レビュー

パスピエ | 2016.11.22

 ミニアルバム『わたし開花したわ』でCDデビューしてからちょうど5周年を迎える11月23日にリリースされるニューシングル「メーデー」。瑞々しいメロディが胸に深く染みる「月暈」、『わたし開花したわ』の曲の数々をダイナミックに再構築した「わたし開花したわ re(mind)mix」――カップリングの2曲が大いにワクワクさせてくれるのはもちろん、タイトル曲「メーデー」の威力にも圧倒的なものがある。この「メーデー」を聴いて何よりも伝わってくるのは、“いてもたってもいられない”という様子の、何かがハチ切れんばかりの猛烈なエネルギーだ。追いかけても追いかけても、完璧な形では実現することのできない理想。いつまで経っても、まだまだはるか先に存在し続ける目標。手にしたと思ったら、途端に色褪せていく夢……ゴールなんてまったく存在しない日々を必死に駆け抜けている人物の胸の内を見るかのような印象がするこの曲を、パスピエというロックバンドの実像と結びつけて解釈しても、おそらく強引なこじつけにはならないないだろう。ガムシャラに何かをつかもうとしている人だけが鳴らすことのできる生命力に満ちた鼓動、力強い足音を聞くかのような清々しさが、この曲には脈打っている。

 また、サウンドの切れ味も素晴らしい。抑制と炸裂を巧みに連鎖させながら高鳴っていく「メーデー」の全体像は、素晴らしいプレイヤー揃いのパスピエだからこそ描き得るドラマチックさの塊だ。各楽器のフレーズを効果的に絡み合わせ、歌声とメロディを最大限に際立たせるアレンジには、緻密な構築美がとことん貫かれている。しかし、安定感たっぷりの骨組みに肉付けをする細かなプレイは、時折、荒ぶったエモーションをほとばしらせているのが面白い。このような“論理性/衝動性”とでも言うべき対照的な要素の結合は、パスピエの音楽の重要な核と言って良いだろう。隙のない理詰めの弁舌を繰り広げる人物が、とどめの一発として鮮やかなアッパーカットで敵を打ち倒すかのような痛快さを、彼らは度々噛み締めさせてくれる。

 そして、パスピエならではの作風に関して、もうひとつぜひ触れておきたいのは“懐かしさ”とでも言うべき独特な趣だ。様々な音色が鳴り響き、斬新なアレンジが施されている彼らの音楽は、紛れもなく“最先端”。しかし、どこか和を感じる旋律、優雅な響きの言葉、イマジネーションをくすぐるモチーフを連鎖させながら、安らぎを覚える柔らかな肌触りもたっぷりと醸し出している。パスピエならではのこの不思議な味わいと重なる言葉として挙げられるのは“レトロフューチャー”だ。「永すぎた春/ハイパーリアリスト」の取材をした時、成田ハネダ(Keyboard)との会話の中でなんとなく浮上した言葉なのだが、はっとさせられるものがあった。科学技術の進歩が実現する現実世界の未来ではなく、人間の自由な空想と憧れが描き出すファンタジー的な未来像=レトロフューチャー。そういう人肌のロマンチシズムはパスピエの音楽を語る上で見逃せない部分であり、「メーデー」にも最大限に注ぎ込まれている。

【文:田中 大】

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リリース情報

メーデー

メーデー

発売日: 2016年11月23日

価格: ¥ 1,000(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

01.メーデー
02.月暈
03.わたし開花したわ re(mind)mix

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