レビュー

BUCK-TICK | 2018.03.12

 BUCK-TICKのデビュー30周年記念作品の、いよいよ真打登場だ。それは21作目になるアルバム『No.0』。不動のメンバーで続けてきた5人が渾身の力で作り出した、まぎれもない最高傑作である。

 あまりにシンプルなタイトルだが、だからこそ様々な想像を掻き立てられる。前作が『アトム 未来派 No.9』であったことを思えば、30周年を迎えて数字は一回りし、ゼロにリセットされたように受け取れるのは、継続し積み重ねるだけでなく新たな蓄積へ向かうという表明だろうか。タイトルだけですでに刺激的だ。

 先にリリースされているシングル曲「BABEL」「Moon さよならを教えて」「サロメ-femme fatale-」を含む全12曲。どれもBUCK-TICK以外に作り出し得ない楽曲でありサウンドなのは言うまでもなく、どの曲もアルバム・タイトルと同様に多面的な解釈を呼んで楽しませ混乱させ考えさせてくれる。これまでの作品もそうだったが、様々なモチーフを散りばめてカラフルに彩りながら、楽曲に深みを与えていく彼らのスタイルの真骨頂が本作だ。

 重厚に官能の扉を開く「零式13型「愛」」から「美醜LOVE」に続く序章では、今井寿ならではのサウンドとヴィジョンに引き込まれ、櫻井敦司が猫とじゃれあうように歌う「GUSTAVE」が、続く「Moon さよならを教えて」へ誘う。一転してハードなサウンドに星野英彦が挑んだ「薔薇色十字団-Rosen Kreuzer-」「サロメ-femme fatale-」がスピード感のある流れを作り出し、シェークスピア戯曲あるいはそれを題材にした有名な絵画を思わせる幻想的な歌が印象的な「Ophelia」へと進ませる。中盤に続くポップな「光の帝国」、森鴎外の小説へのオマージュめいたタイトルで語り調の歌詞が構築的なサウンドとともに緊張感を作り出す「ノスタルジア-ヰタメカニカリス-」、アグレッシヴな「IGNITER」は詞・曲とも手がけた今井寿の独壇場。「IGNITER」では今井自らヴォーカルも取りシンガーとしての成長ぶりも感じさせるが、これも30年の歴史の重要な一部だ。

 ヘヴィな「BABEL」、優しげな「ゲルニカの夜」が続く終盤は意味深長だ。前者は旧約聖書にある伝説、後者は有名なピカソの絵画を連想させるが、どちらも人間の愚かさを象徴したものと言えるだろう。だが櫻井はそれを弾劾するのではなく、人間の無力さや犠牲となった名もなき人々の悲しみに寄り添っていく。そしてラストを飾る「胎内回帰」は、ここまでの全ての物語を引き受けて沖縄を舞台に今の我々に最も身近な歴史の1ページに耳を傾けさせる。この30年の間に楽曲を作り演奏し歌うことで彼らが見聞きし感じてきたことを、素晴らしい形で伝えているのが『No.0』なのだ。

 30年の間に培ってきた彼らの持つ美意識や矜持といったものが、彼らなりの歴史観を滲ませながら楽曲をポップかつ華麗に聴かせている。歌詞に過去の作品のタイトルを忍び込ませるなど遊び心も感じさせながら、このような作品を作り上げ、ここからまた新たなスタートを切るBUCK-TICKというバンドの、底力といったものに圧倒される思いがする。

【文:今井 智子】

リリース情報

No. 0

No. 0

発売日: 2018年03月14日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: Getting Better Records

収録曲

01. 零式13型「愛」
02. 美醜LOVE
03. GUSTAVE
04. Moon さよならを教えて
05. 薔薇色十字団 - Rosen Kreuzer -
06. サロメ - femme fatale -
07. Ophelia
08. 光の帝国
09. ノスタルジア - ヰタ メカニカリス -
10. IGNITER
11. BABEL
12. ゲルニカの夜
13. 胎内回帰

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