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過去から脱却し、さらなる高みへ――終始トップギアで走り抜いたツアーファイナルの模様をお届け。

MOSHIMO | 2019.08.07

 「時が解決してくれる」的な言葉をたまに聞く。実際にはそのようなことはない。「事実」や「事象」自体は紛れもなく存在し残っており、そこに何かしらを施さなければ動きようがないからだ。ただ、時間を経ることで、それが不思議と懐かしさやいい想い出としてスライドしていき、いつしかどことなく解決した気にさせてくれることはある。しかもそれは逆に妙に豊潤さを伴わせてくれたり……。そんなよしなしごとを、MOSHIMOのこの日のライブを観終わった帰路に思い浮かべていた。

 この日、彼らが会場に向け放った、事実から成る各曲たちも、愛憎交えながらも上述のように、どこか憎み切れないところがあり、逆に愛着さえ覚えるものばかりであったはずだ。それはやはり、どの歌にも確かな「かつては愛していた/好きだった」という紛れもない事象が存在していたからにほかならない。そして、実際の気持ちや想いを交えられているがゆえに、聴き手や観衆はそこに自身の想いを重ねやすく、まるで自分のことを歌われているかのような気持ちへと昇華させていく。この日のMOSHIMOのライブからは、それらを包み隠さず、オブラートに包まず、余所行きの体裁ぶらずに放つようになった昨今の伝達手段も手伝い、その気持ちの昇華がこれまで以上に、ステージからも観衆からも終始うかがえるものがあった。

 5月末より全国7ヵ所で展開されたMOSHIMOの「2019初夏ワンマンツアー『猫かぶるのヤメマシタ』」が、この日のマイナビBLITZ赤坂での大盛況をもって幕を閉じた。3月に発売されたニューミニアルバム『TODOME』とともに回った同ツアーの最終地点は、ライブ中に岩淵紗貴(Vo/Gt)が語っていた「憧れであり目標のひとつであったステージに立つことができた!!」の発言通り、ステージに立てた喜びと、「あそこに立った際には、こんな仕掛けや演出をしてみたい」と妄想や想像をしてきた数々のアイデアを贅沢にも実現。結果、舞台の広さや単独ライブでは過去最大のキャパシティにもかかわらず、いつにも増してアグレッシブなプレイと高水準の各種演出も手伝い、紛れもなく過去最高のステージを見せてくれた。

 まずはスクリーンが現れ、オープニング映像が流れた。初めての、そしてこの日ならではの演出だ。激しい登場SEのなか、赤いライトで浮かび上がったステージにメンバーが走り込んでくる。臨戦態勢はバッチリとばかりに左右に行き来しては煽る各人。そんななか、「お前ら元気かー!! 今日もぶち上げていくぞ!!」と岩淵がアジテート。ツアータイトルとは裏腹に「猫かぶる」が放たれる。猫をかぶっている状況が歌われてはいるが、一瀬貴之(Gt)、宮原颯(Ba)、本多響平(Dr)の演奏陣と、歌から滲み出る前のめり具合、荒っぽくフロアに飛び込んでくる音塊はまったく猫をかぶってはいない。この日、終始印象深かったこれまで以上のライティングも、派手に目まぐるしく楽曲を彩っていくなか、会場に一体感が育まれていくのを実感する。猫繋がり&恋愛不器用ナンバーは続く。次の「吾輩は虎である」では曲中に重く邪悪な要素も交え、さらなるライブ映えを見せる。様々な動物名を交え歌う恒例の流れもあり、会場ともしっかりコミュニケーションを取っていく。

