前へ

次へ

挫・人間、『東名阪ツアー2018~人間合格~』ファイナルが生んだ奇跡

挫・人間 | 2018.07.05

「壁ぶつけ」から「キャッチボール」へ。挫・人間のライブに於ける会場とのコミュニケーションの変化や成長を改めて感じた一夜であった。いわずもがな同じ「球を投げる」にしても、この2種は明らかに違う。相手が居ることを認識し、そこめがけて投げるか否か。もちろんそこには「捕球している!」との手ごたえや感触も伴う。
 かつての挫・人間は、ただ闇雲にとまでは言わないが、一方的に放ち、それが誰かに当たり、その振り返った者とだけコミュニケーションを育んできた印象があった。しかしその後、繰り返すライブを経て芽生えたもの、気づいたもの、育んだものが、この日、見事に「キャッチボール」として可視化された。そんな光景を私はこの晩、見ることが出来た。

 挫・人間『東名阪ツアー2018~人間合格~』が6月24日の恵比寿リキッドルームにて幕を閉じた。初の名古屋でのワンマンを含む今回は、彼らにとって各会場キャリア最大規模のものばかり。が故に、越えなければいけないものやプレッシャーもあった。結果このツアーは成功。私が観に行ったこの日は、彼らの単独公演中最多の動員であった。しかし成功は動員だけではなかった。それをこれからレポを通し紐解いていこう。

 これまで場内にBGMとして流れていたユーロビートやハイエナジーが止み、彼らの登場を告げるブレイクコアなSEが流れ出す。それに乗り走り出すようにメンバーが登場。スタンバイーー。と、その前にポージング。終えるとシレッと各自の持ち場に就いていく。

「準備は良いのか~!?」と、ピンクの上下のセットスウェット姿の下川リヲ(Vo&G)がシャウト。

 1曲目は「チャーハン食べたい」からスタートした。作品と違いロックバンド然となった同曲。アベマコト(B)のベースの運指が人力ならではの躍動力を生み出していく。趣味が合う者同士の電脳系繋がりを歌った同曲が、各人バラバラで他人同士だけど、この際だから繋がって行こうと促す。曲中は夏目創太(G)のギターソロも炸裂。会場からは楽曲にあわせ手を振るワイパーも生まれ、1曲目から一体感が育まれていく。サポートドラムの菅大智(電化アベジュリー/ゴールデンシルバーズ)がドラムでつなぎ、この季節にピッタリの最新シングルの「多重星」に入ると、ハネる16ビートが会場に更なる躍動感を寄与していく。ポップな曲は続く。下川がハンドマイクで歌った「お兄ちゃんだぁいすき」ではポップさと軽快さが会場に呼び込まれる。合わせて下川も可愛い声で《♪お兄ちゃんが大好き》とつぶやき、同時に私も一瞬めまいを覚えた(笑)。打って変わりドゥームな世界へ誘った「人類」では言葉を連射放出。その際の下川の姿は場内を支配する司祭や指揮者のように映った。

 ここで最初のMC。なるも、「よくこんなに集まったな…」と夏目が早くも感涙。「みんな自分が変わりたい、救われたいと思ってここにやってきたんだろ? 今日はそれが出来る気がする。たとえ行き着く先が地獄でも、ついてきてくれたら今後も大きい会場で良い景色を見せるから」(夏目)と力強く誓う。

 ライブは地獄へのドライブへと誘わんとばかりに怒涛の「人生地獄絵図」へ。大きな拍手の中、夏目がギターソロをキメ、続いて菅の鬼のようなドラムソロでラストを締める。阿部のスラップによるベースイントロから「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~」に入ると、サビのストレートさが会場を連れ去るように走り出させた。サビがストレートな曲は続く。次の「セルアウト禅問答」では、言葉の大量連射。そこを抜けたサビのストレートさが気持ち良い。中でも《♪I Love You》の連呼にはグッときた。

 ここからは会場の信頼度と、どこまでお客さんがついてこれるか? が試されるナンバーが続く。サビの上昇感がたまらなかった「絶望シネマで臨死」では、お客さんもきちんとダンスやフリにピッタリ合わせ、ついてくる。そして、披露された際のフロアの光景を楽しみにしていた「ダンス・スタンス・レボリューション」では、てっきりみんなの一糸乱れずを予想していたのだが、それほどでもなく。逆に思い思いに楽しんでいたのも印象深い。他のバンドならこのような曲では、支配感たっぷりに色々と動きやリアクションを強要しがちだが彼らは違う。観者の気持ちを汲み、その辺りを避けたに違いない。自分がされてイヤだったことは、他の人にもしない。なんか彼ららしい、「個人差でに楽しんで欲しいスタンス」が伺えた場面であった。とは言えせっかくなので、同曲内のウォール・オブ・デスのシーンぐらいは見たかったのだろう。会場の真ん中にモーゼの十戒を作り出し、てっきり左右でぶつかり合わせ、ウォール・オブ・デスを高みの見物するのであろうとの想像だったが、やはりそこも強要やお仕着せが苦手な彼ららしい。そこではウォール・オブ・デスならぬ、ウォーク・オブ・ハイタッチ(!)と題された異様な光景がフロアを微笑ましい場と化させた。実に円満。彼ららしい名場面だ。

