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阿部真央 10周年アニバーサリーイヤーを締めくくった「阿部真央弾き語りらいぶ2019」

阿部真央 | 2019.11.13

 阿部真央が2019年11月8日、全国ツアー「阿部真央弾き語りらいぶ2019」の東京公演をTSUTAYA O-EASTで行った。今年1月22日には5年ぶりとなる日本武道館ワンマンライブを開催。さらに初のベストアルバム『阿部真央ベスト』のリリース、関西初のアリーナ公演となった神戸ワールド記念ホールのワンマン、大阪、東京で行われた夏の野音ワンマンなど、10周年を駆け抜けてきた彼女。アニバーサリーイヤーの締めくくりとなる全国弾き語りツアーの東京公演で彼女は、豊かさと濃さを増した“アコギと歌”の表現をたっぷりと魅せてくれた。

 客席の照明が落とされると同時に、阿部真央が小走りでステージに登場。観客に両手で手を振り、まずは「みなさんこんばんは、阿部真央です!」と笑顔で挨拶。
「今日は弾き語りのライブなので、最近やってたバンドのライブとは若干雰囲気が違うと思いますが、ゆるりと楽しんでください」という言葉とともに披露されたオープニング曲は、代表曲のひとつ「ロンリー」。軽快なギターのストロークに合わせて手拍子が起こり、サビでは大合唱が響き渡る。そして2009年のデビューアルバム『ふりぃ』の表題曲「ふりぃ」へ。疾走感のあるメロディと“譲れない 今を、この瞬間を”というフレーズ、そして、観客のコールがひとつになり、気持ちいい一体感につながる。アコギと歌というもっともシンプルなスタイルであっても、しっかりとビートが感じられ、ダイナミックなライブ感が生まれる。これこそが阿部真央の弾き語りの醍醐味だ。

 今回のツアーのテーマは“10周年の原点回帰”ということで、ふだんのライブではあまり歌われないレアな楽曲も披露された。まずは「逢いに行く」。「19歳の唄」(2010年)のカップリング曲として収録されたこの曲は、「リリースした後、イベントで1回歌っただけ」という隠れた名曲だ。カントリーミュージックのテイストを感じさせるギター、切なさと解放感を併せ持ったメロディ、そして、“逢いたい”という真っ直ぐな思いが伝わる歌詞。9年前にリリースされた楽曲だが、懐かしさはまったくなく、むしろ新鮮な手触りに溢れていた。本人は「サビが高くて、以前は“ライブでは無理かも”と思っていた」と語っていたが、高低差のあるメロディを完璧に描き出すボーカルも絶品。10年のキャリアのなかで阿部真央の弾き語りの表現は、着実に向上を続けてきたのだ。

 暗めの照明のなか、“勝手に境界線を踏み越えないで”という思いを綴った「デッドライン」、“なにがしたいの?”“わたしはどうすればいい?”というもどかしい感情をぶつける「マージナルマン」(歌詞の内容はシリアスだが、観客はタオルを回して盛り上がる)というダークな感情を反映した楽曲を続けた後は、名曲「貴方の恋人になりたいのです」。高校2年生のときに書いたものの、やはり「ライブで歌うのが難しそう」という理由でボツにしようと思っていたところ、周りの人たちの勧めもあってシングルになり、たくさんの人に聴かれるようになった……というエピソードとともに披露されたこの曲は、タイトルが示す通り、好きな人に対する純粋な思いを描いたラブソング。シンプルなギターのアレンジによって、恋することの切なさがじんわりと伝わり、会場全体が豊かな感動で包み込まれた。

 続いては初期の楽曲をまとめて歌うセクションへ。「ライブ活動をはじめたばかりの頃は持ち曲が5曲しかなくて、ずっと同じ曲を歌っていて。私も思い入れがある曲ばかりだったから、そのうちの4曲は1stアルバム『ふりぃ』に収録したんです」「初期の曲はだんだんやらなくなるじゃないですか。なので今回は、その4曲をやろうと思って」と、「キレイな唄」「人見知りの唄~共感してもらえたら嬉しいって話です~」「MY BABY」「コトバ」を続けて披露した。もちろん10代の頃に書いた曲ばかりだが、その瞬間の感情をリアルに刻み込んだ歌詞、J-POPと洋楽のテイストが混ざったメロディを含め、どの曲にも瑞々しさがたっぷり詰まっていた。

 ちなみに筆者が初めて彼女のライブを観たのはデビュー前のコンベンション(場所は渋谷のduo MUSIC EXCHANGEでした)。10年という時間のなかで彼女は、ギターと歌の技術や表現力、オーディエンスを巻き込むステージングなど、ライブにおけるすべての要素をしっかりと進化させてきた――この日演奏された初期の4曲からは、そのことがはっきりと感じ取ることができた。

