レビュー

コブクロ | 2015.12.10

 コブクロをデビュー直後から見守ってきた人間の一人として、彼らには常に、ふたつの正反対のことを期待してきた。それは「らしさ」と「らしからぬ」、である。前者はまさに、コブクロの音楽性のメインストリームたる作品への期待であり、後者はこれまでにない新生面に対する支持表明だ。で、今回の新曲「未来」だが、誤魔化しの一切無い、まさに至高のバラードであり、どちらかというと彼らの唯一無二の「らしさ」こそが発揮されたものではなかろうか。

 リリカルなピアノのイントロは、途中で表情を変え、二人の芳醇な歌心への先導役としてまさに適任であり、そして“♪僕が夢を…”と、Aメロを歌い始めるのは小渕である。彼が“先鋒”を務めるコブクロ作品には、僕が勝手に感じているある傾向として、“ぽっ”、がある。“ぽっ”、とはつまり、気がつけば何かが静かに灯り、心に温かさが少しづつ伝わるということ。そして黒田の声が重なると、景色が一気に広がっていき、いま、自分がいる場所を俯瞰で感じ取れている気分にもなる。

 ふと、気になる言葉が耳に届く。音(おん)で聞いて気になって、歌詞カードで確かめると、“片恋風”と表記されている。この恋は、簡単に成就しそうもないものだということが、まさにこのワードに象徴される。そして“枝”が重要な比喩を担い、歌のなかに響いている。歌詞にある通り、その先に彼女の未来はあるのだろうけど、しかしそれはか細い…。もしや“枝”とは命のことなのか…。いや“枝”は少しづつ伸びるものだろうから、時間を司るものとして、歌に登場させているのかもしれない。“枝”と“枝”はそう簡単に交わろうとはしない。なお作詞は小渕。曲・編曲は小渕と黒田が担っている。やがて“枝”に“風”という動きあるものが対比として登場し、さら「風」は「雨」を抱き、歌はクライマックスへ向け、想いを高めていく。

 ジャケットも話題である。ここに見られる構図は、「桜」の時のデザインをモチーフにしている。彼らの背後の木も、ずいぶん枝を伸ばしたことが見て取れる。これはリリースから10年という歳月が流れたことを表わしているわけだ。となると「未来」は「桜」の後日談とも想像したけど、単純にそういうわけでもなさそうだ。なお、この楽曲は映画「orange-オレンジ-」の主題歌として書き下ろされたもので、10年という歳月に関しては、映画のストーリーともリンクするという。歌と映画がどう重なり合うかに関しては、映画館で確かめて欲しい。二人の歌唱を聴いていて、ひとつ感じたことがあった。特に共にシャウトする場面だが、ふたつの声が「強さ」というより「滑らかさ」を目指しているように思えたのだ。それがあってのことなのか、「未来」は聞き終わった後の余韻が長い。深く長く、心の奥に留まるような、そんな印象の作品なのだ。

【文:小貫信昭】

tag一覧 シングル 男性ボーカル コブクロ

リリース情報

未来

未来

発売日: 2015年12月16日

価格: ¥ 555(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

1.未来
2.未来(Instrumental)

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