 「ぶち上げていこうぜ!!」とハンドマイクに持ち替えた岩淵。サビでのストレートさも爽快だった「Yankee」では、その身体の自由度を活かして左右に徘徊しながら全身で歌う。また、男性陣の雄々しいコーラスが場内をアンセム化させた「美女と野獣の逆はないよね」では、宮原のベースと本多のドラムによりさらなるドライブ感が呼び込まれ、「当たって砕けてもまだまだ恋をせよ」と煽るかのように歌われた「圧倒的少女漫画ストーリー」がライブをさらに加速させていく。対してミディアムな「いいじゃん」では、ちょっと気持ちを楽にしてくれる歌内容とともに音源にはない転調部分にグッときた。

 曲間では、ツアーの振り返りについてもメンバー間でトークされた。とは言え、大半は本多がこのツアー中にかなりガールズバーに入れ込んでいたことのリーク(笑)。また、関西ではメンバー全員でUSJに行ったこと、それがこれまで何度か同地で遊んだ中でも最も楽しかったことが、岩淵の過去の失恋体験も交えて甘辛く伝えられた。

 「大切な人を思い浮かべながら聴いてほしい。昔から歌い続けてきた大切な歌」という岩淵の紹介から、CHEESE CAKE時代より歌い続けている「寝グセ」がウェットに切なく場内に広がっていけば、一転「ノンフィクション」では同期も交え、髪を振り回しながら全身を使ってハンドマイクで歌う岩淵の姿も印象深い。同曲では本多による雷神のような激しいドラムソロも披露。照明と見事なシンクロを見せ、場内に驚嘆の声を上げさせる。続く「ヤダヤダ」ではスリリングさを擁した前のめりな音塊が会場をグイグイ惹きつけ、一瀬もエモいギターソロを披露。アウトロでは演奏陣が生み出すグルーヴが会場を包み込んだ。

 この日は終始これまで以上に福岡なまりで岩淵がステージ上で話していたのも印象深い。がゆえのフランクさと素の表情、普段飾らない彼女の姿が感じられ、そのあたりにも今回のツアータイトルとのリンクを感じた。

 浴衣にまつわるエピソードを経て、そこでこみ上げた<ちくしょー!!>の怒りも込めてのラストスパート。サビでの疾走感とストレートさが場内の並走を誘った「浮気をするならバレずにやれよ」で口火を切った。タンバリンを持ち歌う岩淵。重くヘビーなサウンドと本多によるツーバスが唸る。さらにボルテージは上昇。宮原との掛け合いボーカルも特徴的な「釣った魚にエサやれ」では大漁節とソーラン節が会場とのコミュニケーションを育んでいく。それをさらに踏み込ませるべく「触らぬキミに祟りなし」では、岩淵、一瀬、宮原の3人もサイドステップを交えてプレイ。本編ラストの「電光石火ジェラシー」では、銀テープのキャノン砲が飛び出し、場内は印象的なサビのフレーズに合わせて独特のフリで応答。ライティングもこれでもかと華やかさを演出し、この日最大のハイライトに至らせた。

 アンコール。まずは、昨年末に東京で行われた「BARI BARI ROCK」がツアー形式にて行われる旨が告知される。その後に放たれた2曲は、この日集まった者たちが背負っているものを応援し、抱えているその重荷を軽くしてくれた。「みんなのヤなことを代わりにぶっ壊してやる!!」と挑んだナンバー「大嫌いなラブソング」は、何事も時間が経てばいい想い出へと移り、笑い話となり、果てには「歌」になることを教えてくれ、ラストはみんなの恋を応援すべく、指名者の名前を交えて贈られた恒例の「命短し恋せよ乙女」は、会場に明日へのたくましいバイタリティを寄与してくれた。

 この日を振り返るなか、ふと今回のタイトルを回想してみた。この「猫かぶるのヤメマシタ」という姿勢は、ここのところの彼女らのライブから窺える、ある種の開き直りによるものと合点していた。事実そうだったのかもしれない。しかし、この日のライブを観終わった私には、「今後、親身にリアリティをもって歌っていく!!」そんな宣誓にも推測できた。実際この日プレイされた過去曲たちにしても、当時は「あるある」的な物語として捉えていたものだが、今回はより自身の経験を経たからこその含蓄を含んだメッセージのように響き、より信憑性を帯び、「それでも私、やっぱりいい恋をしていたんだ……」と感じさせるものがあった。

