対バン・イベントとも、一味も二味も異なる人間椅子の世界観にどっぷり浸れる貴重なライブとなった。それもそのはず、今回は4月にリリースされた初のミュージックビデオ集『おどろ曼荼羅』に伴うツアーとなり、鈴木研一(Vo/B)曰く“実演販売の旅”最終公演を迎えた。内容的にはバンドの歴史をグッと遡り、久しぶりに日の目を浴びた楽曲も数多くあったりと、長年追い続けてきたファンからここ数年で好きになった新規まで、フレッシュな驚きに包まれた人も多かったことだろう。事実、イントロが始まった瞬間にウワッ! という悲鳴にも似た歓声が上がる場面もしばしばで、そういう空気を含めて最高だった。

 何しろ人間椅子の道のりを振り返ることは、ハード・ロックの悠久なる生命と歴史に触れることと同義である。また、ハード・ロックに胸を打たれ、涙を流し、魂を奪われた和嶋慎治(Vo/G)、鈴木、ナカジマノブ(Dr/Vo)のメンバー3人が2018年という時代に、そこから受け取った衝動と感動を大爆発させているという事実。その軌跡と奇跡を存分に味わえるとあって、会場は隙間が見当たらないほど観客で埋め尽くされ、開演を今か今かと待ち受けていた。

 SEと共にメンバー3人が姿を見せると、最新アルバム『異次元からの咆哮』より、「超自然現象」でステージは幕を開けた。BLACK SABBATH譲りのザクザクした重厚リフで攻め立てると、観客は早くも大フィーバーだ。それから前作『怪談 そして死とエロス』からの「地獄の球宴」へ移り、ここ最近のナンバーを続けて披露した後、時代は99年に一気に遡り、「幽霊列車」へ。MVの冒頭部分はOZZY OSBOURNEのMV「Crazy Train」を彷彿させるように、汽車が走り抜ける映像が印象的。じわじわと突き進むミドルテンポの曲調は味わい深く、後半にテンポアップするインスト・パートもかっこ良かった。

 「レアな曲やりましょう」と鈴木が言うと、次は「悲しき図書館員」を披露。耳に残るキャッチーなリフを配し、和嶋の味わい深いギターソロも聴き応えたっぷり。曲をやり終えると、"頁をめくり"の歌詞でジミー・ペイジを思い出すと鈴木がこぼし、観客を笑わせていた。

 そして、ミュージックビデオで小芝居をいろいろやっていたことにも触れ、まさにメンバー3人が演技し、シアトリカルな雰囲気に溢れる「怪人二十面相」をプレイ。おどろおどろしいサウンドを鳴らし、蟻地獄のごとく聴く者をその音世界にズルズルと引きずり込んでいた。それから和嶋は今回のツアー中にギブソン製のダブルネック・ギターを買ったらしく、嬉しそうな表情でお披露目した後、LED ZEPPELINの「Stairway to Heaven」やEAGLESの「Hotel California」のフレーズなどを爪弾いていたが・・・それがまたウットリする極上の音色なのだ。そのダブルネック・ギターを使用し、「夜叉ヶ池」をプレイ。艶やかな12弦からヘヴィな6弦へとスムーズに使いこなし、和嶋と鈴木のヴォーカル/ハーモニーも文句なしの素晴しさだった。

 「全国のお茶の間に毒を振り撒こうと・・・」と和嶋が前置きすると、次はBSジャパンで放送された三島由紀夫・原作ドラマ『命売ります』主題歌となった同名曲を披露。確かに人間椅子の濃いエキスをふんだんに注入したヘヴィネス、一発で覚える「バラババンバ」の攻めたコーラス・ワーク、水を得た魚のような和嶋のエッジ鋭いギターソロといい、ギラギラした命の燃焼ぶりを叩き付ける楽曲に会場も異様な盛り上がりを呈した。

