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climbgrow 「CROSS COUNTER release tour」

climbgrow | 2018.12.28

 ステージに出てきたclimbgrowの4人を、声を上げながら歓迎する観客に対してニコリともせず、無言でセッティングを続けていたバンドは、杉野泰誠(Vo/Gt)が張り詰めた緊張を断ち切るように発した“始めるぞ”という一言を合図に演奏になだれ込んだ。近藤和嗣(Gt)が奏でる印象的なリフに“待ってました!”とばかりに、すし詰めになったスタンディングのフロアから無数の拳が上がる。
 1曲目は「極彩色の夜へ」。
“もっと気合、入れてもらっていいですかエヴリバディ! 東京で一番かっこいいところに連れてってやるぜ!”と杉野が叫ぶと、観客が“おお!”と応える。これまでライヴのクライマックスを飾ることが多かった語りパートも含むドラマチックなロック・ナンバーをいきなり持ってきたところに並々ならぬバンドの意気込みが窺えるじゃないか。そして、バンドが間髪入れずに「RAIN」につなげると、ハンドマイクの杉野は、“やろうぜ!やろうぜ!”と言いながら、いきなり客席にダイヴ! だからって、あっけにとられているヒマはない。
 ステージに戻った杉野が軽やかなステップで左右に動き回る後ろで、序盤から飛ばしまくる杉野のことなどお構いなしといった表情の3人が繰り広げる演奏はどうだ? 谷口宗夢(Dr)がダイナミックなプレイで演奏を、どしっと支える上で田中仁太(Ba)の疾走するベースに近藤のプレイが絡みつく絶妙なアンサブルが爆音の中で4人の存在をしっかりと浮かび上がらせる。
 そして、“踊れますか?”と杉野が声をかけ、つなげた「SCARLET」はシャッフルのリズムがゴキゲンなロックンロール。それまで前のめりだった観客は杉野の言葉に応えるように体を横に揺らした。
“わかってたけど、暑いですよね(笑)”
 9月にリリースした4作目のミニ・アルバム『CROSS COUNTER』をひっさげ、10月12日から全国各地を回った「CROSS COUNTER release tour」。その20公演目となるツアー・ファイナルは杉野がそう苦笑いするほど、序盤から大きな盛り上がりを見せた。だからって、そこでテンポを落とすような連中じゃない。
“×××よりも、他に何よりもヤバいやつ持ってきたから一緒にやろうぜ!”と杉野が発破をかけ、バンドの演奏はそこからさらにヒートアップしていった。
 この日、climbgrowが演奏したのは、『CROSS COUNTER』の6曲を含む全20曲。最後の最後までテンションの高さが途切れなかった2時間の熱演が印象づけたのは、彼らの一流の向こう意気と22歳の若いロック・バンドならではのエネルギッシュなパフォーマンスともう一つ。それは類稀なるヴォーカリスト、杉野泰誠のしゃがれ声を看板にしたイカついロックンロールという芯を変えずに作品をリリースするたび、表現の幅を広げてきたバンドの成長だ。
 前述した序盤の3曲だけでも彼らのレパートリーがそれぞれに違う魅力を持っていることがわかっていただけると思うが、中盤以降も杉野がギターを持ったまま客席にダイヴした高速ロカビリーの「LILY」、ストレートに〈I LOVE YOU BABY〉と歌うポップな「BABY BABY BABY」、ドスをきかせたclimbgrow流のブルース「ROCK ’N’ ROLL IS NOT DEAD」、エモい「Landscape」と、バンドは1曲1曲、そこに込めた感情も含め、異なる景色を見せながら、杉野曰く“東京で一番かっこいいところ”を目指して、観客を導いていった。
 中でも印象的だったのは、“(強い言葉で)歌っていると、誰かを傷つけてしまう。全部を愛することはできない。それでいいんじゃないですか? 嫌いな奴は嫌いで、好きな奴は好きで。自分だけを信じて、(周りから)何かを言われたって、俺たちには関係ねえだろ。あんたはあんたでいいんだって俺たちが言ってやる。好きなものを好きと言えない世の中じゃしょうもねえ。俺たちがやるしかねえんだ”と杉野が(たぶん)周囲から何を言われても、どう思われても、自らの信念を貫き通すという改めての覚悟を語ってから演奏した「LAVENDER」だった。それは迸る感情を抑え、淡々とした演奏をじっくりと聴かせながら、イカついロックンロール・バンドであるclimbgrowが安息を求める弱さを曝け出した瞬間だった。そして、その弱さを観客が受け止めたとき、その弱さは、climbgrowにとって、もう一つの大きな武器になったのだった。
 そこから一転、魂を込めて歌ったら、下北沢SHELTERがソールドアウトになったことを、天国にいる愛犬に伝えられるかもしれないという思いを込め、歌った「POODLE」。檄を飛ばすように言葉を投げかけ、周囲のふやけたバンドに牙をむく「風夜更け」(この曲でも杉野はダイヴした!)、その牙を不甲斐ない自分に向けた「ラスガノ」とラストスパートをかけるように激情を迸らせると、最後を飾ったのはメドレーで演奏した「革命を待つ」「未来は俺らの手の中」の2曲だった。
“世界の真ん中だと思ってる。誰にも邪魔させない。俺たちだけで最高のワンマンにしよう!”(杉野)
 バンドとファンの未来を祝福するこの2曲ほどラストを飾るにふさわしい曲はなかったはずだ。「未来は俺らの手の中」のキモとも言えるサビを、杉野は客席に身を乗り出して、観客と一緒に歌った。
“また会おうな!また、やろうな!”
 ステージを降りる前、杉野は客席にそう声をかけた。ファンに対する感謝を、気の利いた、あるいは歯の浮いたような言葉で語るようなバンドではない。しかし、「未来は俺らの手の中」にはっきりと表われているように、自分たちだけで戦っていても先は見えているとメンバーたちの気持ちも変わり始めたようだ。
 今回、下北沢SHELTERがソールドアウトになるほど変わってきたバンド状況もその理由の一つには違いない。しかし、だからこそ、時間がない中、“チューニングなんていいよ”と杉野が言いながら応えたダブル・アンコールの選曲が重要だった。ダブル・アンコールの曲を用意していなかった彼らは「風夜更け」を、もう一度演奏したのだった。バンドの人気は出てきた。しかし、常に成り上がるというバンド名に込めた4人の思いは、まだこれっぽっちも変わっちゃいない――渾身の演奏からは、そんな叫びが、声が聞こえてきたのである。

