「後悔するぐらい曲数ある！」と、こやまたくや（Gt/Vo）はライブ中にこぼしていたけれど、たしかにたくさんの楽曲を乱れ撃ちする怒濤の攻めっぷりが光っていた。そう、派手な仕掛けやギミックに頼らず、楽曲と演奏で真っ向勝負することが、ヤバイTシャツ屋さんの本懐だ。生粋のライブバンドとしてメキメキと力を付け、それによって、今や押しも押されぬ人気を得ているヤバT。音楽に対して真摯に向き合いつつ、そこから溢れ出たキャラクターがなんとも愛おしく、気づけばバンドの魅力にどっぷり浸かっている。そんなファンが多いのではないだろうか。

　ヤバTの8thシングル「スペインのひみつ」リリースに伴う全国ツアー「ヤバイTシャツ屋さん “スペインのひみつ” ONE-MAN TOUR 2019」は、Zepp Tokyo 2デイズを皮切りにスタートし、ここではその初日の模様をレポートしたい。陽気なSEに導かれて、こやま、しばたありぼぼ（Ba/Vo）、もりもりもと（Dr/Cho）のメンバー３人が現れると、「かわE」で本編開始。「やんけ！」という歌詞の連呼が中毒性を誘うポップナンバーに会場は早くも大盛り上がり。そこに「Tank-top of the world」「KOKYAKU満足度１位」「Universal Serial Bus」が追い打ちをかけ、火だるまのごとく熱気は上昇。その過熱ぶりにがむしゃらに突っ走るメロコアチューン「ネコ飼いたい」がさらなる油を注入。途中、哀愁たっぷりに歌い上げるしばたの歌も映え渡り、緩急に富むサウンドで後半には大合唱を巻き起こしていた。

　初日の5曲目を終えた段階で、こやまはツアー初日の感想をしばたにむちゃぶりすると、「まったく思い入れない。高揚感はある！」と歯切れ良くしばたが切り返し、「皆さんは思い入れを持ってください！」とわがままに訴えるこやま。そんなメンバーのやり取りをニヤニヤしながら堪能するのもヤバTのライブの楽しさだ。
　次の「DANCE ON TANSU」に入ると、しばたのスラップ・ベースがうねりを上げ、会場は一様にダンスフロアと化す。アッパーなサビとは対照的にインスト・パートではゴリゴリの演奏を響かせ、アップダウンの激しい曲調で観客を揺さぶった。それからソーシャルゲームの狂気を綴ったカオティックな「リセットマラソン」を経て、最新シングルのカップリング曲「sweet memories」へ。ビターなリリックとスウィートなメロディのサンドイッチ攻撃で、個々のソロを織り込むスリリングなパートも決まっていた。さらに「ざつにどうぶつしょうかい」「無線LANばり便利」と続け、10曲をあっという間に走破。「飛ばしすぎちゃう？」とこやまが漏らしたけれど、これには心の中で激しく同意した。 　そして、ここでミドルテンポの「眠いオブザイヤー受賞」をプレイ。こやまの伸びやかな歌唱をしっかり聴かせたあと、再びイケイケの「ウェイウェイ大学生」「どすえ ～おこしやす京都～」とキャッチーな曲調を放ち、観客の至福の表情は広がるばかり。そこにしばたがリードボーカルを務める「ベストジーニスト賞」を投下し、中盤過ぎの「ジーパンパン　ジーパンパパパパン」のくだりをライブならではのアレンジに変えて楽しませる。それから最新シングルのもうひとつのカップリング曲「案外わるないNHK」を披露。ステージ背面のタンクトップくんにNHKの番組名が映されたりと、きめ細かな演出も施されており、曲が終わると「紅白出たいなー！」とこやまは出演アピールすることも忘れない。いつか紅白歌合戦にヤバTが出る日を心待ちにしている。

「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲」ではお約束のごとく観客をしゃがませてジャンプ！　そこで一体感を高めると、ここからラストスパートに突入。自主制作時代の3rdシングル「ポップコーンパーティー」収録の「反吐でる」を見舞う。曲名とは相反する爽快な歌メロを響かせ、演奏は初期衝動に溢れた直情っぷりで純粋にかっこいい曲ではないか。しかもこやまとしばたがお互いに向き合い、ヘドバンしながらプレイする場面も胸アツだった。 「とりあえず噛む」を経て、最新シングルのリード曲「癒着☆NIGHT」を披露。イントロから観客のクラップが起きると、言葉数の多い歌詞を捲し立てるように歌うボーカルといい、サビの語感の気持ち良さもキャッチー極まりない。場内を一段と盛り上げると、「ヤバみ」「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」と人気曲が続き、本編ラストは「ハッピーウェディング前ソング」をプレイ。数々のフェスでも鉄板の盛り上がりを見せている1曲だが、ワンマンともなればそれに拍車をかけた爆発的な熱気が渦巻いていた。歌詞は超現実的なのだが、明るく振り切れた曲調がすべてを受け止めて、「前に突き進め！」と鼓舞してくれるようなメッセージを僕は感じる。

　アンコールでは、もりもとがコブクロの「蕾」を熱唱する余興もあり、最新シングル収録の唯一のカバーソング「きっとパルケエスパーニャ」（志摩スペイン村のCMソング）をここで披露。スカのリズムを入れ、ヤバTの色に染め上げたサウンドに観客も大騒ぎでノッていた。その後は「スーモマーチ」「Tank-top Festival 2019」を織り込み、オーラスは「あつまれ！パーティーピーポー」でフロアをぐちゃぐちゃに掻き回して終了。
　ツアー初日から全26曲を繰り出す濃厚すぎるワンマンで、メンバー3人の馬力を備えたタフな駆動力に圧倒されてしまった。今ツアーを通して、バンドサウンドがますますブラッシュアップされたことは間違いない。三重県にある志摩スペイン村にてバンド史上最大規模の野外ワンマンライブを2020年３月28日、29日と2デイズで決行することも発表され、ヤバTの壮大なる“癒着”っぷりに期待したいところだ。

【取材・文：荒金良介】
【撮影：オイケカオリ】