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湯木慧 記念すべき日に行われたワンマンライブ「誕生~始まりの心実~」

湯木慧 | 2019.06.14

 2019年6月5日。湯木慧のメジャーファーストシングル「誕生~バースデイ~」の発売日であり、21年前の今日、この世に生を享けた彼女の誕生日でもある。そんな記念すべき日に、ワンマンライブ「誕生~始まりの心実~」が開催された。会場となった四谷天窓に到着すると、赤ちゃんが生まれた時に身につけるネームタグをイメージしたリストバンドが手渡された。生年月日は全員「2019年6月5日」。今日またここで生まれる、ここから始まるんだという想いを込めて湯木自身が彩色し、文字を書き込んだものだ。会場に足を踏み入れると、聴こえてきたのは力強い心音。ステージは紗幕に包まれていて、会場全体があたたかい何かに守られているような演出が施されていた。

 開演時間を迎えたところで、ステージ上手から湯木慧が現れた。胡座をかき、ギターをそっと抱きしめるような仕草で準備を整えると、程よいタイミングで小さなスタンドに明かりが灯った。閉じたままの紗幕がゆらゆらと揺れ始め、光沢のあるその生地に反射した光が、緩やかで不規則な心電図のように光の波を描いている。

<2019年6月5日。誕生~始まりの心実~。人や動物や植物は、生まれます。生まれたその日から、死に、向かいます。そして、死にます。そしてまた何度も、生まれます。何度も、生まれることができるのです>

 この夜の始まりを告げたのは、楠世蓮さんのナレーション。この日は他にも植田恭平さん、荒井愛花さん、日野祥太さんといった役者陣や作家がナレーションを担当し、豊かな声の表情で曲間を彩っていく。人選も朗読される言葉も、湯木自身のアイデアから生まれたものだ。17歳の時に発表した「傷口」から始まり、パーカッシヴなギターで躍動感を表現した「網状脈」、切々たる声を響かせた「嘘のあと」。歌い始めた頃からの彼女の心模様を生々しく写したような選曲だ。湧き上がる胸の思いを叫ぶ「ヒガンバナ」、その花のように赤い血が流れる<人間>に産まれた自分を見つめた「流れない涙」。純粋な疑問はやがて計り知れない葛藤となっていき、環境の変化なども相まって、創作に対する気持ちそのものを失いかけたという時期の彼女を思い出した。そんな彼女の心を蘇生させ、その後の創作にも大きなパワーを与えることとなった大分県・阿蘇野を歌ったものだろうか、6曲めの「ふるさと」は胸いっぱいの深呼吸のような1曲に思えた。泣きたい時には泣いて、笑いたい時は笑う。帰る場所があるから強くなれるーー。シンプルにそう思えるようになった彼女の澄んだ歌声は、決して自分に対して言い聞かせるようなものではなく、過去の自分も含めて、同じような気持ちで立ち止まってしまった人たちを包み込むようなあたたかさがあった。アーティストうんぬんではなく、人として大切な経験を積んだことを素直に伝えてくれたような歌。今日このライブを行うにあたっても、なくてはならなかった1曲だったように思える。インディーズ最後の新曲として発表された「ハートレス」を力強く歌い終えると、メジャーファーストシングルの幕開けを告げた「98/06/05 11:40」でも聴こえていた、彼女の産声が流れてきた。8曲め「産声」のイントロと同時にそれまでステージを覆っていた紗幕がスーッと開き、ただただ真っ直ぐ客席と向き合い歌う湯木慧がいた。

「というわけで、こんばんはー(笑)」

 「産声」を歌い終わると、ここまでひと言のMCもなく進んできたからか、ちょっとだけ照れ臭そうに話しかける。「言いたいことがあり過ぎて、深く考え過ぎて、頭の中が大変になっちゃって(笑)」と、先走る気持ちを上手く言葉にできないままではあったが、なんとかこの「始まりの心実」に込めた想いを語り始めた。ところが「もうさ、勘弁して(笑)。ライブが久しぶり過ぎて、どうやってライブやってたか全然思い出せない(笑)」とカミングアウト。おそらく自分が思っていたことの半分も喋れなかったんじゃないかなと思うが、それほどの熱量と緊張感を持って、このライブを作ってきたということだ。大丈夫、想いは伝わっているから。