 中盤には久しぶりにやったという「東洋の魔女」、ヘヴィにしてキャッチーな名曲「恐怖の大王」、鈴木のドスの効いたヴォーカルがクセになる「洗礼」、9分近い深淵なる大作「水没都市」と続き、重箱の隅をつつくレアな選曲に大きな拍手が沸き起こるほど。

 「みんな楽しんでるか? 景気付けに俺のことアニキって呼んでくれ!」とナカジマが元気よく告げると、自らリード・ヴォーカルを務めるRAINBOW風味の「悪魔の添乗員」を解き放つ。明るいエナジーを会場いっぱいに振り撒くと、後半に向けてバンドの演奏も加速度を上げる。和嶋がギターでバイク音を奏でると、「地獄のヘビーライダー」に突入。「ぶっとばせ」の歌詞を捲し立てる鈴木のヴォーカルがインパクト抜群で会場の熱気も急上昇! 学生らしき若い人から、会社帰りのサラリーマンやバンギャの女性まで本当に幅広い世代の人たちがここに集まり、時に拳を上げて騒ぎ、時に激しくヘッドバンギングする様をあちこちで見かけた。世代が一つに偏らず、むしろ世代を跨いで多くの人に支持されているのが人間椅子の強みだ。幅広い客層を眺めているだけで、このバンドがいかに普遍的で独創性に富む音楽をやっているかを、改めて思い知らされる。

 本編は「迷信」、METALLICAもカヴァーしたBudgieのオリジナル曲に独自の日本語詞を付けた「針の山」と続け、最後はジミ・ヘンドリックスよろしく和嶋はギターを歯で弾いて盛大に締め括った。アンコールに応えると、地を這うベース音が不気味な「浪漫派宣言」、MOTORHEAD張りの疾走感で迫る「ダイナマイト」でフロアは大熱狂! さらにWアンコールでは「どっとはらい」まで飛び出し、メンバー3人の息の合ったKING CRIMSON風のフレーズにも引き込まれた。トータル2時間半に及ぶ内容となったが、人間椅子のハード・ロック曼荼羅に五感のすべてを刺激されたのは言うまでもない。本当に世界に誇れる無二のバンドである。

【取材・文:荒金良介】
【撮影:堀田芳香】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 人間椅子

リリース情報

おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~

おどろ曼荼羅~ミュージックビデオ集~

2018年04月04日

徳間ジャパンコミュニケーションズ

01. りんごの泪(1990)
02. 夜叉ヶ池(1991)
03. ギリギリ・ハイウェイ(1995)
04. ダイナマイト(1995)
05. 幽霊列車(1999)
06. 怪人二十面相(2000)
07. 見知らぬ世界(2001)
08. 東洋の魔女(2003)
09. 洗礼(2004)
10. 品川心中(2006)
11. 浪漫派宣言(2009)
12. なまはげ(2014)
13. 宇宙からの色(2014)
14. 恐怖の大王(2016)
15. 虚無の声(2017)
16. 命売ります(2018)

セットリスト

『おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー』
2018 .4.27@渋谷TSUTAYA O-EAST

  1. 01. 超自然現象
  2. 02. 地獄の球宴
  3. 03. 幽霊列車
  4. 04. 悲しき図書館員
  5. 05. 怪人二十面相
  6. 06. 夜叉ヶ池
  7. 07. 命売ります
  8. 08. 東洋の魔女
  9. 09. 恐怖の大王
  10. 10. 洗礼
  11. 11. 水没都市
  12. 12. 悪夢の添乗員
  13. 13. 地獄のヘビーライダー
  14. 14. 迷信
  15. 15. 針の山
  16. 【ENCORE1】
  17. EN-1. 浪漫派宣言
  18. EN-2.ダイナマイト
  19. 【ENCORE2】
  20. EM-3. どっとはらい

お知らせ

■ライブ情報

やついフェス2018
06/16(土)[東京]渋谷12会場

夏の魔物in大阪
09/09(日)[大阪]味園ユニバース

ニューロティカ主催の2マンシリーズ
09/14(金)[東京]渋谷TSUTAYA O-WEST

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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