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FINLANDS、ツアーファイナルの渋谷クアトロでindigo la Endと共演

FINLANDS | 2019.04.26

「去る者は追わず」――メンバー脱退に際してサバサバした気持ちでいられるのかは本人たちしか知る由もない。今回の「UTOPIA TOUR」はベースのコシミズカヨにとって最後のツアーだ。その最終日は彼女たっての希望でindigo la Endを共演者に迎えて開催されたのだが、そもそもの縁は3年半前にindigo la EndのライブにFINLANDSが誘いを受けて出演したことだという。両者はギターバンドであることだけでなく、ソングライターの個性が恋愛を喜怒哀楽のその間の機微をオリジナリティ溢れる筆致で描くことところで、角度は違えど共振するものがあると思う。誰かを思うことの尊さを知りつつ、独りの時間に感じる真実を知る者は自分を騙せない。時に恋愛は切なくも疎ましい。そんなアンビバレンツを描かせたら最強のフロントマン/ウーマンを軸にした2バンドである。コシミズの最後のステージであるとともに、両者の共演を待望していたファンの多さをindigo la Endの登場早々から理解した。

洗練されたファンクネス溢れるSEで登場したindigo la Endはサポートのえつこ(Key/Cho)とみを(Cho)を加えた6人編成。「瞳に映らない」でスタートし、早速四つ打ちに合わせたクラップが起こる。続いては最近のindigo la Endのファンクネスを消化した楽曲の中でもギターバンドとしての独自性が際立つ「冬夜のマジック」が披露される。女声コーラスによる声のレイヤーが切なさを増幅していく。リズムへの意識が顕著になった『PULSATE』からのピックアップが11曲中5曲と多めではあったが、こうして従来の楽曲と並列した時に、やはりindigo la Endというバンドのキモは川谷絵音(Vo/Gt)が歌うメロディとギター、そして長田カーティスのギターが紡ぎ出す繊細なアンサンブルであることがより明快になる。

川谷がハンドマイクで歌う「煙恋」は長田のクリーントーンのジャジーさとえつこのピアノがAOR的なムードを醸し、サビの「愛されて惹かれて 比べて疲れて振られて慣れた」の独特な符割りによる川谷のファルセットがエモーショナル。ある種、恋愛の醍醐味も終焉の必然も詰め込まれた歌詞に一瞬にして飲み込まれる。佐藤栄太郎(Dr)が挟むサンプリング的なビート感はライブでも明快だ。一気に5曲を演奏し、川谷は一言「3年半前に俺らのライブに呼んで以来なんだけど、その頃から注目してたのすごくない?」と先見の明をフロアに問う。「今日はベースの子が最後らしいけど、俺らもメンバーすごい変わってるし、他人(同士)なんでバンドやるって大変なんですよ」と、自身の感慨を述べる。次第に毒舌が入ってきたところで切り上げ、後半に。

歌謡曲のような少し懐かしいメロディが胸を締め付ける「想いきり」、さらに「蒼糸」で切なさが増幅したところで、再びジャジーな「夏夜のマジック」が夜に溶け出していく。もう3年近く前のリリース曲だが、近作のニュアンスに通じるアレンジで大人にはじんわりと、ちょっと背伸びしたい年頃のリスナーにも儚いメロディが染み渡ったのではないだろうか。

短い時間ながらベストに近い選曲で届けられた流れの中で、終盤は長田と川谷のちょっと土臭いカッティングが特徴的な「インディゴラブストーリー」で熱量を上げ、締めくくりは珍しく川谷が一人称で書いた自分の生まれ年をタイトルに冠した「1988」。アコギをストロークする川谷、エバーグリーンなコード進行をドラマティックに高揚させる後鳥亮介のベースラインなどが全ての音が大きな奔流となってクライマックスに向かって行った。FINLANDSにとってもオーディエンスにとっても短くも濃密な1時間となったはずだ。

主役であるFINLANDSはサウンドチェックを行い、袖に下がることなくそのまま演奏を始めた。本編で全てを出し切るため、アンコールを行わないスタンスも含め、楽曲を演奏する、ことに全てを込めるのだから、不要な演出はいらないと言わんばかりの彼女たちのスタイルは潔い。ステージは最新EPの表題かつツアータイトルでもある「UTOPIA」からスタートとした。センチメンタルなニュアンスを孕んだコードワークで淡々と支える構成、エロティシズムとちょっとだけのはすっぱさと甘味を帯びた塩入冬湖(Vo/Gt)の声のバランスが、楽園に対する乾いた諦観と、それも別に善悪で測れるものではないという感覚にさせられるのは私だけだろうか。遠くに見える冬湖の表情はわからないが、真っ赤な唇がどこかマレーネ・デートリッヒのようで鮮やかだ。