「この愛は救われない」「morning」という憂いと悲しみに溢れた楽曲を続けた後(どん底まで沈み込むようなラブソングも彼女の大きな魅力だ)、ライブは後半へ。NHKドラマ10『これは経費で落ちません!』の主題歌としても話題を集めた「どうしますか、あなたなら」(この日のサビは“どうしますか、森若さん”というドラマ版バージョン)、さらに「モットー。」「I wanna see you」というライブアンセムを放ち、手拍子とシンガロングによってフロアの熱気は一気にピークへと達した。アコギの弾き語りでこれだけの高揚感を生み出せるシンガーソングライターは本当に稀だと思う。

 阿部真央コールに導かれ、再びステージに登場した彼女は、「27歳の私と出がらし男」「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」とちょっとコミカルだけど、じつは彼女の本質が滲み出ている楽曲を歌い、朗らかな雰囲気を生み出す。最後はライブでしか演奏しない楽曲「母の唄」を熱唱し、ライブはエンディングを迎えた。

 ライブ後半のMCのなかで彼女は、こんな話をした。次のライブにもぜひ遊びに来てほしいけど、もし都合が合わなくても、その次、その次の次と全国ツアーができるようにがんばりたい。次にみなさんに会えるときは、「もっといい曲を作ったね」「もっといいパフォーマンスになったね」と言い続けてもらえるアーティストになりたい――。
「それぞれの人生を歩んでいただいて、また阿部真央のライブで楽しんでもらえるように、そんな時間が持てるようなアーティストでいたいです。そういう形でみなさんに寄り添えられたら、こんなに嬉しいことはないので」
 この真摯な姿勢こそが、阿部真央が強く支持され、豊かな音楽を生み続けられる理由。そのことを改めて実感できる素晴らしいライブだった。

 ライブ終演後には2020年1月22日にニューアルバム『まだいけます』をリリースすることを発表。デビュー11周年記念日の翌日に発売される本作には、テレビアニメ『消滅都市』のオープニングテーマ「答」、映画『チア男子!!』の主題歌「君の唄(キミノウタ)」、NHKドラマ10『これは経費で落ちません!』の主題歌「どうしますか、あなたなら」など全11曲が収められる。さらに2020年3月からはニューアルバムを携えた全国ホールツアー「阿部真央らいぶNo.9」もスタート。2020年以降の阿部真央の活動にも大いに注目してほしいと思う。

【取材・文:森 朋之】
【撮影:笹森健一】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル 阿部真央

リリース情報

どうしますか、あなたなら

どうしますか、あなたなら

2019年08月21日

ポニーキャニオン

1. どうしますか、あなたなら
2. この愛は救われない

セットリスト

阿部真央弾き語りらいぶ2019
2019.11.8@TSUTAYA O-EAST

  1. 1. ロンリー
  2. 2. ふりぃ
  3. 3. 逢いに行く
  4. 4. デッドライン
  5. 5. マージナルマン
  6. 6. 貴方の恋人になりたいのです
  7. 7. キレイな唄
  8. 8. 人見知りの唄~共感してもらえたら嬉しいって話です~
  9. 9. MY BABY
  10. 10. コトバ
  11. 11. この愛は救われない
  12. 12. morning
  13. 13. どうしますか、あなたなら
  14. 14. モットー。
  15. 15. I wanna see you
  16. 【ENCORE】
  17. EN1. 27歳の私と出がらし男
  18. EN2. ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~
  19. EN3. 母の唄

お知らせ

■ライブ情報

阿部真央らいぶNo.9
2020/03/14(土) 札幌市教育文化会館 大ホール
2020/03/20(金・祝) オリックス劇場
2020/03/21(土) オリックス劇場
2020/03/29(日) JMSアステールプラザ 大ホール
2020/04/04(土) 静岡市民文化会館 中ホール
2020/04/18(土) 仙台電力ホール
2020/04/26(日) 日本特殊陶業市民会館フォレストホール(名古屋市民会館)
2020/04/29(水・祝) 福岡市民会館
2020/05/02(土) サンポートホール高松 大ホール
2020/05/08(金) 岡山市民会館
2020/05/09(土) 神戸国際会館こくさいホール
2020/05/15(金) 金沢市文化ホール
2020/05/17(日) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
2020/05/22(金) LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
2020/05/23(土) LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
2020/05/30(土) 大分iichikoグランシアタ


ミオヤマザキZeppツアーやるってよ
2019/11/23(土)Zepp OsakaBayside

第26回名桜大学祭 華
- 2days for -

2019/12/01(日)名桜大学

音楽と人 LIVE 2019
「東京アコースティック百景 Vol.3」

2019/12/09(月)EX-THEATER ROPPONGI

FM802 30PARTY
「FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2019」

2019/12/25(水)・ 26(木)・ 27(金)
インテックス大阪

COUNTDOWN JAPAN 19/20
2019/12/28(土)・29(日)・30(月)・31(火)
幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

NAGOYA SOUND PRESS SHOW 2020
2020/01/26(日)Zepp Nagoya

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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