 やはり時は解決はしてくれない。ただし、どことなくいい想い出には変えてくれる。猫をかぶるのを辞めたMOSHIMOが放っていく今後の楽曲の響き方が変わっていく……それがますます楽しみになった一夜であった。

【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:かわどう】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル MOSHIMO

リリース情報

TODOME

TODOME

2019年03月13日

LASTRUM

01.電光石火ジェラシー
02.ヤダヤダ
03.釣った魚にエサやれ
04.Yankee
05.いいじゃん
06.美女と野獣の逆はないよね
07.浮気をするならバレずにやれよ

セットリスト

MOSHIMO 2019初夏ワンマンツアー
『猫かぶるのヤメマシタ』
2019.7.19@マイナビBLITZ赤坂

  1. 01.猫かぶる
  2. 02.吾輩は虎である
  3. 03.Yankee
  4. 04.美女と野獣の逆はないよね
  5. 05.圧倒的少女漫画ストーリー
  6. 06.いいじゃん
  7. 07.寝グセ
  8. 08.ノンフィクション
  9. 09.ヤダヤダ
  10. 10.浮気をするならバレずにやれよ
  11. 11.釣った魚にエサやれ
  12. 12.触らぬキミに祟りなし
  13. 13.電光石火ジェラシー
【ENCORE】
  1. 01.大嫌いなラブソング
  2. 02.命短し恋せよ乙女

お知らせ

■ライブ情報

BARI BARI ROCK TOUR 2019-2020
2019/12/03(火) 福岡 INSA
2019/12/18(水) 名古屋 ell.FITS ALL
2019/12/23(月) 梅田 Shangri-La
2020/01/06(月) 恵比寿 LIQUIDROOM



rockin’on presents
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019

08/11(日) 茨城 国営ひたち海浜公園

TREASURE05X 2019
~RISING RESOLUTION~

08/12(月) 名古屋市公会堂
w/ SHE’S / BURNOUT SYNDROMES / 緑黄色社会 / パスピエ / GOOD ON THE REEL

ライブキッズあるある中の人 presents
「ライブ行きたい」2019年夏ツアー編

08/19(月) 仙台 JUNK BOX
w/ DJライブキッズあるある中の人 / The Muddies / The 3 minutes / 3markets[ ] / マイアミパーティ

08/20(火) 新潟 club RIVERST
w/ DJライブキッズあるある中の人 / Su凸ko D凹koi / ザ・ジュアンズ / 3markets[ ] / マイアミパーティ

08/21(水) 金沢 AZ
w/ DJライブキッズあるある中の人 / Su凸ko D凹koi / Transit My Youth / The 3 minutes / 3markets[ ]

WILD BUNCH FEST. 2019
08/24(土) 山口 きらら博記念公園

RADIO BERRY 25th ANNIVERSARY
ベリテンライブ 2019

08/27(火) 栃木 HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2
w/ パノラマパナマタウン / Bentham / ほか

08/29(木) 松山 SALONKITTY
w/ おいしくるメロンパン / トライシグナル / ほか

RADIO BERRY 25th ANNIVERSARY
ベリテンライブ 2019

08/27(火) 栃木 HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2

RED in BLUE presents
"FRANKEN MUSIC" RELEASE PARTY
『BATTLE OF CYCLONE』

09/06(金) 渋谷 CYCLONE
w/ RED in BLUE / MOTHBALL

Date fm presents MEGA★ROCKS 20199
10/05(土) 仙台 ライブハウス11会場

梅光学院大学第18回LUCIS祭
MOSHIMOスペシャルワンマンライブ

11/09(土) 山口 梅光学院大学 体育館(学園祭)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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