【撮影:浜野カズシ】
【取材・文:山口智男】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル climbgrow

リリース情報

CROSS COUNTER

CROSS COUNTER

2018年09月05日

Narisome Recoreds

1.革命を待つ
2.未来は俺らの手の中
3.LILY
4.GOLDEN HOUR
5.PAPER PLANE
6.BABY BABY BABY

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セットリスト

CROSS COUNTER release tour
2018.12.17@下北沢SHELTER

  1. 01. 極彩色の夜へ
  2. 02. RAIN
  3. 03. SCARLET
  4. 04. FENCE
  5. 05. GOLDEN HOUR
  6. 06. LILY
  7. 07. BABY BABY BABY
  8. 08. ROCK’N’ROLL IS NOT DEAD
  9. 09. Landscape
  10. 10. mold Hi
  11. 11. KLAXON
  12. 12. PAPER PLANE
  13. 13. LAVENDER
  14. 14. POODLE
  15. 15. 風夜更け
  16. 16. ラスガノ
  17. 17. 革命を待つ
  18. 18. 未来は俺らの手の中
  19. 【ENCORE】
  20. EN-1. 叫んだ歌
  21. 【DOUBLE ENCORE】
  22. WEN-1. 風夜更け

お知らせ

■ライブ情報

“O-Crest YEAR END PARTY 2018 Special 4 DAYS!"
12/29日(土)渋谷O-Crest

KINDAMA ’18-’19〜謹賀魂〜
12/31日(月)梅田クラブクアトロ

[2019]
“KOBE GOODIES COLLECTION"

01/06(日) 神戸VARIT.+チキンジョージ

“B-FLAT 2019 新年会 LIVE”
01/06(日) 滋賀 B-FLAT

SaToMansion 2nd album「the garden」release tour
01/12(土) 寺田町 FIRELOOP
01/13(日) 名古屋 CLUB UPSET

“でらロックフェスティバル2019"
02/02(土) 名古屋栄・新栄・大須のライブハウス20会場以上

“SANUKI ROCK COLOSSEUM 2019"
03/23(土)・24日(日)
[有料会場]
festhalle / オリーブホール / DIME / MONSTER / SUMUS Cafe
[無料会場]
瓦町駅地下広場、786FM香川ステージ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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