レビュー

サカナクション | 2016.10.19

サカナクションが示す現代日本文化の多様性

 念願だった野外オールナイト複合カルチャーイベント「SAKANATRIBE」を北海道で開催(2016年7月17日)。また音楽以外のクリエイター、アーティストも参加しているクラブイベント「NF」を継続する一方、山口一郎が「au×HAKUTO MOON CHALLENGE」、「サッポロ生ビール黒ラベル」(“大人のエレベーター”シリーズ)といったCMに出演するなど、幅広いジャンルとメディアで意欲的なトライアルを続けているサカナクション。デビュー以来“アンダーグラウンドとオーバーグランドの架け橋”“他ジャンルのクリエイターとのコラボレーション”などのテーマを掲げてきた彼らはここにきて、あらゆるカルチャーを繋ぐハブとしての存在感をさらに強めている印象があるが、そのスタンスの現時点における集大成とも言えるのが今回のシングル作品だ。

 まず特筆すべきは、各楽曲のコンセプトの明確さ。リードトラック「多分、風。」では、“フォーキーな旋律とクラブミュージックの融合”というこのバンドのもっともベーシックなスタイルを改めて提示。ポップミュージックのもっとも大事な要素のひとつである“聴いたことある気がするけど、どこか新しい”というバランスを端的に示しているのだ。またカップリング曲「moon」では、昨年からトレンドとなっているトロピカル・ハウスのテイストを取り入れつつ、サカナクションらしい和的なコーラスを加えることで、新たなライブアンセムにもなり得る楽曲へと結びつけている。

 3曲目には80年代からハウス・ミュージックのDJとしても活動を続けている藤原ヒロシのリミックスによる「ルーキー(Hiroshi Fujiwara Remix)」を収録。ジャケットのアートワークには、コム デ ギャルソン、パルコの広告ほか、YMOをはじめとする数多くのジャケットデザインで優れた才能を発揮してきた井上嗣也を起用するなど、日本のカルチャーを牽引してきたクリエイターとのコラボも実現させている。さらに完全限定盤に収録される映像作品では、ぼくのりりっくのぼうよみ、モデルのLUKAを招いたスタジオ・セッション、「BARサカナクション」と題したバラエティ番組風の企画も。“ここまでやる?!”と言いたくなるような充実ぶりだが、本作のクリエイティブの核になっているのは、山口一郎を中心とするメンバーの“あらゆる人たちに日本のカルチャーの魅力を知ってほしい”という意思の表れなのだと思う。来年2017年はデビュー10周年。極限まで細分化してしまったカルチャーを複合的に捉え、その多様性をプレゼンし続けてきたサカナクションは、この国のエンターテインメント・シーンに再び大きなうねりを生み出すことになる。このシングルは、その最初の起点になるはずだ。

【文:森 朋之】

リリース情報

多分、風。

多分、風。

発売日: 2016年10月19日

価格: ¥ 1,200(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

1.多分、風。
2.moon
3.ルーキー(Hiroshi Fujiwara Remix)

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