レビュー

SIRUP | 2019.05.28

 あれ、そういえばフルアルバムってまだだったんだっけ?……と思うくらい、この1年半ぐらいはSIRUPの歌をよく聴いていた気がする。自身の楽曲はもちろん客演も多く、常に何かしら新しいトラックが耳に飛び込んでくるみたいな状況で、それはつまりこのシンガーに対する注目度がとても高いということなのだろう。そんな注目のなか満を持してドロップされるアルバムは、ファンはもちろん業界を含めた周辺からの期待に何よりも歌のクオリティにおいて見事に応える作品となった。

 男性も女性も含めて、R&Bやソウルミュージック、ヒップホップ――ざっくりと「ブラックミュージック」と呼んでしまうが――を歌うシンガーやシンガーソングライターがメジャー/インディーを問わず続々頭角を現している現在。それは海外のシーンとのリンクという面から捉えることも当然可能だが、僕はむしろこの動きを「歌」の復権のひとつの形として受け止めている。バンドミュージックでもなく、アイドルポップでもなく、ラップでもない「歌」がポップミュージックの真ん中に帰ってこようとしている、そんな大きな波の表れのある部分なのではないか、と。

 そういう意味で、SIRUPのナチュラルな歌のうまさというのは、シーンやジャンルを飛び越えてブレイクスルーを果たすポテンシャルをものすごく感じる。アルバム全12曲、既発の「Do Well」や「LOOP」など新録曲を通して聴いて、改めてその実感を強くした。「ナチュラル」というのはクセがないということだ。たとえば今作でTENDREをフィーチャーした「PLAY」あたりを聴くと、TENDREとSIRUP、ふたりの歌の違いをはっきり感じられるだろう。どちらも素晴らしい歌い手だが、SIRUPの歌はどこまでもスムースで、メロディやグルーヴに杭を打ち込んでいくというよりも、その上を軽やかにサーフしていくように耳のなかへ流れ込んでくる。ある意味で記名性が薄い、しかしそのことがかえって彼の強烈な個性になっている。

 それゆえSIRUPはこれだけ客演に呼ばれるのだろうし、今作にもバラエティ豊かなクリエイターが集っているのだろう。そして、その「クセのなさ」は、この先のSIRUPの可能性の底知れなさにもつながっている。かつてKYOtaroとして歌っていたころと、SIRUPとして活動している今では、もちろん通底するものはありつつもイメージも実際のプロダクションも変わっている。ということはこの先、彼はさらに変わっていくことができるということでもある。ポップシンガーとしてメインストリームに切り込んでいく日は近いのかもしれない。

【文:小川智宏】

リリース情報

FEEL GOOD

FEEL GOOD

発売日: 2019年05月29日

価格: ¥ 2,800(本体)+税

レーベル: A.S.A.B / Suppage Records

収録曲

01.Pool
02.Do Well
03.Why
04.Rain
05.Evergreen
06.Slow Dance feat.BIM
07.Synapse
08.CRAZY
09.PRAYER
10.SWIM
11.PLAY feat. TENDRE
12.LOOP

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