前へ

次へ

Saucy Dogとみんなで作り上げた「いつだって今日がはじまりツアー」ファイナル

Saucy Dog | 2019.12.09

 Saucy Dogの「ブルーピリオドRelease tour『いつだって今日がはじまりツアー』」のファイナル公演が、11月28日にZepp Tokyoで行われた。本ツアーは、10月2日にリリースした最新ミニアルバム『ブルーピリオド』を引き提げて、全国12公演にわたって行われたもの。この日のライブ中、石原慎也(Vo/G)の口から「ひとつのライブをみんなで作り上げる」というサウシーのモットーが語られたが、その信条を一途に守り抜きながらも、バンドとしての成長と成熟をしっかりと感じ取ることができたライブだった。

 この日のチケットは、見事ソールドアウト。そんな満員の会場のステージに、せとゆいか(Dr/Cho)、秋澤和貴(B)、石原が順に登場すると、オーディエンスは大きな拍手と歓声で彼らを迎えた。期待感が溢れるフロアに向かって、「雀ノ欠伸」を最初に届けると、沸き起こったハンドウェーブやクラップが生み出す風に乗って、「ナイトクロージング」と「真昼の月」をテンション高めに鳴らした彼ら。この冒頭の3曲を終えた後、石原が「いつだって今日がはじまりツアー、始めます! どうぞよろしく!」とタイトルコールをした時に「あぁ、今から始まるのか!」と意表を突かれた気持ちになった。彼らにとっては始まりに過ぎないこの時間で、それほどまでの充実感と満足感が自分の中に既に生まれていたことにのっけから驚いた。大舞台でのワンマンという事実への緊張感や気負いは感じられず(秋澤は緊張していたと話していたが)、ただただ「思い残すことなく今を楽しみたい!」というポジティブで純真な想いだけが音に乗って飛んでくる。彼らの音から伝わってくるそういった素直さは、Saucy Dogの魅力に他ならないなぁと改めて思えた。そして序盤でこちらが抱いたそんな感想を汲んだかのように、せとは「みんなも、私たちと同じくらい思い切り楽しんでもらえたらいいなと思います」と言葉にし、「曇りのち」を披露。さらに、”家族の唄を”と紹介されたミディアムチューン「Humming」や、バンドマンの唄である「メトロノウム」、さらに大切な人へ捧げた「月に住む君」を次々とプレイしていった。そうした曲紹介を経て思ったのは、Saucy Dogの楽曲の歌詞は、歌われている対象が明確だということだった。例えば、母親、家族、バンド、好きな人、忘れられない人、忘れたくない人――彼らが大切に想っているそうした人への感情が、優しく、豊かに描かれている。そして、そういった存在は聴き手である私たちにも心当たりがある人であることが多いし、Saucy Dogの楽曲を聴くと、頭に浮かんだその人に会いたくなる。大切なものは、大切にすればするほど自分に溶け込み、境界線が薄れ、良くも悪くも「当たり前」になってしまう。彼らの楽曲は、そうした境界線をそっとなぞっては、「自分にとって何/誰が大切なのか」を浮き彫りにしてくれる力がある。その力の由縁は、彼らが出会いや繋がりに対して驕ったり怠けたりせず、いつだって相手のことを考えながら感謝の気持ちを抱き続けているからなのだろう。その「相手」というのは個人的に身近な人に限らず、ライブに集ったオーディエンスのことも含まれている。だからこそ、彼らの楽曲は聴き手の心にすっと入り込んでくるのだと思える。

 そして、そういった彼らの元来持ちうる性格もそうだが、このライブで特に感じたのは、「バンドとしての成長」だった。彼らは今年の7月に、自身のステップアップを目的とした先輩バンドとの東名阪自主企画ツアーを行った。そこでの経験で得た自信や「何が足りないのか?」という気付きが、個人個人のスキルアップや糧としてはもちろんのこと、3人一体のバンドとしての力になっているということが顕著に表れていた。キメのタイミングだけではなく、曲間のふとした時に3人が自然と向かい合っているシーンが多く見受けられたことからも、「今、3人はバンドをしているんだ」という喜びとも言える意識が表れていたように思う。バンド生活をしていく上で生まれていく言葉、出会う情景、景色、人、求める楽しさ、ぶつかる困難。そのひとつひとつをきちんと拾い上げ、曲にし、ライブの中で育ていく。その作業を地道にしていくことでしか切り開けない道があること、その道の上でしか歌うことのできない歌があることに、彼らは気付き始めているのだと思う。「成長」と呼べるそうした変化は、アコースティック編成で歌われた「世界の果て」での表現力の広がり、「煙」や「ゴーストバスター」から放たれていた強靭なダイナミズムなど、新曲だけでなく過去の曲の演奏からもビシビシと伝わってきた。