 メンバー紹介のあと、「ビー玉のように輝くあなたたちの目が好きだ」と会場に告る下川。その後、今回のツアーで痔になってしまったことを告白。これで4人メンバー中3人が痔持ちになったそうだ。

 中盤からはこれまで以上のふり幅が楽しめた。プリセットされたアッパーなビートに乗った擬似アイドルソング「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」、打って変わり「天国」ではトーン低く、ウェットな歌い方が。また、センチメンタルや吐き出し性も交え歌われた「ゲームボーイズメモリー」、とめどなく溢れ出す想いや憤りを一気に吐き出した「ピカデリーナ受精」。そして、待ってましたの「品がねぇ 萎え」がディスコビートに乗せて贈られた。

 ここからはラストスパート。走り抜けた「明日、俺はAxSxEになる……」。「クズとリンゴ」では、グッとくる転調も手伝い、盛り上がりの火に油が注がれていく。そして本編ラストは、全ての17歳だった男と女に捧げられた「サラバ17才」が、モータードライブ感を場内にまき散らし、大円団を目指し突き進んでいった。結果、ヤケクソとそれを超えた後に待っていた清々しさと出会えた。

 アンコールは2曲。1曲目は2度と観れないと思っていた「Tee-PoΦwy」。バカバカしい寸劇が脳内リゾートへと誘う。また、これを歌った夏目をフロアがリフトしフローさせていく。と、ここまではいいのだが、何故かサークルモッシュまでも起こる。全くそんな曲ではないのに…。不思議だ。

 ラストは、もう恒例。除霊話から「下川最強伝説」へ。これまでに何度も聞いてきたが今回も一緒に全力で聴き入る。誇らしく、気高く、同曲と共に今回もしっかりと会場全員の除霊がなされた。なんたるカタルシス。「お約束だが音楽は忘れ去ってくれたり、拭ったりしてくれない、一時忘れさせてくれるだけだ」と下川。最後に「お前たちも立派な人間合格だ!」と会場中を「人間合格」と認可。それを受けた際の会場中のツルんとした無数の表情たちが忘れられない。

 盲目的に言われたことを遂行したものとは違い、そこにはしっかりと「参加」という意思があり、その向こうには「信頼」が故の「更なる楽しさ」が待っていた。なんかそんな光景が何度も浮かんだライブであった。そこに強要は一切なかった。しかし確かに共有は存在した。これぞすなわちキャッチボール!! その球は未だあまり速くなく、時々手元も狂う。しかし、彼らはこのメゾッドを繰り返し、いつしかもっともっと速い球や、きちんといつでも相手の胸元めがけて投げられる、そんなコントロールを身につけていくことだろう。さぁ、みんな、次の挫・人間の繰り出す球をしっかりとウケる準備は万端か?!

【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:高村勇一郎】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 挫・人間

リリース情報

品がねえ 萎え

品がねえ 萎え

2018年05月23日

redrec / sputniklab inc.

1.多重星
2.ダンス・スタンス・レボリューション
3.品がねえ 萎え

セットリスト

「東名阪ツアー2018~人間合格~」
2018.6.24@恵比寿LIQUIDROOM

  1. 1.チャーハンたべたい
  2. 2.多重星
  3. 3.お兄ちゃんだぁいすき
  4. 4.人類
  5. 5.人生地獄絵図
  6. 6.念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~
  7. 7.セルアウト禅問答
  8. 8.絶望シネマで臨死
  9. 9.ダンス・スタンス・レボリューション
  10. 10.☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
  11. 11.天国
  12. 12.ゲームボーイズメモリー
  13. 13.ピカデリーナ受精
  14. 14.品がねぇ 萎え
  15. 15.明日、俺はAxSxEになる……
  16. 16.クズとリンゴ
  17. 17.サラバ17才
  18. 【ENCORE】
  19. En-1.Tee-PoΦwy
  20. En-2.下川最強伝説

お知らせ

■ライブ情報

red cloth 15th ANNIVERSARY
07/24(火)新宿red cloth

Yum!Yum!
08/18(土)札幌Sound Lab mole

UDO ARTISTS 50th Anniversary 夏の魔物2018 in TOKYO
09/02(日)お台場野外特設会場J地区

11代目梅雨将軍2man series「挫・巨乳まんだら人間。」
09/17(月祝)池袋Adm

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る