収録されている大ヒットシングル類も素晴らしいし、多彩なジャンルのサウンドプロダクツの上、さまざまな表情や物語を展開している新録音曲の数々もいい。しかし、僕がこの作品の中で最も白眉に感じるのは、そのトップを飾る「Sing Forever」(32thシングル)だったりする。ボイスパーカッションとアカペラによる肉声によるバックトラックの上、優しく歌われるそのシルキーなボーカルに、中盤からはゴスペルにそれが移り、壮大に、生命力たっぷりに聴く者を高揚させながらも、最後はとてつもない至福感に包まれる。その躍動感の漲りっぷりといったら...。

　そんな平井堅約3年ぶりとなるオリジナル･アルバム『JAPANESE SINGER』は、直近シングル「いとしき日々よ」に続き、トータルプロデュースにMr.KCこと、松尾潔を迎えた意欲作。平井のファンならピンとくるであろう、10年ぶりにタッグを組んだこのコンビこそ、過去『gaining through losing』『THE CHANGING SAME』の平井堅2枚のミリオンアルバムを世に送り出したゴールデン・コンビだったりする。

　その2人から生み出された今作は、大人気ドラマ日曜劇場「JIN-仁-」完結編の主題歌とラジオでのパワープレイ、街鳴り含め全包囲絶好調の中リリース。上述の「Sing Forever」、広いテーマや永久性や永劫感を多分に感じ、再び出会える希望、一緒に暮らせる夢を聴く者に与えてくれる「いとしき日々よ」を始め、粘着性のあるエロティックでセクシーさ溢れる「CANDY」、ストリングスも感動的な愛しさ大全開の映画『僕の初恋をキミに捧ぐ』主題歌「僕は君に恋をする」、愛しさが全身を包み、映画での幾つもの場面を走馬灯のようにフラッシュバックさせる、映画『ゴースト もういちど抱きしめたい』主題歌「アイシテル」の5曲の既発シングル。加え、大ヒットコミックの待望の映画化となった『星守る犬』主題歌としても街鳴りが多数成されている、聴き手を明日向き前向きにさせる「夢のむこうで」の既発表ナンバーを収録。

そして、8曲の新録曲もそれぞれが素晴らしい。ざっと振り返ると、ちょっとしたコミカルさも交えたポップナンバー「お願いジュリー☆」、レインドロップ感溢れる秘めた恋に別れを告げる「さよならマイ・ラブ」、ボーカルの2面性やリレーションも耳をひく、海外か外国人が溢れるクラブでのアバンチュールに持ち込む寸前の状況を歌いつつ、所々飛び出す往年のディスコの大ヒット曲名のオンパレードやアーティスト名にもニヤリとさせられる「R＆B」、JBセックスマシーンチックな濃厚で官能的なファンクサウンドの上、絡み付くような平井の歌声が聴く者の肌を汗ばませる「Girls 3x」、けなげな女心と秘めた情熱が楽曲を漆黒に燃やす「BLIND」、1人侘しく夏を迎える心境が歌われた、この季節にピッタリのソカナンバー「Miss サマータイム」、そして、平井版「見上げてごらん夜空の星を」とも言える、ピアノの弾き語りによって伝えられる「あなたと」もアルバムの幅を広げ、バラードやミディアム一辺倒にならぬようバランスを上手く整えている。

　そうそう、先述のM-1.「Sing Forever」の話に戻ると。この曲では、「あと少しで届かないJoy。いつもギリギリ届かぬLIFE。あと少しで届かないVoice」と、わずかに届かない喜びや謳歌、声が、ちょっとした哀願を持って伝えられている。アルバムの冒頭では、残念ながらあと少しのところで届かなかったJoyも、LIFEも、Voiceも、不思議とこのアルバムを聴き終わった後には、しっかり届き、伝えられた気持ちにさせてくれる。
是非このアルバムを通し、平井の伝える、Joyも、LIFEも、Voiceを是非一緒に感じようではないか!

【池田スカオ和宏】