 そして、その過程の中でも変わることなく彼らを支え続けている根幹には、「みんながいなかったら、俺たちは音楽をやっている意味がない」と言い切れるほどの強い想いが宿っている。石原はこの日、「ライブの時間を共有するということは、僕たちがあなたの人生の一部に入りこめているということで、逆にあなたの一部も僕たちの一部になっているんですよね」と語っていた。その言葉には、互いに頼り合いながら依存するのではなく、共に高め合い、前へ進んでいこうという未来への期待が詰まっていた。そんな想いを届けるべく、彼らがバンドと私たちが歩む別々の道が交わるこの時間がまた訪れることを願い、最後に鳴らしたのは「スタンド・バイ・ミー」だった。

 熱望されたアンコールでは、ラブバラード「コンタクトケース」と「いつか」、そして「グッバイ」を届けた3人。来年3月からはバンド初のホールツアーも決定しているSaucy Dogが見せてくれた未来の片鱗に胸を躍らせながら、これからの彼らの成長に一層の期待が溢れる。そんな一夜だった。

【取材・文:峯岸利恵】
【撮影:白石達也】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル Saucy Dog

リリース情報

LIVE DVD 「YAON de WAOOON」2019.4.30 日比谷野外音楽堂

LIVE DVD 「YAON de WAOOON」2019.4.30 日比谷野外音楽堂

2019年12月18日

MASH A&R

01.真昼の月
02.ナイトクロージング
03.ジオラマ
04.あとの話
05.曇りのち
06.マザーロード
07.Wake
08.Tough
09.いつか
10.コンタクトケース
11.へっぽこまん
12.世界の果て
13.煙
14.メトロノウム
15.バンドワゴンに乗って
16.ゴーストバスター
En1.月に住む君
En2.グッバイ

セットリスト

Saucy Dog ブルーピリオド Release tour
「いつだって今日がはじまりツアー」
2019.11.28@Zepp Tokyo

  1. 01.雀ノ欠伸
  2. 02.ナイトクロージング
  3. 03.真昼の月
  4. 04.曇りのち
  5. 05.Humming
  6. 06.Wake
  7. 07.メトロノウム
  8. 08.月に住む君
  9. 09.届かない
  10. 10.煙草とコーヒー
  11. 11.世界の果て
  12. 12.煙
  13. 13.ゴーストバスター
  14. 14.Tough
  15. 15.バンドワゴンに乗って
  16. 16.スタンド・バイ・ミー
【ENCORE】
  1. 01.コンタクトケース
  2. 02.いつか
  3. 03.グッバイ

お知らせ

■ライブ情報

[2020]
Saucy Dog「はじめてのホールツアー」
03/22(日) 東京 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
03/24(火) 大阪 オリックス劇場
03/27(金) 愛知 名古屋市公会堂
03/29(日) 東京 人見記念講堂



[2019]
MERRY ROCK PARADE 2019
12/22(日) ポートメッセなごや1号館~3号館

FM802 30PARTY FM802 ROCK FESTIVAL
RADIO CRAZY 2019

12/26(木) インテックス大阪

BARIYOKA ROCK 2019
12/28(土) Zepp Fukuoka

LIVE DI:GA JUDGEMENT 2019
12/30(月) 渋谷CLUB QUATTRO/TAKE OFF 7(渋谷) *いずれか1会場

COUNTDOWN JAPAN 19/20
12/31(火) 幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

[2020]
ircle presents
HUMANisM ~超★大乱闘編2020~」

01/18(土) 渋谷TSUTAYA O-EAST

マカロニえんぴつ pre.マカロックツアーvol.9
~Saucy Dogと東名阪ドッグラン!篇~

02/19(水) 恵比寿LIQUIDROOM
02/26(水) 名古屋CLUB QUATTRO
02/27(木) 梅田CLUB QUATTRO

cinema staff pre. OOPARTS 2020
04/18(土),19(日) 岐阜市文化センター *いずれか1日出演

VIVA LA ROCK 2020
05/02(土),03(日祝),04(月祝),05(火祝) さいたまスーパーアリーナ *いずれか1日出演

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る