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My Hair is Bad 初の日比谷野音ライブから1年。土砂降りの雨の中、果たされた約束。

My Hair is Bad | 2018.05.23

「“大丈夫だ、心配いらない”って、みんなこう言うだろう。“雨降って地固まる、止まない雨はない、雨が降らないと虹は出ない”。その通りだ。でも、また絶対いつか雨は降るから。いつか降る、止んだってまた降る。繰り返す。だったらどうすんだよ! 立ち向かえ!」

 そろそろライブも後半戦に差しかかろうとしているにも関わらず、一向に止む気配のない、それどころかいっそう強く降り込んでくる雨の中、「フロムナウオン」を掻き鳴らしながら椎木知仁(Vo・Gt)はそう叫んだ。荒天の下ではただ無力でしかない自身を、そしてそんな自分たちが放つ音楽を濡れそぼりながらもなお満場の熱で受け止めようとしてくれているオーディエンスを、全身全霊で鼓舞せんとするその絶叫にMy Hair is Badの真価を思う。もとより即興の多いバンドではあるが、特にこの「フロムナウオン」においては歌のほぼすべてが即興と言っていい。脊髄反射的スピードで生のままに垂れ流される、その日、その瞬間の感情、思考、つまりは本音。事態がのっぴきならなければならないほどに、それはリアルに効力を発揮する。「雨の音が拍手の音に聴こえる。それなら今日はずっと拍手だ」「絶対忘れない今日を俺らは作ってる。まちがいなく今を」「心に雨が降ってるとき、その傘は誰が持ってきてくれたの? あのとき自分に傘を差してくれた人の顔はどんなだった? 忘れないようにしたいんだ」「中途半端なことをやるのは失礼だ。失礼承知で名乗る! 現在最高ロックバンド、My Hair is Bad!」「俺はロックバンドを名乗りたいから、本気でやる。くそくらえだ! 中途半端な覚悟で名乗るな!」……次々に繰り出される生々しい心情を浴びながら、今日、このステージこそが彼らの立つべき場所だったのだと確信した。

 4月に完遂したばかりのホールツアー『ギャラクシーホームランツアー』の追加公演にして大阪と東京の2都市で開催の野外ライブ、その名も『オーガニックホームランツアー』。その2公演目かつラストとなった5月13日、東京・日比谷野外大音楽堂だ。My Hair is Badにとっては1年ぶり、2回目となるこの日比谷野音公演が、かなり高い確率で雨になるだろうことは数日前から予め報じられてはいたから、メンバーのみならずスタッフも、訪れる予定のファンもある程度、腹は括っていただろう。だが、まさかこんなにも酷い降りになるとは思わなかった、いや、思いたくなかった。午後には本格的となった雨脚はますます強くなる一方で、開演間際など客席の通路もちょっとした川を連想させるほどだ。もちろんステージだってかろうじて屋根はついているものの、ほとんど意味をなしていない。だが、不思議と場内のムードは明るく、ここまできたらいっそ状況を楽しみつくしてやろうという気概に満ちているのが感じられる。“あいにく”なんて言葉、意地でも使うものかと、出番を待っている3人もおそらく思っているのではなかろうか。

