レビュー

コブクロ | 2017.05.24

 「心」はコブクロの作品のなかでも、実に斬新なアプロ-チが光る一曲である。まず、通常のポップ・ソングでAメロと呼ばれる冒頭のモチ-フが、曲全体を通じてもっとも印象的というか、そのメロディを中心にその変奏により曲が構成されていると言ってもいい。小渕と黒田の歌は、ブル-ブラックのインクで書いた万年筆の文字のごとくハッキリドッシリしていて、聴く者の胸に深く深く浸透していく。抑揚による感情表現というより、常に一定以上の感情が、熱く豊かに声から溢れてくる印象なのだ。

 歌詞はさらに斬新である。「僕」と「君」という人称代名詞が出てくるのだけど、一般的にラヴ・ソングで用いられる男女の関係ではなく、どうやらこれは、体(「僕」)と心(「君」)のことのようなのだ。前半は、そんな「僕」から「君」への呼び掛けとして進んでいく。
 映画『ちょっと今から仕事やめてくる』の主題歌として書き下ろされた作品である。この映画、タイトルは軽妙だが、重たいテ-マを描く。世の中にまん延し社会問題ともなっている過重労働に対し、一石を投じる内容なのである。小渕にはサラリ-マンの経験があり、その時、「心」と「体」がバランスを崩しながらも仕事を続けざるを得なかった日々もあったそうだ。その時の実感が、歌詞に反映されているのだろう。

 でも、果たして人間のなかで、このふたつは別々に存在し、それぞれ「僕」と「君」と呼び合うことができる関係だろうか。この歌を聴いていくと、ひとつの回答が示される。それは“閉じこもっていた”のはてっきり“心”だから、それをなんとか救い出そうと思っていた“体”が、間違いに気づく場面だ。逆だった、と、気づくわけである。実際に歌を聴いていると、このあたりで確実に感涙であるけれど、実はこの歌には「僕」と「君」以外にもう“ひとり”の登場人物がいて、それは「涙」である(出番はワン・シ-ンのみだけど…)。終盤、“星を手に”から一気に天空へとイメ-ジを広げるあたりは、実に天晴れな曲の構成力と言えるだろう。

 NAOTOと共演したMVも最高だ。胸のざわめきを具象化したような背景の映像と、ミディアムバラ-ドの曲調なれど、それを何倍速かでスキャンしつつ心の声を聞き取り五体を躍動させるかのようなNAOTO…。小渕と黒田が歌い、それは声と肉体の真剣な“セッション”にも思える。2017年、非常に印象的なMVとして残るだろう。

【文:小貫信昭】

リリース情報

心[初回限定盤]

心[初回限定盤]

発売日: 2017年05月24日

価格: ¥ 2,800(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

01 心
02 HELLO, NEW DAY
03 LIFE
04 心 (Instrumental)
05 HELLO, NEW DAY (Instrumental)
06 LIFE (Instrumental)

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