矢継ぎ早に一転してファストな「call end」へ突入すると、自然とクラップが起こる。パワフルなナンバーでもカヨのベースはタフでグルーヴィだ。全身を使ってうねりを生み出すような彼女のプレイスタイルが頼もしい。さらにはギターフレーズもドラミングもサイレンのような焦燥感を醸し出す「バラード」。真っ赤なライティングの中で突き刺すように歌う冬湖のハイトーンが激情を増幅。パンキッシュな「yellow boost」ではオーセンティックな日本語の8ビートロックンロールであるあたりに、このバンドが歌を伝えることに対してまっすぐな姿勢を改めて感じた。一気に4曲演奏し、小さく「ありがと」と言い放つ冬湖。演奏の熱狂と打って変わって曲間は小さな咳すら聴こえそうに皆、静かに集中している。

機械的に刻まれるビートとグランジライクなギターの対照が鮮やかな「sunny by」ではストーリーテラー的なボーカルを聴かせたり、「UTOPIA」のリリースツアーと言いつつ、これまでのキャリアからベスト的な選曲で進行していくその内容にフロアはノリつつも基本的に聴き入り、見入る。サポートの澤井良太(Gt)が時にアグレッシヴに動くのと対照的に直立でオーディエンスに強い眼差しを向け、時に虚空を見つめる冬湖。そして歌に寄り添いながらも強靭なベースを弾くカヨ。ああ、このバンドは楽曲に献身的であることそのものがパフォーマンスとして成立しているのだな、と感じた。

ほぼMCなしで8曲を演奏し、ようやくMCらしいMCをいつものぶっきらぼうなテンションではじめた冬湖。カヨが話したファンやindigo la Endへの感謝の言葉に「パッションが足りない」と手厳しく、それが笑いを誘う。そして新作「UTOPIA」を作ってみて、一緒に(ユートピアを)見たい、見てる人がいないのであればユートピアは作れないと感じた、というような主旨の話をしてくれた。そこから本作の中でもこのMCに通じる意味合いを感じる「天涯」を披露。ステージ下手の白いライトが一瞬、稲妻のように光り、スローで丁寧に紡がれるこの曲のドラマ性を際立たせる。もう1曲、スローの「衛星」は対照的にあったか寂しいニュアンスだ。

シリアスなムードをひっくり返すようにカヨの希望でグッズ紹介が唐突に始まり、厚着(!?)でおなじみの衣装の中からTシャツを引っ張りだしたりして「主に衣類を扱っております」と笑わせる彼女はここにいる誰よりマイペースに見えた。そんなカヨも流石に最後のステージに際して「今は二人それぞれのこれからにワクワクしているんです」と心境を話した。でもそれ以上でも以下でもなく、これまでのことも愛していて、これから起こることには期待しかないのだろう。

「ULTRA」ではカヨのコーラスが温かみを添え、歌メロでベースラインがユニゾンする「リピート」は、声ではないカヨの声のようでもあった。初期からのナンバーが続く終盤はこの日までの足跡を刻むようだ。ガレージテイストな「クレーター」でバンドという方法論を選び取った二人の意志が改めて激烈に立ち上がる。加速した熱量をラストの「ウィークエンド」まで高く保ち、カヨとサポートの鈴木駿介(Dr)は最後までバンドの屋台骨を支えながら走りきった。ノイズを放つギターをそのまま置き去りにした冬湖を始め、潔くステージを降りた4人にアンコールが止まない。だが、この日も彼女たちは全力で駆け抜けた。カヨが感謝を述べ、いつも通り、記念撮影を行いFINLANDSの節目の日は凛々しいまでのイズムで幕を閉じたのだった。

実質、塩入冬湖のひとりバンドとなるFINLANDSとソロの表現はどう住み分けるのか?新たなFINLANDSが作り出すストーリーを引き続き見守りたい。

【撮影:小野正博】
【取材・文:石角友香】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル FINLANDS

リリース情報

UTOPIA

UTOPIA

2019年03月06日

LD&K

01.UTOPIA
02.call end
03.衛星
04.天涯

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セットリスト

UTOPIA TOUR
2019.04.10@SHIBUYA CLUB QUATTRO

  1. 01.UTOPIA
  2. 02.call end
  3. 03.バラード
  4. 04.yellow boost
  5. 05.恋の前
  6. 06.sunny by
  7. 07.JAM
  8. 08.カルト
  9. 09.天涯
  10. 10.衛星
  11. 11.ULTRA
  12. 12.リピート
  13. 13.クレーター
  14. 14.ウィークエンド

お知らせ

■ライブ情報

吉祥寺ワープpresents
「SMALL LAKE!!〜SPECIAL〜」

04/29(月・祝)吉祥寺WARP

RUSH BALL☆R
05/12(日)大阪城音楽堂

マイアミパーティ
「ただいま、おかえりツアー2019」

06/29(土)心斎橋Pangea
06/30(日)岡山PEPPERLAND

JAPAN’S NEXT
渋谷JACK 2019 SUMMER

07/13(土)TSUTAYA O-EAST / duo MUSIC EXCHANGE / TSUTAYA O-WEST / clubasia / TSUTAYA O-nest / TSUTAYA O-Crest / VUENOS / Glad

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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