「この雨をいい思い出にするために、新潟県上越、My Hair is Bad、始めます!」

 大音量の登場SE、The Band「We Can Talk」とともに堂々、姿を現わした彼ら。互いにがっちり握手を交わすと客席に向き直り、椎木の挨拶を号令に「優しさの行方」を雨雲に覆われた日比谷の街一帯に轟かせる勢いで力強く迸らせた。途端に野音全体が活き活きと躍動する。雨合羽の袖から滴が伝うのもお構いなしで客席いっぱいに突き上がる腕、揺れる手のひら。空気を濁らせる塵や埃と一緒に、日常の雑多なものまでが雨粒に絡めとられて地面に落ちていくからだろうか、歌や演奏の真ん中にある核のようなもの、My Hair is BadをMy Hair is Badたらしめる太い軸のようなものがよりクリアに、ダイレクトに届いてくる気がする。「こんなに酷い雨で、だけどこんなに人がいて、いつも通りロックバンドやってやろうと思う。最後にちゃんと笑えるように」と曲を即興の歌で締めくくった椎木。やんやの喝采が注ぐ中、「二度とない今日へ。ドキドキしようぜ!」と間髪入れずに「アフターアワー」に突入。アンサンブルを先導して山田淳(Dr)がタイトにカウントを刻むや、3人がひと塊の音となってオーディエンスのもとへと攻め込んでいく。楽器が濡れるのも厭わずにずいずいと前に出て大股開きでベースを弾き倒す山本大樹(Ba・Cho)の勇姿、歌詞の《大事なものってやっぱそばにあるのかな》に応えるように「そばにあるに決まってんだろ! 俺らはここにいる!」と自ら合いの手を入れる椎木の言葉と、そこに宿った確かさがうれしい。

 「大丈夫?」「風邪引いてほしくないなぁ」と折りに触れ、観客を気遣っては、「みんなが思ってる以上にこっちも雨です」とつぶやいて笑いを誘い、挙げ句「みなさん今、合羽を着て雨を我慢してると思うんですけど……」と切り出したかと思うと自分も今、“あること”を我慢していると赤裸々に告白して失笑を買うなど(ゆえに“あること”についてここでは触れずにおこう)、MCではいつにも増して“らしさ”を連発。その後、「ごめんなさいね、雨の中でこんな話を聞かせて」と仕切り直すと「やっちまいますよ! むっちゃ溜まってんだ、こっちは。いろんな意味で!」と身も蓋もなく力技で「復讐」になだれ込んで再び狂騒に火をつける。行間までもが今日にリンクするかのような「熱狂を終え」から刹那を一気に駆け抜けた「クリマンセマム」、ヘヴィかつ挑発的なサウンドに乗せたラップで偽悪的なトゲを撒き散らす様が実に痛快な「燃える偉人たち」、とアグレッシブに寄り切った前半戦ラスト。かと思えば中盤戦以降は「白熱灯、焼ける朝」「彼氏として」とやるせなさが濃厚に立ちこめる楽曲たちを鬼気迫る演奏で続けざまに投下し、オーディエンスを次第に聴くモードへと引きずり込んでいく。曲が止み、ステージ上が無音になるたびに取って代わるように際立つ雨の音さえ、もはや今日というライブの必然だとさえ思えてしまう。

「いつだって雨に助けられてきた。雨が降らなきゃ芽が出なかった。雨が降らなきゃ喉が渇いた。いつだってそうだ、裏側があった。困難の裏側が!」

「フロムナウオン」のエンディングに椎木はそう叫び尽くすとステージの床に膝をつき、天に見せつけるかのように仰向けに転がった。そこには幾多の困難を味わって、その裏側をタフに生き抜いてきた彼らの、ロックバンドとしての矜持が込められていたに違いない。この雨をけっしてただの困難にはしないという意地と改めての覚悟の表明でもあっただろう。「戦争を知らない大人たち」で発せられた「この雨がちゃんと止みますように」「またちゃんと明日になりますように」という、これまた即興の歌はこの状況でなければきっと口にし得なかった究極の祈りであり、同じ状況を今まさに共有しているオーディエンスのひとり一人にもひときわ切実に響いたはずだ。ステージからのライトが白く明るく客席を照らした「シャトルに乗って」、すっかり暮れた場内にその光はあまりにまばゆく、無数の雨の軌跡を闇に浮かび上がらせる。目の前に広がる、いっそ清々しいほど容赦のない光景が、けれどとても美しい。