<正しさだけがあふれる世界じゃない。悲しさだけが溢れる世界じゃない。だから僕は真っ直ぐ真っ直ぐ前を向いて生きてゆく>

 メジャーデビューという節目にまた自ら生まれることを決めた湯木慧の、そんな決意が込められた「バースデイ」で本編は終了したが、産まれたばかり、つまり”始まった”ばかりで終われるわけがない。アンコールの拍手に迎えられて登場した彼女は「解き放たれたぁ(笑)」と本音を漏らしつつ、8月に大阪と東京で行われるワンマンライブ「繋がりの心実」の詳細を告知。また8月7日にセカンドシングル「一匹狼」をリリースすることも発表し、デビューを果たした今日がゴールではない、まだまだここから続いていくんだという意気込みを滲ませた。

 アンコールの1曲め「金魚」を歌い終えると、メジャーデビューというとても大事な日にどうしてこの場所でのライブを選んだのかということを語っていた湯木。「誕生~バースデイ~」の取材時、この四谷天窓は「露わになる場所、見つめ直す場所」なのだと言っていた。そして「演じるべき場所や、創作的に演じたほうが面白い場合もあるから、演じることが悪いとは思っていないけど」と前置きしつつ、「良くも悪くも他のライブハウスやイベントでは湯木慧を演じて歌うことができたけど、四谷天窓でだけは絶対に演じることができなかった。自分が自分に納得して、演じることなく湯木慧のままで歌いたいと思ったし、ここが始まりの心実(=真実)でなければならないと思ったから、偽れない場所でやりたいと思った」とも。次の曲は、そんな大切な場所での初ライブで最後に歌ったという「道しるべ」をアカペラで。当時は目の前にいるお客さんに想いを伝えたい、感動してほしい、心を開いてほしいという純粋な気持ちでパフォーマンスをしていたと振り返り、「そういう始まりの心実を忘れたくない」と心境を語っていた。歌い終えた後も「あの時は何も知らなかったけど、知らないが故の輝きや強さがすごくあった。そういう気持ちやエネルギーは絶対に無くしちゃいけないものだと思ってる」と言葉を添え、「不安も多いけど、自分で決めた道だから一歩踏み出すのです」と、ラストの楽曲「存在証明」の歌詞を引用しながらメジャーデビューを迎えた今の心境を伝えていた。

 初の全国流通盤となった2017年の「決めるのは“今の僕”、生きるのは“明後日の僕ら”」で、自らのシンボルとなる大きな木の絵を描き上げた湯木。この日も「支えてくれているみんなの気持ちを水のように吸い上げ、大きくなっていきたい」と語っていたが、自身の成長だけでなく、その木はやがていろんな色や形の葉や実をつけ、雨風から誰かを守ったり、優しい木陰を作ったりしていくのだろう。そういえばライブの最後に聴こえてきたあの鳴き声は、、、美しく張り巡らされた湯木慧の伏線は、まだまだ未来へと続いていくようだ。

【取材・文:山田邦子】
【撮影:小嶋文子】

tag一覧 J-POP ライブ 女性ボーカル 湯木慧

リリース情報

誕生~バースデイ~

誕生~バースデイ~

2019年06月05日

ビクターエンタテインメント

1. 98/06/05 11:40
2. 産声
3. バースデイ
4. 極彩

セットリスト

誕生~始まりの心実~
2019.6.5@四谷天窓

  1. 01.傷口
  2. 02.網状脈
  3. 03.嘘のあと
  4. 04.ヒガンバナ
  5. 05.流れない涙
  6. 06.ふるさと
  7. 07.ハートレス
  8. 08.産声
  9. 09.バースデイ
【ENCORE】
  1. 01.金魚
  2. 02.道しるべ
  3. 03.存在証明

お知らせ

■ライブ情報

東阪ワンマンライブ『繋がりの心実』
8/18(日) 大阪 Shangri-La
8/24(土) 東京 キネマ倶楽部

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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