今回のアルバム『戦いは終わらない』を意識し始めたのは、シングル「側にいて」をリリースした段階だった。実際、曲のストックが減ってきていたので、前回のツアー前にニューアルバムのための曲を書きためる作業に入り、ツアー後もそれは続いた。今年３月の上旬からアレンジャーの選定を行ない、３月末から本格的なレコーディングに突入。４月の下旬にレコーディングは終了した。
　そして完成した『戦いは終わらない』はONE OK ROCKのドラマーTomoyaが叩くビートが痛快な「How are you?」から始まるアッパーなアルバムだ。阿部のポップな魅力が前面に押し出されていて、彼女がアルバム・アーティストとして次のステップに入ったことを明確に告げている。

　今回、特に注目したいのは、リズムだ。もともと歌のリズムには定評のある阿部だが、最近では“ドラムから曲を作る”こともあるというくらいドラムは非常に重要なパートになっている。そして『戦いは終わらない』には６人のドラマーがピックアップされた。ONE OK ROCKのTomoya、TRICERATOPSの吉田佳史はJ-ROCKを代表するバンド・ドラマー、椎名恭一、石井悠也、玉田豊夢は腕利きライブ・ドラマー、屋敷豪太はシンプリー・レッドに在籍していた世界的ドラマーで、超個性的なランナップと言えるだろう。
　中でTomoyaは阿部と同世代と呼べるミュージシャンで、アルバム・トップの「How are you?」と、ラストの「for you」に参加して、アルバム全体の明るさに大きく貢献している。
「アレンジの前のプリプロの段階で、「for you」を最後にするって決めていました。この曲は、“みんな、ありがとう”というメッセージになってます。でも、最初はそんなメッセージを込めるつもりはなかった。実はお風呂で出来た曲で、これまでに作った「サラリーマンの唄」や「ストーカーの唄?三丁目、貴方の家?」に通じる、ちょっとお遊びみたいなノリで作ってたんですけど、完成してみたら意外とメッセージ性の強い曲になっていて。アレンジもすごく明るくていい感じだから、この曲でアルバムを締めようと思いました」。
　たまたま僕はTomoyaくんに会う機会があったので、阿部真央とのレコーディングの感想を聞いてみると、「ONE OK ROCK以外でのレコーディングは初めてだったので、かなり緊張しましたね。でも、終わったらすごく喜んでもらえて、嬉しかったです。自分も叩いていて、楽しかったですよ」。阿部はもともとONE OK ROCKが好きでよく聴いていたという。だから歌の背中を押してくれるTomoyaのドラムで歌ってみたいと思っていた。今回、それが実現して、思い切りよく歌う阿部の声は聴きモノだ。

　一方で、「側にいて」のアルバム・バージョンは、シンプルなバックに合わせて、静かだが味わい深い歌が聴ける。
「2010年の段階で、アレンジャーの（小林）信吾さんと、歌以外の音源は録っていました。声帯の治療前だったので、当時録音したボーカルはちょっと違和感があったんですね。それはそれでスモーキーで良かったんですけど、今回のアルバムでは“今の私”で歌いたかったから、歌だけ歌い直したんです。声が出せる喜びとかそういった感情も入っているから、かなり自我が出ているように聴こえるかもしれないけど、自分としては良い感じでできたなと思っています」。バラードシンガーとしてのリアルタイムな成長が実感できる仕上がりだ。

　それだけ歌にこだわったレコーディングを経験して、阿部は何を思ったのだろう。
「たとえば、以前、共演させていただいたKREVAさんは、遠いところにいる存在の人だなって思いました。スタジオの全部を自分で仕切って、全部を自分で背負っていて。でも、すごく楽しそうにやってるのが本当に不思議だった。大変なことをやっているのに、なんでこんなに平気なんだろう？って思っていました。でもいまは少しだけわかるっていうか。ボーカル・ディレクションについては今回、全部自分でやってみたので、KREVAさんの気持ちが少しだけわかった気がします」。

　この言葉どおり、阿部はアルバム作りにまつわる様々なファクターについて、できるだけ自分の意見を言うようにしたという。そのことで生まれる責任感と、やりとげた満足感が、『戦いは終わらない』の隅々にまで、強い輝きとなって表われている。大きな一歩を踏み出した阿部真央を、この4thアルバムから感じ取ってほしい。

【文：平山雄一】