 俺らが今日こうやって会えているのは約束をしたからだ、と椎木は言った。昨年5月にワンマンライブを開催したこの会場に再び立とうと決めた彼らの約束と、だったら行ってやるよと応えたオーディエンスの約束が結実したから成立した今日だ、と。たしかにその約束がなければ、土砂降りの中、野音を埋め尽くしてなお余りある人数の観客が集まることはなかったかもしれない。けれど集った観客の動機のほとんどは“約束を守るため”ではなく、“ずぶ濡れになってでも欲しい音楽がここにあったから”だろう。

「ありがとう。こんなこと二度とないよな。最後に温かい曲を」とアンコールに奏でられたのは「いつか結婚しても」。《これからもよろしくね》と歌いながら客席を指差していく椎木の仕草に思わず涙腺が緩む。山本と山田の表情がまたそれぞれ、実にいいからなおさらだ。オーラスは「音楽家になりたくて」でステージも客席もアッパーに盛り上がる。ついぞ雨が上がることはなかったが、最上級の多幸感と一体感は間違いなく今日をかけがえのないものにした。

 さて、すでにアナウンスされている通り、6月には全国4ヵ所のZeppを回るツアー、“セーフティーバントツアー”が敢行される。ここまでホームランを放ち続けても満足することなく、さらに進んで塁を狙う、My Hair is Badの次なる試合展開に期待せずにはいられない。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:今井卓】

tag一覧 J-POP ライブ 男性ボーカル My Hair is Bad

リリース情報

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2017年11月22日

EMI Records

1.復讐
2.熱狂を追え
3.運命
4.関白宣言
5.いつか結婚しても
6.元彼女として
7.僕の事情
8.噂
9.燃える偉人たち
10.こっちみてきいて
11.永遠の夏休み
12.幻
13.シャトルに乗って

セットリスト

オーガニックホームランツアー
2018.05.13@日比谷野外大音楽堂

  1. 1.優しさの行方
  2. 2.アフターアワー
  3. 3.グッバイ・マイマリー
  4. 4.ドラマみたいだ
  5. 5.愛ゆえに
  6. 6.最愛の果て
  7. 7.復讐
  8. 8.熱狂を終え
  9. 9.クリサンセマム
  10. 10.元彼氏として
  11. 11.燃える偉人たち
  12. 12.白熱灯、焼ける朝
  13. 13.彼氏として
  14. 14.悪い癖
  15. 15.運命
  16. 16.フロムナウオン
  17. 17.戦争を知らない大人たち
  18. 18.シャトルに乗って
  19. 19.幻
  20. 20.最近のこと
  21. 21.真赤
  22. 22.告白
  23. 23.噂
  24. 【ENCORE】
  25. EN 01.いつか結婚しても
  26. EN 02.音楽家になりたくて

お知らせ

■ライブ情報

My Hair is Bad presents セーフティーバントツアー
06/02(土)Zepp Tokyo
06/09(土)Zepp Sapporo
06/16(土)Zepp Nagoya
06/23(土)Zepp Osaka Bayside


TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2018
05/27(日)新木場若洲公園

OTOSATA ROCK FESTIVAL 2018
06/17(日)長野県茅野市民館

カローラ福岡 presents NUMBER SHOT 2018
07/22(日)国営 海の中道海浜公園 野外劇場・子供の広場

FUJI ROCK FESTIVAL ’18
07/27(金)新潟県湯沢町苗場スキー場

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO
08/10(金)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
08/11(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

MONSTER baSH 2018
08/18(土)国営讃岐まんのう公園
08/19(日)国営讃岐まんのう公園

Sky Jamboree 2018〜one pray in nagasaki〜
08/19(日)長崎市稲佐山公園野外ステージ

未確認フェスティバル
08/26(日)新木場STUDIO COAST

SWEET LOVE SHOWER 2018
09/02(日)山中湖交流プラザ きらら

JA共済 presents RADIO BERRY ベリテンライブ2018 Special
09/09(日)井頭公園 運動広場

山人音楽祭 2018
09/22(土)ヤマダグリーンドーム前橋
09/23(日)ヤマダグリーンドーム前橋

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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