レビュー

Salyu | 2015.04.22

連載 第67週
Salyu
『Android & Human Being』


Salyuは電気羊の夢を見るか?

 古来から“ロボットと人類”は何度もテーマにされてきた。映画や小説、音楽でも数多くの作品が作られてきた。Salyuのニューアルバム『Android & Human Being』は、ロボットの中でも限りなく人間に近い形で作られた“アンドロイド”がタイトルとなっている。

 アンドロイド映画の傑作は『ブレードランナー』(1982年)で、原作はフィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。映画はハリソン・フォードが主演して大ヒットした。この映画の音楽は、ギリシャのシンセ奏者ヴァンゲリスが担当して、手弾きのシンセサイザーのデジタル音が、映画の雰囲気をよく盛り上げていた。

 なぜ『ブレードランナー』を引き合いに出したかと言えば、この映画は80年代の“人とアンドロイド”の関係性をロマンティックに描いていて、Salyuの新作と比較するにはピッタリだからだ。80年代にはフィクションに過ぎなかったアンドロイドは、21世紀に現実味を帯び、僕たちの生活の場に登場しようとしている。21世紀のアナログ感とデジタル感の調和と違和感を、音楽として表現しているのが『Android & Human Being』というアルバムなのだ。

 Salyuは今の音楽シーンの中で、高い実力をもって人間的な声と、非人間的な声を使い分けることのできる稀有なシンガーだ。今回のアルバムでも人間臭がぷんぷんする「THE RAIN」があったかと思うと、無機質な「リスク」があったり、そのボーカルの振れ幅は信じられないほど大きい。プロデューサーの小林武史は、そうしたSalyuの声を際立たせるためにサウンドを作り、あるいは狙ったサウンドに合わせたボーカルをSalyuに要求する。このSalyuと小林の駆け引きが、このアルバムの最大の聴きどころだ。

 僕は最初、この人類とアンドロイドという、言ってみれば古臭いテーマに疑問を持った。しかしアルバムを聴いていくうちに、「これは21世紀にしか作れない音楽だ」と確信した。それは『ブレードランナー』を基準にして初めて見えてくることだった。

 そうして、長く音楽を聴いてきた僕は、その小林が80年代に発表したソロアルバム『TESTA ROSSA』(89年)を思い出していた。小林は早い時期からデジタル・トラックとボーカルの関係を研究し続けてきたプロデューサーだ。その小林が久々にSalyuを全面プロデュースしたのは、今、この時点での人間性と人間に近いモノの差異を確かめてみたかったからではないかと思う。

 『TESTA ROSSA』はセールス的に成功したとは言えなかった。それは極端に言えば、音楽ファンがまだ「音楽における人間の優位」を疑わなかったからだ。だが、今はデジタルの楽しみを知っているリスナーが爆発的に増えている。

 さて、『Android & Human Being』はシーンにどんな風に受け入れられるのだろう。どちらにしても、Salyuというシンガー の特異さを見せつけられるアルバムだ。

【文:平山雄一】

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リリース情報

Android & Human Being(初回限定盤 )[CD+ LIVE CD]

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Android & Human Being(初回限定盤 )[CD+ LIVE CD]

発売日: 2015年04月22日

価格: ¥ 3,200(本体)+税

レーベル: トイズファクトリー

収録曲

[CD]
1. 先回りして 1
2. 非常階段の下
3. リスク
4. 心の種
5. 有刺鉄線
6. 先回りして 2
7. フェスタリア
8. カナタ
9. THE RAIN
10. 希望という名の灯り
11. 先回りして 3
12. アイニユケル

[LIVE CD]
「a brand new concert issue " m i n i m a " - ミニマ - Salyu × 小林武史 vol.2」ライブ音源を一部収録

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